Q. 「激辛食品を食べると死ぬことがある」って本当ですか?
Q. 「東京都内で、『激辛チップス』を食べた高校生14人が搬送された、という報道がありました。あまりに辛い食べ物は危険で、死ぬこともあると注意喚起されていましたが、単に辛いというだけで、本当に人が死んでしまうことはあるのでしょうか?」A. 激辛食品の食べ過ぎは、命に関わることがあり危険です
今回搬送された高校生たちは、幸い全員が軽症で済んだと報じられています。しかし、あまりに辛いものを無理に食べると、本当に命に関わります。実際に海外では、2023年にアメリカの14歳の少年が、激辛チップスを食べた後に死亡した事例が伝えられています。激辛食品を食べた時に、私たちの体の中で何が起こりうるのか、わかりやすく解説してみたいと思います。
唐辛子の辛さの元は、よく知られている「カプサイシン」という成分です。少し専門的になりますが、カプサイシンを摂取すると、人体で温度センサーのような役割を果たしている「TRPV1」という分子が刺激され、灼熱感を覚えます。
知覚神経も刺激されるため、食べると「辛い」と感じますし、粘膜や傷ついた皮膚に触れると、触れた部位にヒリヒリとした刺激を感じます。
実は、カプサイシンを口にした時の感覚を「辛“味”」と表現するのは間違いです。塩味・酸味・甘味・苦味などの味覚は舌だけで感じられる「味」ですが、「辛さ」は味ではありません。
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つまり、辛さ(辛み)とは味のことではなく、「痛覚の一種」なのです。
ですから、激辛のものを食べるということは、刺激的な味を楽しむということでは済まず、自らの体を苦痛にさらし、負荷をかけることでもあるのです。
辛いものは少量ならば食欲を増すといったメリットもありますが、あまりに辛いものを大量に摂ると、体にとって危険であることは言うまでもありません。
そもそも私たちの体は、体に害を及ぼすものや状況に対して、苦痛を感じるようにできているからです。
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強く作用すると、頻脈、不整脈、心悸亢進などが起こります。心停止に至る恐れがあるのはこれらの作用のためです。
急な血圧上昇によって脳出血が起きたり、脳血管の異常な収縮によって脳梗塞が起きたり、腎血管の収縮により腎機能が停止する恐れもあります。
もともと心臓血管系などの基礎疾患のある方や、子どもや妊婦さんなどは、とくに気を付けて避けるべきです。
「辛すぎる」と感じたら、私たちは自ずと食べるのをやめます。体に備わったしくみが、知識がなくても危険を回避できるように、教えてくれているのです。
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阿部 和穂プロフィール
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))