鈴鹿8耐:EWC基準のSSTクラス初年度。転倒続出の序盤と表彰台争い、レース後車検での3チーム失格は何が要因だったのか

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2024年07月29日 21:00  AUTOSPORT web

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2024鈴鹿8耐:レース序盤のSSTクラストップ争い
 7月21日に開催された2024年の鈴鹿8時間耐久ロードレース。Formula EWCクラスのトップ争いが白熱したが、FIM世界耐久選手権(EWC)のレギュレーションに則ったSUPERSTOCK(SST)クラスとして開催されたのは今年が初年度となった。そのSSTクラスの例年との違いが何だったのかを分析する。

 2019年のEWCまで、SSTクラスは最終戦鈴鹿8耐を前に王者が決まり、鈴鹿8耐はWorld Cup(SSTクラス)のランキング対象外だった。コロナ明けの2022年もSSTではなくSsT、2023年はNSTKと日本独自のルールで、こちらも年間ランキングの対象にはなっていなかった。

 例えば、通常シリーズ戦のSSTクラスはダンロップタイヤのワンメイクだが、鈴鹿8耐のみ他メーカーのタイヤの使用ができたこと。SSTクラスの表彰式が鈴鹿8耐だけなかったこともそのためだ。

 また、マシンの規則もEWCのSSTクラスに則って作られて『改造不可』という文言もあったなか、全日本ロードST1000マシンを耐久仕様に変更したものが多く存在し、シリーズのポイントがかかっていなかったことでレース後の車検での細かいチェックが一度もなかった。当時はレース後車検はEWCクラスのみが対象とされていたため、SSTの改造範囲の線引きがわからないチームもあったままになっていた。

 ところが、2024年はEWCシリーズの一戦として、鈴鹿8耐のSSTクラスもヨーロッパ戦と同一のものになり、タイヤはダンロップのワンメイク、マシンもEWCのレギュレーションが適応され、レース後車検はSSTクラスのマシンをも対象とされた。

■EWC用ダンロップタイヤの特性
 ストッククラスでは、これまで多くのチームがブリヂストンタイヤで上位に入っていたが、初のSSTレギュレーションが日本の鈴鹿8耐にも適応されたことで、ワンメイクのダンロップタイヤに順応させることが必要となった。

 それゆえに、6月に開催された2回のテストからチームはタイヤの特性を探っていた。タイヤ自体はヨーロッパ戦はUKダンロップ、鈴鹿8耐では住友製のダンロップだったため、フル参戦チームも同様だ。

 タイヤコンパウンドは、フロントがミディアムとハードの中間の『H3』、ミディアムの『H2』の2種類。リヤがミディアムの『M1』、ハードの『H1』、ソフトの『QF』の3種類あった。ちなみにレイン用はフロントが『WA』、『WC』のワンパターンのみ。

 テストからリザルトを見ていた方はSSTクラスも2分07秒台を記録していて、本戦ではEWCクラスとも戦えるのではと考えていたかもしれないが、これは予選用タイヤ『QF』を使ったタイムだったからだ。このタイヤは合計4周(アタックラップ2周)を想定して作られたものだったため、レースに使用できる可能性はない。

 そうするとチームがテストで行う作業は、いかに1スティント約25周の合計タイム(アベレージタイム)を速く走りきるかということになる。6月4〜5日のテストではダンロップタイヤの特性を知り、6月19〜20日のテストでは気温が高いなかでのタイヤの垂れ具合を確かめるチームが多かった。しかし、レースウイークに入っても曇り空が多くて本当のタイヤ特性を知るチームは少なく、路面温度が約60度となった決勝の序盤でペースを上げて転倒していくチームが多くなった。

 結果的にTONE RT SYNCEDGE4413 BMW、Team Etoile、Taira Promote Racingのトップ3となったが、このチームに共通しているのがEWC経験が豊富なことと暑いなかでのダンロップタイヤの特性を理解しているということだ。

 TONEは全日本ロードでもダンロップタイヤの開発をしており、セパン8耐やボルドール24時間の参戦経験がある、2019年の鈴鹿8耐のストッククラス勝者だ。Team Etoileはフル参戦チームで、UKダンロップと住友ダンロップの違いはあれど、6月19〜20日とレースウイークでも予選用タイヤのテストはほとんど行わず、アベレージタイムの調整を常に気にかけて走っていた。Taira Promoteも全日本ロードではダンロップタイヤの開発、そして一部チームスタッフはヨーロッパ戦ではTeam Etoileに帯同しており、その特性を十分に理解していた。

 結果的に、この3台がいた集団のペースが決勝ではベストの選択肢だった。積み上げてきた経験値が活きたSSTクラス初年度らしいリザルトとなったが、2025年はこの3チームをマークするライバル勢が増えるだろう。今から一年後の戦い、そしてどのような対策をしていくのかに見応えがありそうだ。

■レース後車検での3チームが失格はガラパゴス化も引き金に
 上記で伝えた通り、SSTクラスはヨーロッパ戦と同一になり、マシン作りもEWCのレギュレーションに則ったものにしなければならない。また、大会事務局は4月8日時点で、7月22日のレース後車検について『2024年よりシリーズSSTとして開催されることで、FIMテクニカルチームによる管理下で検査を行います』とチームにインフォメーションをリリースしており、検査項目変化(多くなる)の旨も伝えていた。

 今回、レース後の車検では、後輪の車軸を接着剤で固定されていたり、アジャスターがテープで固定されていたためにスイングアームの改造として、リヤブレーキキャリパーがハンガーに固定されていたとして認められない改造としての事例があり、3チームが失格となった。

 例年と違い、今年のSSTクラスの規則に倣うことができなかったことでこのような結果となったが、実はこの事例は日本チームがこれまでよく使っていた手法だった。

 2019年の話になるが、セパン8耐に出場したとある日本チームが同様の仕様にしてレース会場にマシンを持ち込んだ。そのチームはレース前の車検に何点か指摘を受けて改修ののち合格したが、気になったために車検員に隅々までみて欲しいと要望。すると、レース後車検では、車検長が、『自分が見逃したから今回は問題ない』という判断を下していたのだ。

 当時のセパン8耐は鈴鹿8耐の出場資格をかけた戦いでもあり、日本チームへのロジスティックの優遇はあったが、レギュレーションは守る必要はもちろんあった。ただ、上位に入賞しなかったチームのレース後車検がなかったので見逃されていた可能性が高い、というここ数年に擦り合わせができていなかった流れがある。

 問題は鈴鹿8耐のみにSSTクラスを適応してこなかったことによるガラパゴス化と言えるだろう。それが浮き彫りになったのがSSTクラス初年度の今大会だ。

 現在、EWCにはお祭り的な要素は少なくなり、シリーズ戦としての地位を確立しつつある。その一環が、鈴鹿8耐でのSSTクラス導入で、ヨーロッパでの3戦だけではなく、鈴鹿8耐でもポイントランキングを取得できるようにして、海外チームを全4戦にエントリーさせるという流れを作るものだ。

 余談だが、メディアに着用が義務付けられているビブスもこれまでは鈴鹿サーキットが用意していたが、今年はスポットの取材者のビブスもEWCが用意していた。これもシリーズ戦としてのEWCが垣間見えた部分だった。

 来年は鈴鹿8耐でのSSTクラス2年目として、タイヤ攻略、レギュレーションの理解が深まることを願いたい。
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