【写真】想像を絶する波瀾万丈の人生を歩む主人公・ジャンヒョンを演じたナムグン・ミン
■惹かれ合いながらも出会いと別れを繰り返す2人
冒頭、上司に呼ばれた役人が、廃棄予定の過去の文書に何度となく登場する男イ・ジャンヒョンの痕跡を追うように命じられる。オープニングで役人の足元が映し出されたモノクロの映像が、彼が歩みを進めると少しずつカラーへと変わっていくと、あっという間にドラマに引き込まれてしまう。役人は地下牢に収監されている男を訪ねてジャンヒョンのことを問い、物語は20年以上前へとさかのぼる。
17世紀前半、清(後金)の2度目の侵略にあたる“丙子の乱”が勃発。戦火に巻き込まれる中、両班の娘ギルチェと正体不明の男ジャンヒョンは、出会いと別れを繰り返すうちに強く惹かれ合うようになる。だが、彼らの愛の形は状況によって少しずつ変わっていく。しかも2人の愛の重さは決して同じではないことから、気持ちのバランスがうまく安定しない。彼らは一体いつになったら想いを確認するのだろうかともどかしくなるが、それこそが彼らの物語に没入させられていることの表れと言える。
最初のうちは非婚主義者だと称し、愛に対して懐疑的な姿勢を見せていたジャンヒョンは、奔放で生命力にあふれたギルチェに関心を抱いたことで次第に変化する。ギルチェもジャンヒョンを意識し始めてはいても、恋に恋する世間知らずのお嬢様の彼女はなかなか自分の本当の想いに気づけない。非常時の状況が2人の感情のすれ違いを巧みに演出し、ギルチェが戦時下で過酷な体験を通して徐々に成長していく過程を印象的に描き出す。
■ヒロインの成長と、嫉妬心が左右する2人の運命
ギルチェが住む村は、清(後金)に攻め込まれ、ギルチェは序盤から雪深い山奥へ避難する。しかし敵兵に追跡され襲われかけたところを、ジャンヒョンに助けられる。それによってたちどころに変わったりはせずに、戦争が終わるとすぐに、謙虚さとは無縁の向こうみずで自信に満ちた本来の姿へと戻るギルチェ。そんな彼女が大きく成長を見せるのが、世子に同行して清の瀋陽に赴いたジャンヒョンの訃報に接した時。そこで初めて自分の彼への恋心を知ると同時に、家族を養う必要に迫られて大人にならざるを得なくなる。
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■史実とフィクションを織り交ぜた本格時代劇
この前半だけでも見応え十分なのだが、瀋陽に舞台を移した後半では一段とスケールと緊張感がアップしてますます目が離せなくなる。その中で特に目を引かれるのが、敵方である清の人々と、瀋陽に連行された捕虜たちの生きざま。清の将軍とジャンヒョンが、互いの利益のために手を結ぶうちに相手に親近感を抱く様子はちょっとしたブロマンスと言ってもいい。また、逃亡捕虜を狩るミステリアスな覆面の女と、瀋陽に人質として送られた世子、彼らとジャンヒョンの関わりもドラマを盛り上げる。
さらに、この戦乱を描いたドラマには珍しく、ギルチェら捕虜の女性たちが直面するつらい現実が克明に映し出される。彼女たちは運良く朝鮮に戻れても、敵に汚された存在として見なされ、故郷で居場所を失った者も少なくなかった史実にまで触れていて、時代や国を超えた女性の生きづらさに胸が痛む。それでも、ギルチェは尋常ではない苦難を経て成長し、ジャンヒョンは彼女がどんな状況に置かれてもひたすら愛し抜く。彼らの激しい愛と人生は、想像を遥かに超えて観る者に強く迫ってくる。
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