今後どうなる? 作った電気がムダになる再エネの「出力制御」 解決策は?

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2024年07月10日 16:31  ITmedia NEWS

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 今年もまた、再エネでもめる時期が近づいて来た。2023年は、太陽光発電した電力が使い切れず、ソーラー発電事業者に無駄に電気を捨てさせるという「出力制御」が過去最高を記録したのも記憶に新しいところだ。


【画像を見る】再エネ電気を捨てる「出力制御」の政府資料がこちら(計10枚)


 電力需要の増減に対して発電量を調整はするのだが、それでも下げきれないために太陽光発電を止めることになる。どれを止めるかは順序が決まっており、まず火力をさげ、それでもだめなら他地域へ送電、次いでバイオマスとなり、4番目に太陽光・風力が来る。そうとういろいろやってもダメだったわけだ。


 ソーラー発電は事業者もどんどん増えており、それを受け入れるのは系統電力会社になる。これまで出力制御が必要だったのは九州電力だけだったが、22年度から徐々に他の電力会社でも実施されるようになった。特に大きかったのが23年4月と5月で、その半分以上が九州電力となっている。


 九州電力では原発もそれほど止めていないのでベースロード電源比率が高いのに加え、天候にも恵まれるのでソーラー発電量が多くなる。ある程度は仕方がないとはいえ、東日本大震災で全国的に電力不安を経験したわれわれからすれば、無駄に電気を捨てるというのは、何のための再エネなのかという思いもある。


 世界的に見れば、再エネ比率が増えれば出力制御は増えるので、日本はまだ大したことないとする説もあるが、アイルランドは結構ひどいことになっている一方で、スペインやドイツのように、一定量で押さえられているところもある。


 もっともヨーロッパ大陸にある国々は電力網でもつながっているので、各国で連携して融通が効かせられるという面もある。一方アイルランドの電力網はイギリスとはつながってはいるものの、しょせんは両方とも島国なので、ヨーロッパ大陸とはつながっていない。日本も将来的には似たような状況になりかねない。


●島国「日本」での解決策は?


 そうした傾向をにらんで、日本では22年に電気事業法を改正し、電力系統に直接接続する「系統用蓄電池」を運営する大規模事業者も一種の発電事業と位置付け、発電同様の扱いにして発展を促すことになった。


 要は昼間にあまった再エネは系統用蓄電池で吸って、夜に吐き出すというバッファーを多く作れば、無駄にはならないというわけである。


 海外では、米国カリフォルニアの電力会社CAISOで、24年4月16日に史上初めて蓄電池からの放電が管内で最大の供給源になった。最大になったのは午後8時で、昼間にためた電力を吐き出した結果である。


 またミネソタ州では23年に鉄空気電池を用いたエネルギー貯蔵システムの構築を承認し、電力供給の安定化を図ろうとしている。


 こうした巨大蓄電池導入は世界中で急速に拡がっており、特に2023年の中国の伸びはエグいことになっている。30年には23年の6倍に増加すると試算されている。


 日本も法整備して力をいれてはいるが、23年は間に合わなかった。おそらく24年もまだ間に合わないだろう。


●これから起こること


 系統電力用蓄電池としてすでに実用化されているものには、揚水発電やNAS電池、燃料電池、上記の例もあるように鉄空気電池などがある。これは容量だけでなく、応答速度や入出力量など、性質が違うものを組み合わせて使用する必要がある。


 東京電力ホールディングスが開発している貯蔵システムは、電力を水素に変換して特殊合金に貯蔵する仕組みだ。やっていることは水の電気分解である。水の電気分解の逆をやるのが燃料電池で、水素と酸素を結合させて電力を得る。


 このシステム内では逆動作は想定しておらず、できた水素は別途燃料電池の材料となるようだ。従って、充放電を1台でやる蓄電池とはちょっと違う。実用化は27年頃という見込みで、まだ3年近くある。


 日本発の技術として注目を集めるペロブスカイト太陽電池の実用化は、早くて25年ごろといわれている。これが普及すれば、ますますソーラー発電比率は高くなる。それまでに出力制御問題解決の光明が見いだせなければ、普及は難しくなるだろう。


 欧米ですでに起こっているのが、いわゆる電力の逆ざやだ。余った電力は電力会社が売るのではなく、むしろお金を払って引き取ってもらうという「ネガティブプライス」である。消費者としては、電気を使うとお金ももらえるというわけだ。


 経済産業省の再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会で配布された資料では、ネガティブプライスには一定の効果があると評価しつつも、日本では関連する諸制度との整合性がどうのこうのと書かれており、要するに「それだけはやりたくないんです」という意識が垣間見える。


 他方で、電力バッファーを事業者のみに頼るのではなく、家庭でもやれないかという動きもある。もっとも可能性があるのが、DR機能付きのヒートポンプ給湯器だ。早い話が「エコキュート」である。


 DRとはDemand Responseの略で、系統電力の需給バランスに応じてエコキュートの稼働を制御する機能である。「上げDR」は電力が余っている時間に稼働させてお湯を沸かす。「下げDR」は電力が足りない時間帯に稼働を抑制する。


 現在ヒートポンプ給湯器にはDR化へ向けた目標基準がないため、メーカーや機種によってDR機能があったりなかったりしているところだが、今後はなんらかの制度化が行われるだろう。


 エコキュート自体も古いものがたくさんにある。そもそもは深夜電力でお湯を沸かす機器なので、昼間の電力使用量に制限がかかっているものもある。さらには深夜電力も次第に値上がりしており、大半の電力会社では新規加入を停止しているとあって、時代に合わなくなってきている。


 だからDR対応の新モデルを、という流れだが、初期投資が高い、既存設備の入れ替えは大掛かりということもあり、助成金を厚めにしないと入れ替えはなかなか起こらないだろう。


●「家庭用大型蓄電池」が日本の現実解?


 個人的にはそうした固定設備ではなく、家庭用大型蓄電池のほうが未来があるのではないかと思っている。2023年には、チリウムイオン電池を用いた蓄電設備の容量増加に対応すべく、消防関連法令が改正された。実質的に消防への届け出が不要な容量が約2倍に緩和された格好だ。


 例えば24年1月に登場したEcoFlowの「DELTA Pro Ultra」は、固定買い取り制度(FIT)が終了した家庭向けのポータブルバッテリーで、エクストラバッテリー5個連結すると、最大容量は30kWhにもなる。改正された関連法令の基準でも消防への届け出が必要な容量だが、実際には届け出は不要である。


 なぜならば、「ポータブル」だからだ。上記の届け出が必要は蓄電池設備とは、固定式蓄電池のことなのである。固定式であれば、津波や洪水といった水没事故から逃げられない。だがポータブルなら、外して持って逃げろという話なのである。


 なんだかインチキ臭い話のように聞こえるが、例えばEV車のバッテリー容量はだいたい71.4kWhぐらいあり、「DELTA Pro Ultra」の2倍以上ある。だがEV車購入時に消防への届け出がいらないのは、固定されていないからである。一方EV車への急速充電設備は、届け出が必要である。固定されているからだ。


 EcoFlowのバッテリーは、BluetoothとWi-Fiに対応しており、スマホアプリから遠隔操作が可能だ。例えば決まった時間に充電・放電するといったスケジュールが決められる。


 こうした機能は、系統電力の需給バランスと連動することも可能だろう。すでに電力会社では、需給バランスを平たん化する取り組みとして、余剰電力を使ったとき、電力逼迫(ひっぱく)時に節電したときにポイントがたまるサービスを展開している。


 こうした施策は、急に電気を使え、使うなといわれても生活サイクルは変えられないとして、効果を疑問視する声もある。だがバッテリーへの充放電を連動させれば、無理に電気を使ったり節電したりする必要もない。リモートでバッテリーを動かしているだけでポイントがたまるわけである。


 現在はまだ、双方のAPIが整備されていないため自動化ができていないが、要するに系統電力の情報とバッテリーの制御系の両方を見比べる仕組みがあれば済む話である。電力会社や企業がやらなくても、消費者側が自分で開発できる。そうした民間のパワーを使った方が、国の施策を待っているより全然早いのではないか。


 据え置き型の家庭用蓄電池は100〜200万円と高額なので、導入に補助金が出るケースもあるが、審査書類が複雑で、自分で出せる人は少ない。別途行政書士などにお金を払って依頼するケースが多いだろう。また入金までに10カ月前後待たされた例もある。


 一方ポータブルバッテリーは、補助金は出ないがそもそも100万円もしない。この5月に発売した中型のEco Flow「DELTA Pro 3」は、単体で約54万円である。


 出力制御に対する政府の施策が効果を発揮するまで、まだ数年はかかる。その前に個人でやれることを探してやり始めるのも、1つの解決方法だろう。


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  • 捨てていて、新しく作らなければ逼迫する非常に売る側に有利な状況。効率の良い仕組みを作らなければ、高い電気を買い続ける事になる。
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