1043日ぶりの勝利の背景。マルク・マルケスが味方につけた「特殊なコンディション」/第12戦アラゴンGP

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2024年09月03日 11:00  AUTOSPORT web

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「最後の数周は、もう心は表彰台にいたよ(笑)。表彰台というか、ガレージかな。グレシーニのガレージは楽しくてハッピーなんだ」
 マルク・マルケス(グレシーニ・レーシングMotoGP)が表彰台の頂点に帰ってきた。最後に優勝したのは、2021年エミリア・ロマーニャGP。1043日ぶりの優勝であり、2024年MotoGP第12戦アラゴンGPではドゥカティに移籍後初の優勝でもあった。

「完璧な週末だった。(ウォームアップ走行を除いて)全てのセッションをリードした。ウォームアップ走行は、チームとピットにいることに決めたんだ」

「完璧な週末」という表現はライダーが会心のレースウイークを過ごしたとき、しばしば用いられるが、今回ほどこの表現がぴったりな週末もそうそうない。ポールポジションを獲得し、オールタイムラップレコードを更新して、スプリントレースで初優勝、決勝レースでもポール・トゥ・ウインを飾った。

「レース序盤から素晴らしいフィーリングがあった。すごく長いレースだったよ。最終ラップは感情をコントロールするのが難しかった。フィニッシュラインを駆け抜けたとき、3、4キロくらい痩せたような気分だったよ(笑)。背中がだんだん重くなっていったからね」

「優勝したことは信じられなかった。そしてすぐに、これまでの全ての過程、僕の周りにいるみんな、家族、ガールフレンド、弟、僕を本当に助けてくれた人たちのことを考えたよ。特に、グレシーニ・レーシングは僕にチャンスを与えてくれた。僕はルーキーライダーのようにアプローチをしたし、全力だった。そして、ついにやったんだ。もうひとつのターゲットがある。あとは前進あるのみだ」

 前戦オーストリアGPの決勝レースでは、タイヤのバルブに問題が発生した。結果的にそのトラブルが起因してスタートで出遅れ、表彰台を逃したわけだが、このレース後、マルケスはこう言っていたのだ。

「今年は積み上げていく年。僕は自信を築こうとしているところなんだ。一歩一歩進もうとしている。シーズン後半は、このまま積み重ねていかなければならない。表彰台、優勝に立てるようにね。今年は無理だったとしても、来年は“そこ”に立っていると思う」

 マルケスは優勝を焦っていないのかもしれない……。オーストリアGPのレース後の答えは、そんな風にも受けとれた。だがもちろん、そんなことはなかった。マルク・マルケスは好機と見たら、そこに向けてとことん全力を尽くすのだ。今回のように。

 確かに、モーターランド・アラゴンは、マルケスが得意とする左回りのサーキットでもあった。マルケスはアラゴンで通算6勝(MotoGPクラスで5勝、Moto2クラスで1勝)を挙げており、現状のMotoGP全クラスを通してアラゴンでの優勝数はトップである。

 だが、アラゴンでの過去の勝利数もさることながら、今回のアラゴンGPのひとつのポイントは、路面状況にあっただろう。マルケスは圧倒的だった決勝レースを終え、こう語っていた。

「この週末はめちゃくちゃよかった。素晴らしかったよ。でも、僕たちは現実的になる必要がある。今回はコンディションがすごく特殊だった。オーストリアGPでは、すごくいいフィーリングがあった、とても重要なレースだった。トップのライダーたちのレベルに、かなり接近していたんだ」

 2023年は開催がなかったため、2年ぶりに行われたアラゴンGPは、路面が再舗装された。再舗装されて路面はフラットになったが、初日から新しい路面に苦しむライダーもいた。初日を1番手で終えたマルケスはMotoGP.comのインタビューで「(路面は)ちょっとスリッピーだった。ほかのライダーは僕よりちょっと苦しんでいたみたいだね。週末のカギは、トラックコンディションを理解すること」だと語っていた。

 本来ならば、セッションが進むにつれて路面にラバーが乗ってグリップが向上する。だが、今回の場合は土曜日、日曜日それぞれの前夜に雨が降り、せっかく乗ったラバーが流されてしまった。土曜日も日曜日も、路面のコンディションは厳しかったようだ。スプリントレースでは、フランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)が路面の汚れがひどい3番グリッドからのスタートで、マシンが適切に加速せずに大きく振られるという出来事が起こった。バニャイアは日曜日も同じようにうまくスタートを切れていなかったので、おそらく路面の汚れは決勝レースでも似たようなものだったのだろう。

 そしてもうひとつのポイントは、マルケスがその状況を好機と見て全力を注いだことだ。その背景にはもちろん、オーストリアGPですでにつかんだ、優勝できるという手ごたえがあった。マルケスのひとつの強みは、集中力の使い方だと考えている。彼は「これが好機」だと見るや、一気に集中力を引き上げる。

 予選Q2で3番手を獲得したバニャイアは、パルクフェルメのインタビューで「マルクは違うラインを走って違うことをしている」と語っていた。マルケスは確かに路面状況をうまく理解して走っていたのかもしれないが、オーストリアGPの感触から現在のポテンシャルを理解して、この状況で他のライダーとの差を生むほどの走りができる、という手ごたえもあったのだろう。マルケスはレース後の会見でこう語っている。

「コースに出るたびに路面状況が違っていたから、把握するのが本当に大変だったよ。でも、これが僕の、ライディングの強みのひとつなんだ。こうしたコンディションによって、レース中、マージンを作ることができた」

 マルケスは、「バレンシアテストで(優勝の)チャンスがあるとわかったんだ」と語っていた。

「バレンシアテストで、遅かれ早かれ優勝するだろうと思った。だから落ち着いていたんだ」

 そしてその日はアラゴンGPでやってきた。「完璧な週末」で優勝を飾ったマルケスのそれは、まさしく劇的と言えるものだった。

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