ジュリアは「女子プロレス界のために」海外へ スターダム退団と新団体の旗揚げに加わった理由

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2024年08月14日 10:01  webスポルティーバ

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女子プロレスラー ジュリア

インタビュー前編

 2024年7月30日後楽園ホール、第6試合の試合後、マイクを握ったジュリアは「8月19日が私の日本での最後の試合になります。私は世界のプロレスに挑戦しにいきます!」と表明。渡米へのカウントダウンが始まった。

 2024年3月、世界的にも高い評価を得ている女子プロレス団体「スターダム」に激震が走った。所属していたジュリア、林下詩美、MIRAI、桜井まい、弓月の5選手の退団が発表。それからひと月も経たない4月15日には、スターダムを退団した5選手と、スターダムの契約を解除されたロッシー小川前エグゼクティブプロデューサー、高橋奈七永と石川奈青も合流した新団体、「マリーゴールド」の設立記者会見が行なわれた。

 ジュリアはスターダム退団からの約4カ月間と、なぜマリーゴールドに所属したのか、その経緯を語った。

【スターダム退団を決意したあとに届いたふたつのオファー】

――新団体「マリーゴールド設立の記者会見」から、間もなく4カ月が経ちます。

ジュリア:あっという間すぎて、「もう4カ月も経ったんだ」って感じですね。ただ、5月20日の旗揚げ戦で右手首を骨折して、しばらく大会を欠場。復帰したのは7月13日の両国国技館大会で、数試合しか出てません。プロレスラーはリング上で試合をするのが仕事なのに、それができなかった。選手としての活動以外のところでバタバタして忙しい4カ月間でした。

――7月13日の両国国技館大会の前日記者会見で、ジュリア選手はロッシー小川さんと一緒に姿を見せ、すべての記者に挨拶しましたね。それを見て、「ジュリア選手はマリーゴールドの中心レスラーだ」と感じました。

ジュリア:特に決めたわけではないですけど、自然とそういう役目は担っていますね。

――今年3月、スターダムを退団した理由を聞かせていただけますか?

ジュリア:2022年に「STARDOM 5★STAR GP」を優勝し、団体最高峰のベルト"ワールド・オブ・スターダム王座(赤いベルト)"を戴冠しました。そのあたりから会社と話し合いをする機会が増えて、前社長とはいろいろありましたね。

 私はそれまで、「海外の大規模な団体とスターダムを同じくらいの価値まで引き上げたい」という思いで、海外からのオファーを断っていました。その夢の実現のためには、現状を大きく変える必要がある。そして現段階ではそれは不可能に近いと気づき、2023年3月に契約を更新する時には、「これが最後の契約更改だな」と決めてました。

――スターダム退団後は、すぐに海外に行くのかと思いました。

ジュリア:昨年の契約更改の時点で、海外挑戦をすることは決めていたんです。ただ、確定していたのは「スターダムでの活動はひと区切り」ということだけですが。まずはスターダムでの残り1年をどう過ごすか、に集中しなければならなかったので。

 小川さんが新団体を設立する話はずっと噂で聞いていました。それが現実になったのは、私がスターダムとの契約を終了する意思表示をした2023年12月の話。小川さんが新団体を作ることになった経緯は知っていましたから、海外に挑戦する前に「小川さんに恩返ししたい」という気持ちが強くなって。「少しでも力になれれば......」と、海を渡るまでの短い期間ですがマリーゴールドに所属して、団体の旗揚げを手伝うことに決めたんです。

――退団を前に、2023年7月には新日本プロレスのSTRONG女子王座を獲得しましたね。

ジュリア:あれは、自分のなかでは"お土産"かな。白いベルトも赤いベルトも、シンデレラトーナメントも5★STAR GPも獲って、シングルでやるべきことはほぼやり終えた。それで「次、自分にやれることはなんだろう」と。

 そんな時に新日本プロレスでSTRONG女子王座が設立されて、興味が湧いて挑戦したら第2代STRONG女子王者になれた。最後にやれることをやろうと頑張りました。アメリカのリングを数回経験させてもらって歓声の大きさも感じましたし、街を歩いている時にファンに囲まれたり、プロレスを心から楽しんでくれる方々を見て、「やっぱりエンターテイメント大国なんだな」と感じる事ができたのはとても大きかったですね。

【超満員の旗揚げ戦に「やっと、ここまできた」】

――4月1日、プロレスリング・ノア「MONDAY MAGIC」新宿大会にジュリア選手が登場。そして5月4日のノア両国国技館での「WRESTLE MAGIC 2024」には、ジュリア選手、林下選手、桜井選手、MIRAI選手が出場し、ノアの女子勢と対決しました。

ジュリア:「MONDAY MAGIC」は NOSAWA論外さんに呼んでいただきました。3月31日に山形でスターダムでの最後の試合をやったあと、すぐに東京に戻ってサプライズ登場。5月の「WRESTLE MAGIC 2024」は、旗揚げ戦を前にした"お披露目"的な感じでしたね。

――マリーゴールドの設立記者会見が行なわれたのは4月15日。ジュリア選手はリーダー的な存在ですね。

ジュリア:ほかにまとめ役がいなかっただけですよ。ひとりひとりの個性は強いんですが、のんびり屋さんも多いから(笑)。ガミガミ言うのは私くらい。「ジュリアがまたなんか言ってる。うるせえ〜」って思われてるでしょうね(苦笑)。

――旗揚げ戦前にはファンミーティングを開催。強化合宿をマスコミに公開するのも珍しいと感じました。

ジュリア:小川さんは、日時や場所などの"器"は作ってくれますが、中身は丸投げ。そこから生まれる感情のうねりやもつれなどをカードに取り入れるというやり方ですよね。ただ、マリーゴールドは始まったばかりで組織としての形になっていなかった。組織になりきっていない単なる"個の集まり"が、無計画に合宿をやってもバラバラになるだけなので、そこをまとめるのが私の役目でした。

 ただ、私がマリーゴールドにいる時間は限られてるので、そこからは少しずつほかの選手に振るように心がけています。組織としてのまとまりを作らなければ、選手は安心してプロレスに打ち込むことができないので。

――そして5月20日、ついに後楽園ホールで旗揚げ戦が行なわれました。

ジュリア:旗揚げ戦は、もちろんスターダムに所属したままだったらできなかった。ゼロの状態から団体を作り上げる作業は、経験したくてもなかなかできません。まだまだ未熟な組織だとは思いますが、すばらしい経験をさせてもらえたと思います。みんなで少しずつレールを敷いていく喜びというか(笑)。

 2019年11月にスターダムに入団してから4年4カ月、気持ち的にはかなり停滞する時期に差しかかっていたと思うんですよ。マンネリってわけじゃないですけど。より強い、新しい刺激を求めていた。団体の立ち上げ参加というのは、小川さんへの恩返しでもありましたが、自分自身の経験値としてものすごく得る物が大きかったなと思います。

――旗揚げ戦はジュリア&林下詩美vs Sareee &ボジラという豪華カード。試合時間は28分を超えましたが、ジュリア選手は開始4分で右手首を骨折。そこから約24分間、どんな状態でリングに上がっていたんですか?

ジュリア:メチャクチャ痛かったですよ(笑)。まったく腕に力が入りませんでした。でも、旗揚げ戦のメインイベントを任された責任もありますし、対戦相手にはライバルのSareeeもいるから「やるっきゃねえ!」と気合いで乗り切りました。手首を使わないで済むように、肘で受け身を取る形に切り替えて。

 旗揚げ戦の翌日、『週刊プロレス』のトークイベントがあったんです。そこにギブス姿で登場した瞬間、お客さんが「ジュリア、どうしたの?」と驚いた顔をしたんですよ。だから最初に「すいません。昨日の試合で骨折して、しばらく休むことになりました」と謝りました(笑)。

――旗揚げ戦の会場の雰囲気はいかがでしたか?

ジュリア:旗揚げ戦に相応しい照明や音響で、スモークが焚かれて選手がひとりずつ入場。超満員札止め。とにかくファンの方の熱気が凄まじかったですね。その光景を目の当たりにして、「やっと始まるんだ」と感慨深いものがありました。

 スターダムを退団してから旗揚げ戦までの期間もいろいろあって......深く話すことでもないですけど、小川さんの突然の解雇、そこまでの経緯も知っている身からすると納得がいかない部分はありました。事実と違うことが表に出るたびに、「嫌な世の中だな」と。小川さんは本当に新団体旗揚げできるのか、と心配になることもありましたよ。

 5月20日の旗揚げ戦は、さまざまな出来事を乗り越えての新たな船出だったわけです。「やっと、ここまできた」というか、「なんとかここまで辿り着くことができた」という感じでした。

――後楽園の超満員の観客を見て、ひと安心したんですね。

ジュリア:「旗揚げ戦は選手が極端に少ないのにうまくいくのかな?」という状況でしたからね。奇跡的に「アクトレスガールズ」を退団した5人が入団してくれたけど、もともとは7人でのスタート。「小川さんには人を引き寄せる力があるんだ」と思いましたし、やっぱり土壇場で逆転する何かがある。"持って"ますね(笑)。

【夢を叶えるために「自分がデッカくならなきゃいけない」】

――ジュリア選手はケガで欠場中も大会に同行し、オープニングで挨拶をしていましたね。

ジュリア:もともとマリーゴールドでの活動は短期間、という中での事故だったので、このまま普通に欠場してたら入団した意味が本当になくなってしまうと思って、「欠場中でもできる限りのことはしよう」と。それで試合前に、リング上からファンに挨拶しました。

――マリーゴールドに対する愛情を感じますね。

ジュリア:自分でもそう思いますよ(笑)。本当だったら、もっときちんとした組織になるまでマリーゴールドを離れたくない。でも、私はずっと「日本でプロレスを若い世代、世間の人たちに届けたい」と思ってやってきました。

 そのためには、「一度、海を渡って私がもっと大きくなり、日本に戻ってからでなきゃ叶えられない」と。まずは、自分がデッカくならなきゃいけない。もう30歳ですし、「これがラストチャンスだ」と思って海外挑戦を決断しました。きっと残った選手たちが必死になってやってくれる。そう信じてます。

「何を発信していくか」「試合で見せるべきものは何か」とか、今の段階のマリーゴールドでは私にしか伝えられない感覚がある。プロレスとほかのエンターテイメントの差別化は絶対に必要だと思うので。アメリカに行くまでの期間で、少しでもその思いをほかの選手たちに伝えたい。それが自分の使命かなって。ゆくゆくは、それが女子プロレス界のためになると思っています。

(後編:Sareeeに抱いた人生初の感情「嫉妬するって、こういうことなんだ」>>)

<プロフィール>
ジュリア

1994年2月21日生まれ、イギリス出身。162cm。2017年7月にアイスリボンのプロレスサークルに入会。同年10月29日にプロレスデビューを果たす。2019年11月にスターダム入団。2020年1月4日、新日本プロレス・東京ドーム大会に出場。1月19日、新ユニット「ドンナ・デル・モンド」を結成。同年に3月24日、STARDOM Cinderella tournamentを優勝するなど、2020年度プロレス大賞・女子プロレス大賞を受賞した。2022年10月1日に5★STAR GP 初制覇し、12月29日にワールド・オブ・スターダム王座を奪取。2024年3月にスターダムを退団し、ロッシー小川らと共にマリーゴールドを旗揚げした

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