本好き共通の悩み。巨大地震発生が危惧される今、我々は大量の本で埋まる『本棚』をどうするべきか

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2024年09月03日 11:21  マイナビニュース

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生業がフリーの編集者兼ライター/コラムニストなので、いつも自宅の自室で仕事をしている。

昭和生まれとしては「書斎」という響きに憧れたりもするが、僕の部屋はそんなに素敵なものではなく、とにかくごちゃごちゃの、“ザ・仕事場”である。

自室の中でもっとも大きなスペースを占めているのは、なんといっても本。

我が本棚は、もはや迷宮とでも呼ぶべき様相を呈している……、なんてのはカッコつけすぎで、実態はただ整理がつかずえらいことになっているだけだ。


○■欲しい本は躊躇せず買うと誓ったあの日から



僕は社会人になったとき、「これからは、少しでも欲しいと思った本は躊躇せず買う」という誓いを立てた。

編集者たるもの、それは絶対に必要なことだと思ったからだ。

以来30年以上にわたって誓いを守ってきたため、大変なことになった。

前に何百冊かは自力でPDF化したし、必要のない本は折に触れて処分している。それに、新規で買う本の約半数は電子書籍にしている。

でも、増殖は止まらない。

ページをめくる愉悦を知っているので、相変わらず紙の書籍もどんどこ買うからだ。



冗談ではなく床が抜ける心配があるため、本はなるべく家中に分散して置くようにしている。

それにデュアルライフ(二拠点生活)実践者なので、ある程度の本は別宅へ移した。

それでもやっぱり部屋は本で埋め尽くされている。

読書傾向は“乱読”で、興味あるものを手当たり次第に読むため、本棚にはあらゆるジャンルの本が脈略なく並んでいる。

インテリア雑誌に登場する、写真集などが整然と並べられた部屋のようなオシャレ感は皆無である。


今年の春、10年以上住んだ家から新しい家へと引っ越してからは、本棚のカオスっぷりに拍車がかかってしまった。

とっくの昔に本棚の本を整理することはあきらめているが、同じ家に長く住んでいると、おのずとある程度は系統だって本が並ぶようになっていた。

だが引っ越しによってそれが崩れ、今はとりあえず詰め込んだだけの、しっちゃかめっちゃか状態になっているのだ。


本好きの世界は、上には上のど変態がいるので、僕よりもずっとたくさんの本を持っている人も多いだろう。

だがノーマルな人は、うちの本棚を見ると大抵驚き、そしてあきれる。

中には僕のことを頭のおかしなやつだと思う人もいるかもしれないし、僕自身も時折、本に対する執着が異常であることを自覚する。



しかしそれこそ我が人生とも思っていて、収集がつかない本棚の前に立ち、本の背表紙を眺めていると、“これでいいのだ”という気がする。

始末の悪い話だけど。


○■もしも巨大地震が来たら? 本に埋まって死ぬということ



我が家の本棚はほとんどが2列になっていて、表に見えている本の奥には、本がもう1列並んでいる。

本の整理術としては、この“2列形式”は避けるべきとされている。背表紙が見えていないと、どこにどんな本が収められているのか、自分でもわからなくなるからだ。

でも、1列にすると狭い我が家の中にはとても収まりきらないので、致し方がない。


このカオティックな本棚の中には、幼少期に読んだ漫画本から、高校生時代に夢中になって読んだサブカル雑誌、大学時代の教科書だった心理学の本、ライフワーク的な音楽を中心とするカルチャー本やファッション関連本、それに、つい最近読了した本までもが分け隔てなく並んでいる。

どれもが自分の人格形成に少なからず影響を与えてきた本なので、誰がなんと言おうと手放すことはできない。

それは過去の自分を切り捨てるような行為だからだ。


とはいえ、この本棚にも少し問題があることは分かっている。

いや、“少し”どころか、たいへん重大な問題なのかもしれない。

近年、巨大地震の発生が危惧されている日本では、地震対策が重要視されている。

もし、今この瞬間に地震が起こったら?

積み上げている本棚の本が、僕を殺す光景が頭をよぎるのだ。


部屋を見回し、もし地震が来たらどのように行動すべきかをシミュレーションしてみる。

窓から脱出する? それとも、机の下に隠れる? どちらにせよ、一瞬で本棚が崩れたらただでは済まないだろう。

数千冊の本が一気に倒れてくるのだから、それはまさに「紙の津波」とでも言うべき状態になるのかもしれない。

僕はその波に飲み込まれ、圧死あるいは窒息死するのだ。



東日本大震災の後、真剣に対策を考えたこともある。

そしてもっともやばそうな、仕事部屋にある壁一面の本棚には、つっぱり棒形式の家具固定器をかました。

しかしこの装置には限界があり、直下型のように一瞬で激しい揺れに見舞われる地震の場合、無力であるとも言われている。


もっとも根本的な地震対策は、もっと整理して本の数を減らすことなのだが、それは無理な相談だ。

どの本をとっても宝物で、簡単に手放せるものではないのだ。

手に取る本ごとに、その本に残る思い出や感情が蘇り「よしよし、お前を売ったりはしないからな」とつぶやきながらそっと撫で、また本棚に戻してしまう。

地震の際には凶器に変貌するかもしれないのだが、こいつらに殺されるならそれもまた本望……。そんな死に方も悪くはないと、半ば本気で考えている。


○■Fromカオスな本棚。突発的おすすめ本のご紹介



そんなカオスな本棚の中から、おすすめ本を何冊かご紹介しよう。

決して我が人生でベストな本というわけではなく、たまたま目についたものから、今の気分で突発的にピックアップしただけだが、それぞれに素晴らしい内容なので、もし気になるようならどこかでゲットして読んでみていただきたい。



『秘密の動物誌』 筑摩書房 1991年 ジョアン・フォンクベルタ/ペレフォルミゲーラ 著 荒俣宏 監修 菅啓次郎 訳


学生時代に好んで読んだ、荒俣宏の博物学本のひとつ。空飛ぶ象、多足蛇、水面直立魚などなど、驚くべき“未知の珍獣”たちが、多彩な写真つきで解説されている。いわゆる博物学のアナザーサイド、偽造標本を真面目に扱った一種のパロディ本だが、面白さにハマって有名な『鼻行類』をはじめ、この手の本を読み漁ったのは良き思い出。



『藤子・F・不二雄大全集 ジャングル黒べえ』 小学館 2010年 藤子・F・不二雄 著


僕は藤子Fマニアだが、「ジャングル黒べえ」は特段好きな作品でもなかった。でもちょっと前、「ジャングル黒べえ」の原案となる企画は、スタジオジブリを立ち上げる前の宮崎駿が出したものだったということを知って改めて読み直した。そんなことを知ってから読むと、なかなか味わい深いものがある。



『マリリン・モンロー・ノー・リターン』 小学館 2018年 野坂昭如 著


野坂昭如による狂気を孕んだ短編小説集。表題作をはじめ、おぞましいほどの妄想で貫かれたとんでもない世界。氏の作品は「火垂るの墓」しか知らない人に、ぜひ読んでもらいたい。最近、友人と行ったカラオケで歌手・野坂昭如の歌「マリリン・モンロー・ノー・リターン」を歌ったら急に思い出し、読み返してみた。



『犬の生活/ヒトデの休日』河出書房新社 2024年 高橋幸宏 著


僕の古巣である宝島社の前身、JICC出版局から出ていた2冊の単行本、『犬の生活』(1989年)と『ヒトデの休日』(1992年)を合本し、文庫化したもの。高橋幸宏氏のパーソナリティとライフスタイルが窺えるエッセイ集で、めちゃくちゃ面白い。YMOをはじめとする氏の音楽に興味がない人でもきっと楽しめる内容なのではないかと思う。



『本棚が見たい』ダイヤモンド社 1996年 川本武 文 津藤文生/大橋 弘 写真

『本棚絶景』2018年 本の雑誌社 本の雑誌編集部 編

『本棚絶景2』2020年 本の雑誌社編


本が好きな僕は人の本棚を見るのも好きで、この手の本を買いがち。『本棚が見たい』は筒井康隆や荒俣宏、畑正憲、山田太一、秋元康など、『本棚絶景』は京極夏彦や喜国雅彦、都築響一、新井素子など、『本棚絶景2』は夢枕獏や夏目房之介、穂村弘などの本棚が紹介されていて、たいへん興味深い。



本って、本当にいいものですね。



佐藤誠二朗 さとうせいじろう 編集者/ライター、コラムニスト。1969年東京生まれ。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わり、2000〜2009年は「smart」編集長。カルチャー、ファッションを中心にしながら、アウトドア、デュアルライフ、時事、エンタメ、旅行、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動中。著書『ストリート・トラッド〜メンズファッションは温故知新』(集英社 2018)、『日本懐かしスニーカー大全』(辰巳出版 2020)、『オフィシャル・サブカルオヤジ・ハンドブック』(集英社 2021)。ほか編著書多数。新刊『山の家のスローバラード 東京⇆山中湖 行ったり来たりのデュアルライフ』発売。
『山の家のスローバラード 東京⇆山中湖 行ったり来たりのデュアルライフ』はこちら
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