パロウ、迫るパワーから逃げ切れるか。いよいよ佳境のタイトル争いはオーバル3連戦へ/インディカー

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2024年08月30日 15:00  AUTOSPORT web

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2024年NTTインディカー・シリーズ第11戦アイオワ ウィル・パワーとバトルするアレックス・パロウ
 今週末、NTTインディカーシリーズはウィスコンシン州のミルウォーキー・マイルにてダブルヘッダーラウンドを開催する。

 すでに14戦を終えた今シリーズも、もう終盤土壇場を迎える。残りレース数は3戦となるが、そのうちの2戦が伝統あるミルウォーキー・マイルで開催される。そこで2024年のインディカータイトルの行方はほぼ決定されるかもしれない。決着は最終戦までもつれるだろうが……。

 残り4戦となる第14戦ポートランドを迎えた時点では、選手権トップがアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)=443点。2位がコルトン・ハータ(アンドレッティ・グローバル)=384点で、3位がスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)=378点となっていた。

 ホンダのドライバーがトップ3を占め、チャンピオン争いはそのまま彼らの間で最終戦まで繰り広げられて行きそうな状況だった。

 ところが、そのポートランドでディクソンは1周目にクラッシュしてリタイアし、ランキング5位へと後退。ハータは4位フィニッシュと、あと一歩ポイントを伸ばし切れなかった。

 逆に、ランキング4位にいたウィル・パワー(チーム・ペンスキー)が完璧なマシンを作り上げ、冷静な走りでチームの作戦の巧みさも味方につけて今シーズン3勝目を飾ると、ランキングも2位となって、3度目のチャンピオンになる可能性を広げた。

 ポイントリーダーのパロウは、オルタネートタイヤ(ソフト)の能力を見誤りタイヤ戦略で失敗したが、その不利を跳ね除けて2位表彰台を獲得。ダメージは最小限に抑えたと言えるが、ランキング2位との差は、59点から54点に縮まった。

 かくしてチャンピオン争いは、パロウとパワーの一騎打ちになった感がある。レース開催コースなど、いろいろな要素が絡みはするが、ポイントリーダーのパロウがやはりチャンピオン候補の“本命”と言えよう。パワーが“対抗”であるとすれば、3位のハータはもはや“大穴”というか“穴”ぐらいのポジションだ。

 ハータにとってパロウとの差は67点もあるので、上位のふたりが揃って不運に見舞われる事態などが起こらないと、逆転タイトルは難しいと言える。

 また、ポートランドで20番手グリッドという後方スタートながら7位までポジションを大きく上げてフィニッシュしたスコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)も、選手権5位から4位へとひとつ順位を上げたものの、パロウとは88点差。残り3レースで1レース平均30点のゲインをしなくてはならない計算のため、タイトルには手が届かないだろう。彼が目指すのは、2年連続でチーム・ペンスキー内でランキングトップ。そちらなら可能性は充分にある。

 最終戦が行われるのはナッシュビル・スーパースピードウェイ。2021年より3シーズン行われてきた“ミュージック・シティ”のダウンタウンど真ん中で開催する計画は、充分な広さのパドックを確保できないと判明してお流れ。

 次善の策として、都市部から遠く離れたオーバルコースが選ばれた。ストリート・コースとロード・コースが過半数を占めているインディカー・シリーズだが、シーズン最終3レース、第13戦ワールド・ワイド・テクノロジー・レースウェイ(WWTR)も含めた最終5戦のうち4戦がオーバルでの開催と、オーバルレースシリーズに変貌したかのようなカレンダーになっている。

 最終戦の行われるコースは、スーパースピードウェイを名乗っているが全長は1.33マイルと短く、ショート・オーバルの範疇に入るもの。ただ、コーナーのバンクが14度と大きく、メインストレートに9度、バックストレッチに6度とストレート部にもバンクがつけられているので走行スピードは“スーパースピードウェイ並み”に高い。

 それにプラスして、路面がアスファルトではなくコンクリートであることから、タイヤに過酷なコースとしても知られている。2001年創業時から、インディカーのレース(IRL主催)を8年続けて開催した歴史があり、最後の3年=2006〜2008年はディクソンが3連勝を記録している。

■オーバルで際立つペンスキー勢の強さ

 全長1マイルのミルウォーキーと、全長1.33マイルのナッシュビル。これら2コースでの3レースで最も高得点を記録しそうなのは、ジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)だ。

 彼にはタイトルの目はないが、WWTRで2017、2021、2022、2022、2024年に勝ち、アイオワでは2023年のダブルヘッダーを両制覇。2016、2019、2020年の第2レース2022年のレース1でウィナーとなっていて、インディ500も2連覇中のオーバル王者だ。ニューガーデンのチームメイトたちも、ショートオーバルは得意としており、今シーズンのアイオワで勝ったのはパワーとマクラフランだ。最終3戦もペンスキー勢の好走は間違いないだろう。

 それに対して、パロウとハータはオーバル未勝利ドライバーだ。マクラフランはフル参戦4シーズン目でオーバル初勝利を挙げた(今年)が、パロウは今年が5シーズン目、ハータは今年が6シーズン目に入っても、まだオーバルでの勝利には手を届かせることができていない。

 もちろん、勝つためにはオーバルで速いマシンが必要で、それを与えられていたのがマクラフラン、そうでなかったのがパロウとハータという見方もできるだろう。ハータは今年のアイオワでポールポジションを獲得しており、パロウも今年のアイオワ・レース2で2位、昨年のアイオワ・レース2で3位フィニッシュを記録しており、オーバル初勝利は時間の問題と言えよう。

 パロウはドライバーとしての完成度の高さから、2年連続、この4年間で3回目となるタイトル獲得の最有力候補となっている。オーバルレースではライバル勢に分があるなかでも、しぶとくクレバーに走り抜いて上位フィニッシュし、ポイントを重ねる力が彼にはある。

 そうするための秘訣を尋ねると、「ポイントのリードを守ろうとしてはいけない。普段と同じように優勝を目指す。そう心がけている。いつもと違うことをすれば、いつもと違う結果を手にすることになるから」とパロウは説明した。また、「オーバルでの初勝利を早く挙げたい。しかし、“それがどうしても欲しい”と焦ってはいない。勝てる日はいつか必ず来る、と考えているので」とも語っている。安定した速さと決勝での勝負強さを武器とする、パロウなりのオーバルの戦い方なのだろう。

 そのパロウにとって怖いのはアクシデントとトラブルだ。なすすべなく失速するような事態なく、パワーやハータと最終戦までフルに力を出し切っての戦いを見せて欲しいものだ。

 一方パワーは、追う立場の者に与えられるアドバンテージを理解している。

「失うものは自分の方が圧倒的に少ない」と彼は話している。シーズン3勝目を挙げたポートランドでは、「今の自分にとっては、どんな勝利にも非常に大きな意味がある。こうして優勝争いを続けていられる自分は本当に幸運だ」と、ペンスキーで走り続けられていることに対して深い感謝の意を披露。

 悟りの境地に達しているかのようなコメントが多くなっている彼は、「ミルウォーキーはとても興味深い週末になる」と、遠くに視点を送りながら言った。そこにはフラットなショートオーバルで2連勝を挙げる自らの姿が見えていたのか……。

 その想定に近い成績を残せば、彼はパロウとの差をかなり縮めることができる。パロウが両レースで2位フィニッシュしたら、その差は20点ほどしか縮まらないが、パロウの2戦連続2位よりもパワーの2連勝の方が可能性は高い。オーバル3レースでの大逆転は起こり得るということだ。

 さらにパワーには、チームメイトたちからの援助も期待できるかもしれない。ニューガーデンとマクラフランがパロウとの間に入ってゴールしてくれれば、その分だけポイント差は縮まる。しかし、このふたりに頼るのは諸刃の刃でもある。ふたりももちろん優勝候補に入ってくる速さの持ち主だ。チームオーダーが出ないならば、ニューガーデンやマクラフランが勝つケースも充分に考えられる。そうなれば、パワーの稼ぐポイントは減ってパロウとの差を埋められない。

 ファンとしては、ハータがオーバル初勝利をあげ、そのままの勢いでミルウォーキーで2連勝、もしくはそれに近い大活躍を見せ、史上稀に見る僅差で3人が最終戦へ……となる展開がもっとも盛り上がるだろう。しかし、そこには前にも触れた通り、パロウとパワーの両方にアクシデントやメカニカルトラブルといった不運が襲いかかり、獲得ポイントが少なくなる必要がある。

 チャンピオン争いを行うメンバーがミルウォーキーでもナッシュビルでも優勝争いをする可能性は充分にある。しかし、タイトルの可能性を失ったドライバーたちは、1戦々々での勝利を狙って来る。最終3レースでは、ディクソンはもちろんのこと、WWTRで優勝目前まで行ったデイビッド・マルーカス(メイヤー・シャンク・レーシング)、パト・オワード(アロウ・マクラーレン)、ポートランドでキャリア初PPを獲得したばかりのサンティノ・フェルッチ(A.J.フォイト・エンタープライゼス)らが好パフォーマンスを見せそうだ。

(Report by Masahiko Amano / Amano e Associati)

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