【GT300マシンフォーカス後編】満点評価も「悩み中」の最新ウラカンGT3エボ2。リヤ2本交換の“こだわり”を捨てて掴んだ完勝劇

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2024年07月30日 07:20  AUTOSPORT web

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2024スーパーGT第2戦富士 JLOC Lamborghini GT3(小暮卓史/元嶋佑弥)
 スーパーGT GT300クラスに参戦する注目車種をピックアップし、そのキャラクターと魅力をエンジニアや関係者に聞くGT300マシンフォーカス。前編と後編に分けてお届けする2024年第3回は、第2戦富士で完勝を飾った88号車JLOC Lamborghini GT3の伊与木仁チーフエンジニアに話を聞いた。

 今季から古豪JLOCで88号車を担当することになった伊与木エンジニアは、チームへの加入や、はじめは先代モデルを使用する87号車METALIVE S Lamborghini GT3を担当する予定だったことを前編で明かした。今回の後編では、シーズン開幕後のマシンセットアップと第2戦完勝劇の裏側で起こっていた則竹功雄代表とのやり取りを語る。

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 シーズンオフの富士公式テストから急きょ88号車JLOC Lamborghini GT3を担当することになった伊与木エンジニア。その後に迎えた開幕戦岡山では、ランボルギーニ・ウラカンGT3“エボ2”の感触と「ほぼ初の仕事」となった元嶋佑弥とのコミュニケーションを深めつつ、僚友87号車に続く8位入賞のシングルフィニッシュを達成。続く第2戦富士では、長丁場で懸念されたタイヤライフの問題も匂わせず、両ドライバーが他を圧倒するレースペースで3時間を走り切った。

 富士のレースウイークには、新規アイテムとしてフロント側の特徴的な多角形ダクトに追加された“バーティカルフィン”が注目を集め、則竹代表自らが空港から運んだというアップデートが話題を呼んだ。

 これまで左右のリヤフェンダー上にあったインテークがセンター上部の“ちょんまげ”となり、フロント側のラジエターから排出された高温のエアが直接吸気へ流入することを避ける狙いが機能し「(87号車比で)吸入温度は20度も違う」という効果が得られた。

 これが富士のストレートスピード向上に寄与しつつ、リヤウイングの効率を高めることにも繋がったようだ。ただそれ以上に、まだ2戦目にして動的な車高設定を含め“シビアさが増した”と言われる最新モデルのスイートスポットを見つけ、タイヤを壊す不安を一才抱かせることなく走らせた伊与木エンジニアには、すでに『正解が見つかった』ということなのだろうか。

「いや、僕は過去のクルマの状態をあまり理解できていないですし、転がした(走行した)距離もまだ絶対的に短いです。ただ、GT3でもかなりピンポイントに車高、レイク(アングル)の設定を詰めました。とくに88号車は空力とダウンフォースを稼ぎたいという傾向が強いです。その点、ずいぶんと車高がね……。今は僕が思っていた車高とは違う位置で走っているんですよ。本当にそのセットアップが正しいのか、ちょっと今はまだ悩み中です」と続けた伊与木エンジニア。

「本当に、下面のダウンフォースや全体の空力バランスはもっとシビアに行かなきゃいけない。なので『まだ使い切っていないんじゃないのかな』と感じるときもあります。ヨーロッパのランボルギーニ側に提唱された新しいダンパーの組み合わせは、割と柔らかいセッティングでした。『それで本当にうまく空力が取れるのか』という気もしますけどね」

 ここは現代GT300で再三のテーマとなる、欧州で主流のワンメイクタイヤでのセットアップ術(メーカー側推奨とトラック特性)と、日本のコンペティションタイヤ+高ミュー路面への対応、というテーマの部分だ。

「そのことも踏まえ、空力の必要な部分は、ある程度動きを規制しています。もうひとつは、タイヤメーカーさんの特性もいろいろとありますけど、ヨコハマさんはやはりタイヤがポジティブ側に倒れ込む要素(編注:タイヤが内側に傾きV字の状態になっている)が大きい。どんどんとタイヤに荷重を掛けていくと、やはりタイヤはポジティブ側にねじれが増えるので、手前で何か機械的に止めてあげます。するとドライバーは感触で『タイヤが倒れ込む手前だ』というところで走れてしまうのではないかな。なので僕は、とくにフロントタイヤの倒れ込みは少し気にしますね」

 という自身の考え方に基づき、チーム側に提案をすることで「僕は使わせてもらっています。幸い、今まで溜め込んだやつがあったので(笑)」と、まさに自らの蓄積と“引き出し”を解放。ドライバー陣も「最初は87号車を走らせたときに、孝亮なんかはそういった経験が充分なので、むしろ『全然こっちですよ』と。それで88号車でもやったら、小暮も『全然、コレですよ』と言ってくれました。第2戦では、元嶋が『もうこれ以上、何もしなくてもいいです』」と異例の満点を得るほどのフィードバックを獲得した。

 これらの相乗効果で、スタートスティント担当の元嶋も序盤から快走を披露し、僚友87号車がわずかなタイヤトラブルの兆候で失速(それでも8位)するなか、最後までタイヤを壊すことなく3時間のトップチェッカーを迎えた。

「前半から元嶋くんが非常にいいペースで走ってくれて、ウチはマージンを持っていました。もうひとつはレース展開で、非常にラッキーなところだったんですけど、FCY(フルコースイエロー)が出た際、ちょうど元嶋くんが1コーナーに入るところだったんです。ところが後ろの4号車(グッドスマイル 初音ミク AMG/2番手)はまだストレートの半分より少し後ろで、ブレーキの距離と車速が落ちた際のリスクを、僕らはすごく回避することができました。ところが、本来速く走るべきストレートの半分で4号車は80km/hに減速しなければいけませんでした。ということもあり、そこでマージンがかなり増えました」と、その勝因を明かす伊与木エンジニア。

「正直、本当にその部分は運がありましたね。それまで6秒くらいのギャップだったのが、一気に12秒以上になりました。ウチはもともとリヤ2本(交換)だけのスティントのはずだったんですけど、それがあったので4本換えることができました」

「それに、ここもまた面白かったんですけどね。則竹さんはずっとリヤ2本交換だけにこだわっていたんです。そういった戦略でしか上位に上がることができないからという感じで。僕は『でも則竹さん、14秒リードしているんですよ。もう絶対4本ですよ』と言ったんですけど、『でもイヨちゃん……う〜ん』とかなんとか言うので『わかりました、じゃあ則竹さんが決めてください。ただ、僕の意見は4本交換ですよ』と言ったら『うん、じゃ4本にしよう』と言って(笑)」

「次のピットストップで小暮に代わるときも16秒ぐらい差が開いていて、則竹さんに『16秒ですから4本でいきますよ』と言うと『もちろん!』と(笑)。なので4本交換をすることができました。さらに僕らは、タイヤをしっかりと使えているので、優勝という結果になったことは事実です。ものすごい運もありましたし、最初の元嶋の頑張りもありましたね」

 すでに長年のコンビネーションであるかのような、良き雰囲気を漂わせながらシリーズを戦っている“新生JLOC”だが、則竹代表以下、87号車の熊倉淳一監督や小暮、松浦の両エースなど、勝手知ったるメンバーとともにチャンピオンシップを追う先には、現実はアジアン・ル・マンやマカオなどへのチャレンジも経て、新たにLMGT3規定を採択した本家ル・マンと、さらなる夢が広がっている。

「則竹さんは、優勝は(88号車への伊与木チーフエンジニア抜擢を含め)『ほら俺の言ったとおりだ』『俺がボンネット持ってきたからだ』などと言っていましたよ(笑)。でも、それが良いんじゃないかな。変なこと言って失礼かもしれないけれど、本当に俺と同い歳ですよ。いい歳こいて『スーパーカーおじさん』だけど、30数年間ランボルギーニ一筋でやってきたっていうのは、ある意味すごい情熱ですよね」

「それで、また海外へ打って出たいとも思っていて、僕から言わせると、本当に今のレース界から正直少し欠けている部分ですよね。ここまで一生懸命レースをやってきた部分と、やらせてもらった部分を含め、やはり最後にもう一度、原点に近い気持ちで海外勢と戦えるようなレースをやらせてもらえればいいなと思います。それができれば一番幸せかな」

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