10年目突入の「山口組分裂抗争」。終結のカギは井上組長の"首"!?

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2024年09月05日 07:30  週プレNEWS

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警察が長期服役を狙うとされる神戸山口組の井上邦雄組長(2015年撮影)


日本最大の暴力団・山口組の分裂抗争が遂に10年目を迎えた。

【写真】暴力団追放を呼び掛ける警視庁の部長

本家の運営方針に不満を覚えた直系組長13人が反旗を翻(ひるがえ)し、2015年8月27日に発足した神戸山口組だが、最高幹部の足並みが崩れて離反・引退が相次ぎ、いまや風前の灯(ともしび)に。一方の六代目側は、神戸側の籠城戦と警察の厳しい包囲網を打ち破れず、地団駄が続く状況だ。

「現山口組六代目親分に於かれては表面のみの『温故知新』であり中身にあっては利己主義甚だしく...」

発足に際して全国の暴力団組織に送った書状で、司忍六代目組長をこのように痛罵した神戸山口組。「利己主義」との文言から、司組長の出身団体の弘道会を偏重した人事や組織運営への不満が積もり積もったうえでの離反劇だったことが透ける。

「高山清司若頭、竹内照明若頭補佐と名古屋を本拠とする弘道会ラインが要職を占めた。そもそも直参は直系団体から1人が出るものなのに、竹内若頭補佐が13年に直参に昇格したことで、弘道会からは両名が名を連ねることとなり、慣習に反するという不満があった。

また、東海地方などの直参の中には、個人的に竹内若頭補佐の舎弟となっている者も複数いて、他の直系団体からは『山口組が弘道会に飲み込まれ、自分たちはお払い箱になる』という危惧が高まりつつあった。弘道会とのシノギのぶつかりあいでも格の違いで押し切られることが増え、五代目時代の主流派だった山健組の井上邦雄組長らが中心になって『割って出るしかない』と腹をくくることとなった」(捜査関係者)

■情報工作や引き抜きの応酬

そして、15年8月27日未明に井上組長を親分とする盃事が挙行され、神戸山口組が立ち上がった。同時に展開されたのが、六代目側を切り崩すための情報戦。実話誌記者が当時を回想する。

「六代目側内部の疑心暗鬼を増長するため、10人近い直参の名前が挙げられて二次加入するといった噂が喧伝されました。また、自らの正当性を示そうと、六代目執行部が総本部を神戸から名古屋に移転しようとしていたといった真偽不明の情報も流れました。

しかし、神戸側の発足後に移籍した直参は2名にとどまり、10年目を迎えても総本部は神戸に置かれたままです。メディアも彼らに振り回されたということですね」(実話誌記者)


袂(たもと)を分かった両組織は、激しい引き抜き合戦や示威行為を狙った繁華街での練り歩き、そして乱闘事件を繰り広げた。

「引き抜き合戦は当初は、神戸側が優勢だった。構成員のほとんどを持っていかれて、弘道会系の組長が失踪するという珍事まで起きた。ただ、『支度金を払う』という誘い文句で六代目側から神戸側に移籍したもののカネはもらえず、異議を唱えたところ半殺しに近いヤキを入れられたというケースもあった。結局、カネと人事を餌にした空手形乱発の引き抜き工作だったので、次第に元のサヤに納まっていった」(捜査関係者)

■銃弾から長期戦へ

そして大きく潮目が変わったのが、両組織が抗争を自重した2016年5月の伊勢志摩サミットの閉幕直後。神戸側の有力組織の池田組の高木昇若頭が、岡山市内で弘道会系組員(当時)によって射殺された。

「両組織は和解に向けた協議を進めていた。ただ、この協議は六代目側からすれば神戸側の警戒を緩めるブラフで、引き抜き工作を担っていた高木若頭の身辺を水面下で調べ上げていた。

そのうえ、逮捕されて無期懲役を打たれたヒットマンは当時で32歳。背後関係を全くうたわずに一人で罪を背負った。準備の周到さと、覚悟を決めた若者をヒットマンとして用意している弘道会の組織力に神戸側は度肝を抜かれた。

そして、生死を懸けた泥沼の抗争に引きずり込まれて幹部が重刑を食らうことを恐れた井上組長は、報復しないことを明言する。現実的な判断とはいえ、ヤクザなのにやり返さないことで失望を買い、その後の離反につながった」(暴力団関係者)


17年4月、神戸側から離反して任侠団体山口組(現・絆會)が結成。20年は、中核組織である山健組、池田組が離脱したほか、分裂をけん引した大物組長が次々と引退。22年には、神戸側の解散を主張した寺岡修若頭が井上組長と対立して引退。

櫛の歯が欠けたように最高幹部が離反したことで、発足当初は2800人を誇った神戸側は、警察庁調べで昨年末時点で140人にまで落ちこんだ。月ごとの定例会は開けず、井上組長は兵庫県内の自宅で籠城しているとみられている。池田組も絆會も60人程度とされ、雌雄は決した印象だ。

「六代目側にとって、離脱組織は風前の灯火とはいえ、存続している状況自体が名折れになるし、抗争を終結できれば20年から続く特定抗争指定を解除できるので、完全壊滅を諦めていない。もはや末端組員の殺傷に執着しておらず、井上組長と絆會の織田絆誠代表、池田組の池田孝志組長をターゲットに絞っているとされているが、穴熊作戦に手を焼いている」(暴力団関係者)

■警察の狙いは井上組長の長期服役?

抗争が10年目に入って長期化しているのは、警察も手をこまねいているということなのか。

「警察は、特定抗争指定で事務所を使用させず、5人以上で集まれば逮捕できるといったようにヤクザをコントロールできている現状が最適です。構成員の落ち込みは六代目側も例外ではなく、分裂当初は6000人でしたが現状は3500人。だらだらと抗争状態を続けてもらった方が、組織力の低減につながります」(全国紙社会部デスク)

一方で、こんな見方もある。

「警察だってだらだらと警戒が続くのはまっぴらごめん。抗争の終結は、神戸山口組の解散が手っ取り早いが、井上組長に引退の意思はなく、長期服役させるしかない。だから、過去の事件を洗い直し、長期刑にもっていける事件がないか探っているという話もあります。

2019年の山健組組長による銃撃事件の公判がようやく10月に開かれますが、5年もの時間を要したのは、井上組長の指示を立件できないかと水面下の捜査が続いていたためと言われています。他にも、2007年の山健組幹部の粛清事件、京都の不動産業者の失踪事件など、井上組長の関与が取り沙汰されている事件があります。これらを立件できれば、井上組長を社会不在にすることができるし、抗争終結にもっていけます」(実話誌記者)

警察の手腕が今、試されている。

文/大木健一 写真/時事通信社、警視庁

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