【夏の甲子園】広陵の試合の流れを変える控えの「仕事人」たち 背番号10のサウスポー、代打や足のスペシャリストも

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2024年08月15日 17:50  webスポルティーバ

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【ベンチに控えるスペシャリストたち】

 大会6日目に行なわれた広陵(広島)対熊本工業(熊本)の名門対決は、見応えのある投手戦となった。

 5回が終わった時点で、熊本工業が1点リード。優勝候補の一角と目される広陵は3安打に抑えられていた。四番の只石貫太から始まる6回表の攻撃も、ふたつのフライアウトとサードゴロで0点に終わった。

 中井哲之監督はよく"動く"監督だ。先発で起用した野手を試合途中で交代させることは珍しくない。中井監督がこの試合を振り返る。

「先に点を取られて後手後手に回ったら、選手たちは焦ってくる。ポンポンとフライを打ち上げたら、相手がエラーすることもないし」

 6回表、1点リードされた重たい展開から脱したいところで、あっと言う間にチェンジ。そのあと、広陵ベンチが動いた。

 7回表ノーアウト一塁で、広島大会で6試合に出場した白髪零士が代打に立ち、四球を選んでチャンスを拡大した。続く九番・高尾響の送りバントでランナーは二、三塁に進んだ。

 そこで一番打者の浜本遥大が逆転のライト前タイムリーヒットを放ち、2対1。だが、追加点を奪いたい8回表はクリーンナップが三者凡退となった。そんな厳しい展開に、控え選手は出番を待ちながら準備していた。

 9回表に、また中井監督が動く。

 広島大会で6打数5安打と驚異的な活躍を見せた"代打の切り札"松村悠叶を打席に送る。スタメンの選手たちが打ちあぐねた熊本工業・山本凌雅からセンターオーバーのツーベース。その松村の代走として起用されたのが空輝星だ。

 空は広島大会6試合すべてに代走で出て、3盗塁した走りのスペシャリストだ。送りバントで三塁に進んだ空がホームを狙う。八番・白髪の打席でスクイズのサイン。ファウルになったが、空の俊足でスタンドがざわめいた。追加点は奪えなかったものの、ベンチは活気づいた。

 9回裏、エラーからサヨナラ負けのピンチを招くが、ワンアウト二、三塁で高尾が踏ん張った。2連続三振を奪い、中井監督に甲子園通算40勝をプレゼントした。

 試合後、浜本はこう言った。

「1年の時から高尾と只石の活躍で勝ってきましたが、ふたりに"おんぶにだっこ"のままでは自分たちは成長できない。広陵は高尾と只石だけのチームじゃないという気持ちで、野手は練習してきました」

【どんな場面で出ても気負わない控え選手】

 この2年間、広陵を牽引してきたのは高尾と只石のバッテリーであることは間違いない。しかし、チームを支えるのは控え選手の"準備力"だ。

 中井監督も「みんな大胆に、いい仕事をしてくれる」と感心する。代打の切り札の松村は言う。

「(熊本工業戦のツーベースは)厳しい試合だったので自分が打ってやろうと、その気持ちで打ったヒットです。事前に相手のピッチャーのデータや特徴を頭にしっかりと入れて打席に立ち、甘い球を絶対に逃さないという気持ちで、自分のスイングをするようにしています」

 中井監督は「松村が打てるのは何も考えてないからでしょう(笑)」と言うが、準備がなければ初対戦のピッチャーを打つことはできない。

 9回裏のピンチで伝令に出て、選手たちを鼓舞したのも松村だった。

「中井先生には『堂々と投げろ』と言われたので、それをみんなに伝えて、『これまでやってきたことは正しいからそれを出そう』とみんなに声をかけました。エラーからのピンチでしたが、みんなの気持ちは切り替わっていました」

 9回表に代走で起用された走りのスペシャリストの空は、自分の足に自信を持っている。

「大事なところで代走がある、と思って準備をしていました。どんな場面で出ても気負うことはありません。打球の判断にも自信があります。30m走のタイムは、チームで一番速い3.81秒です。スクイズの場面、得点にはなりませんでしたが、スタンドが沸いたのはわかりました」

 途中出場の選手が力を発揮する秘訣について、中井監督はこう言う。

「これまで一緒に練習をしてきて、子どもたちの一人ひとりの性格もわかるし、それによってかける言葉も変わってきます。今日は監督が、ぶち(広島弁で「とても、すごく」の意味)冴えとったですね(笑)」

【エースを奮い立たせる背番号10】

 熊本工業戦では出番はなかったが、控えには山口大樹がいる。広島大会決勝の広島商業戦、3−1とリードして迎えた8回表に、ツーアウト満塁の場面で高尾をリリーフして勝利を呼び寄せた。

「『絶対に抑えてやる!』という気持ちでマウンドに上がりました。勝ったあとに中井先生に『ナイスピッチング!』と言われて自信がつきました。

 高尾が1年生から試合に出ていたので、自分も『同じところで早く投げたい』と思っていました。悔しい気持ちが、自分が成長できたひとつの要因だと思います」

 背番号10をつけたサウスポーの成長は、高尾にとって刺激になっているはずだ。

「絶対に山口にはマウンドを譲らんぞ、というピッチングでしたね」

 サヨナラ負けのピンチを脱した高尾について、中井監督はそう語った。一方で、キャッチボールをしながら登板に備えていた山口は言う。

「もし高尾が打たれても、『絶対に自分が抑えてやる』という気持ちで準備をしていました。かなり気合が入っていましたね。最後の場面、『投げたい!』という気持ちが強かったです。次の試合で投げる機会があれば、チームに流れを引き寄せるピッチングをしたい」

 大会10日目の8月16日、広陵は東海大相模(神奈川)と対戦する。初戦と同じく厳しい戦いが予想されるが、広陵のベンチには黙々と出番に備える"仕事人"たちがいる。

 プランどおりの展開にならない時こそ、頼りになる男たちが試合の流れを変えるはずだ。

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