アタック失敗の可夢偉を立ち直らせた1本の電話「気負わず、思いっきりやってくれ」/ル・マン24時間

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2024年06月13日 23:50  AUTOSPORT web

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7号車トヨタGR010ハイブリッドをドライブする小林可夢偉
 アタック終盤、カーティングコーナーでスピンアウトしてグラベルに埋まった7号車トヨタGR010ハイブリッド。赤旗の原因となったことで予選の全ラップタイム抹消という裁定を受けた小林可夢偉が、一夜明けたサルト・サーキットで、予選セッションを振り返った。

■「面白いレースを見せられるんじゃないか」

 12日に行われたWEC世界耐久選手権第4戦ル・マン24時間レースの予選でアタックを担当した可夢偉は、セッション終盤、最終セクターでコースオフ。その時点で4番手と、最終予選『ハイパーポール』への進出圏内にいたが、ラップタイム抹消により予選での敗退と、決勝ではクラス最後尾からスタートすることが決まった。

「ペース的には悪くなくて、ポールも獲れていたのではないかという状態だったのですが、赤旗(原因)で全ラップが削除されるという……ポールを獲るチャンスがなくなったのは残念ですけど、それ以外は全力で戦うしかないかなと思いますね」と吹っ切れたような表情で語る可夢偉。

 ポルシェカーブから脱出、最終フォードシケインへと向かう左高速コーナーでのスピンとなったわけだが、原因はイン側の縁石への「乗りすぎ」。それまでに残していたタイムを縮めようと、トラフィックの合間を縫って終盤まで果敢にアタックを続けた結果であった。

「セクター1もよかったし、2も悪くなかった。あとコンマ1秒あげられるかどうかくらいのところでしたね」

 まさかのアタック失敗、そして全ラップ削除という裁定に、百戦錬磨の可夢偉の心もさすがに沈んだという。ましてや、いちドライバーだけでなく、チーム代表として全体を引っ張らなければならない立場でもあり、その振る舞いは組織全体の雰囲気にも影響する。

 そんな可夢偉を救ったのは、1本の電話だった。

「正直、『つれぇな』という感じでしたけど、なんとモリゾウさん(豊田章男トヨタ自動車会長)からすぐに電話が来て、『あんまり気負わずに、思いっきりやってくれ』と。『このチームは可夢偉が(代表として)やっているんだから、可夢偉が好きなようにやってくれ』とご連絡いただけて、心からありがたいなと思いました。やっぱりどんな状態でも勝利には挑戦したいから、1%でも勝つ可能性を上げるために何をするか考えよう、と気持ちを切り替えましたね」

 予選ではBMW Mハイブリッド V8が最速、アルピーヌA424も上位に進出、反対にポルシェ963勢がトップ8に2台しか残らないなど、今季ここまでとは異なる勢力図が見られた。

「(勢力図は)分からないですよ。まぁ、みんな三味線弾きまくりだな、っていうのが本音ですかね。アルピーヌもBMWも、いままでこんな速さ見せてないじゃないですか」

 ここへきて勢力図は水面下でうごめいている不気味な印象を受けるが、トヨタとしては、同じくハイパーポールを逃した8号車含め、マシンのセットアップが比較的順調に進んでいることは、ポジティブな要素のよう。

「別に遅いわけではなくて、いい走りができているけど最後の詰めの部分、『これ以上やったら(攻めたら)やばいぞ』という判断の部分が、正直うまくマネジメントできていなかったことが自分の後悔ではあるのですが、これがレースでもあるし、まだレースが終わったわけはないので、24時間しっかりレースができるようにしたいと思っています」

「レースペースもそんなに悪くないんじゃないかと思っているので、巻き返しは充分可能ではないかと思いますし、(ハイパーカー最後方グリッドの)23番手からのスタートというのは、面白いレースを見せられるんじゃないかと思います」

■2日目からの課題は“風向き”?

 一方、ブレンドン・ハートレーがアタックした8号車も11番手とハイパーポール進出は逃す結果に。アタックを見守っていた平川亮は「トラフィックが多い予選になることは予想はついていたので、僕らはもう祈ることしかできませんでした」と振り返る。

「チャンスが1周か2周しかないなかでうまくまとめられず、その後は(トラフィックに)引っかかったり、最後は赤旗でアタックできなかったり、(アウトラップでの)スピンもあったり……FP1、FP2とどちらもトップで、クルマのパフォーマンス自体は悪くなかったので、悔しいですね」と、7号車可夢偉同様に、セットアップには手応えを感じているようだ。

 全体的な勢力図の変化については、「(ライバルたちが)ようやく本領発揮してきたんだろうな、ということではないかと思います」と語るにとどめた平川だが、接近して走るなかでは、決勝レースも展望できているようだ。

「ポルシェはとくにストレートがあまり速くないので、オーバーテイクという意味では、レースしやすいですかね。昨日、僕はフェラーリの後ろを走っている時間帯があったのですが、トップスピードが同じくらいなので、抜くのはすごく難しい。でも、ポルシェは何回か抜いているので」

 ただし、2日目に向けては、コンディションの変化が気にかかるという。初日は北風が吹き、サルト・サーキット随一の高速コーナリング区間であるポルシェコーナーでは向かい風。これが2日目の走行を迎える時点では、追い風へと変化している。平川によれば、決勝までこの風向きは維持される見込みとのこと。

「高速コーナーがまだあまり得意ではなくて、(初日までは)風向きに助けられている部分もあるかもしれません。今日(2日目)は追い風なので、まずはクルマ含めてアジャストしないといけませんね。高速コーナーがつらいとタイヤにも厳しいですし、3スティント、4スティントすると考えると、そこはクルマをうまくまとめないと勝負権がないと思うので、まずはクルマをしっかりと合わせていきたいです」

 ここまではテストデーからドライコンディションでの走行が続いているが、「レースは雨が絡むのは間違いなさそうなので、リスクマネジメントしつつ、“神頼み”も少ししつつ、自分たちの力を最大限発揮できれば結果は出ると思うので、まだ諦めてはいません」と平川。

 グリッド中団、そして後方からのスタートは決定しているものの、トヨタの2台の上位進出は不可能ではなさそうだ。

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