国の税収が72兆円超えで過去最高!…なのに今後の日本財政が不安な理由

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2024年07月14日 21:00  まいどなニュース

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まいどなニュース

財務省(oka/stock.adobe.com)

昨年度の国の税収が72兆円を上回り、過去最高額となる見込みです。今のところ日本経済の調子が良いしらせであると言えるでしょう。最高額となった税収を使って、政府の取り組みを増やしてほしい、もっと減税してほしい、との声も聞こえます。しかし一方で、税金がたくさん集まったにもかかわらず、これからの日本財政は楽観視できないとも言われています。税収が順調に増えているのに、なぜ財政に不安があるのでしょうか。

【グラフ】法人・所得税収の予想以上の伸びが、税収を過去最高に押し上げました

将来の日本財政に対して慎重になるべき理由を2つ紹介します。1つめは、少子高齢化によって財政状況が厳しくなると見込まれることです。高齢化が進むことで、年金や医療は今後もますます必要です。一方で現役世代の人口は大きく減少していくため、財源となる今後の税収は減っていく傾向にあります。また、インフレが進むと実質的な税収が目減りするのがもう1つの理由です。税収が順調に集まっているうちに、将来の財政運営のあり方について議論を進める必要があります。

なぜ税収が過去最高額に達したのか?

まず税収が過去最高額に達した背景を見ていきましょう。令和5年度の決算概要の見込み(財務省)を見ると、税収は予算から2.4兆円程度上ぶれし、72兆円を上回りました。予算を上回る税収となった大きな要因は法人税と所得税です。法人税収は予算を7.6%上回り15.8兆円となりました。また、所得税も予算を3.5%上回り、21.8兆円の収入となりました。法人・所得税収の予想以上ののびが、税収を過去最高に押し上げることに貢献しています。

法人税が予想以上に大きくなった背景には、企業の経常利益が順調に伸びてきたことがあげられます。法人企業統計(財務省)によると、新型コロナが広がった時期を除けば、経常利益は順調にのび続けています。その結果、令和5年度の経常利益は100兆円を超える大きさまで成長しました。その結果、法人税の課税ベースが増加し法人税収も伸びました。また、企業の活動が好調なのを受けて、所得や所得税収もあわせて増加したと考えられます。

一方で、消費税収はおおむね予算通りの金額でした。予算を上回る税収が得られたという意味では、消費税の影響は小さいようです。しかし、税収が過去最高になるほどに大きくなったのは、消費税の影響が大きいと考えられます。消費税はもっとも税収が大きい税目であり、また税収額の動きも安定しているためです。

税収額が過去最高なのに、なぜ日本財政に不安があるのか?

国の税収が最高額になったにもかかわらず、今後の財政状況には不安があると言われています。不安になる大きな理由を2つ紹介します。

一つめの理由は、少子高齢化による財政状況の悪化です。高齢化により、年金や医療を中心に社会保障への歳出が大きく増えていきそうです。日本の将来推計人口(社人研)の分析によると、2020〜50年度にかけて総人口が2千万人ほど減る一方で、65歳以上人口は緩やかに増加すると予想されています。高齢者がより高い年齢層にシフトし、一人当たり医療・介護費が急増してしまうという議論もあります。

一方で、少子化により総人口は減少していくため、税収額は減る傾向が強まります。15〜64歳人口は、2020〜50年度にかけて2千万人近く減ってしまうと推計されています。社会保障への歳出をカバーできるくらいの税収を達成するには、人口減を埋め合わせられるような労働生産性の向上が求められます。少子化と高齢化の影響により、政府の財政収支が悪化してしまうおそれが大きいです。

もう1つの理由として、インフレが進むことで実質的な税収は減ってしまう効果もあります。見た目の税収額が変わらなくても、物価が上がると政府が購入できる財・サービスは少なくなります。また給付金の価値も目減りするでしょう。2023〜24年の消費者物価指数(総務省)を見てみると、前年と比べて3%ほど物価が上昇しています。今のペースで物価が上がっていくならば、税収額も1年ごとに3%ずつ増え続けてやっと、過去と同じ水準となる公共サービスや給付金を受け取ることができるのです。

税収が過去最高額を達成したこと自体は、直近の日本経済が良い方向に向かっていることを意味します。しかし、日本の財政問題が根本的に解決したわけではありません。むしろこれから大きな課題に直面することになります。順調に税収をあげている今だからこそ、将来の日本経済・財政の姿を議論し、取り組みを進めていくべきです。

【参考】
▽財務省「令和5年度決算概要(見込み)」
▽財務省「法人企業統計」
▽国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
▽総務省「消費者物価指数」

   ◇   ◇

◆新居 理有(あらい・りある)龍谷大学経済学部准教授 1982年生まれ。京都大学にて博士(経済学)を修得。2011年から複数の大学に勤め、2023年から現職。主な専門分野はマクロ経済学や財政政策。大学教員として経済学の研究・教育に携わる一方で、ライターとして経済分野を中心に記事を執筆している。

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  • 税収のみでやり繰りする発想がナンセンス。国債で賄えばいい。財政破綻もハイパーインフレも心配ないのだから。
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