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2004年10月5日、広島県廿日市市(はつかいちし)で高校2年生の女性が殺害される事件があった。父親は現場から逃走した犯人につながる情報を自ら集めようとブログを開設し、毎日投稿を続けた。事件からもうすぐ20年が経とうとする中、ブログは今も更新されている。背景には残された家族の強い願いがあった。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
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2004年10月5日昼過ぎのことだった。広島県廿日市市に住む北口忠(ただし)さん(66)の長女、聡美さん(当時17歳)が自宅で何者かに刺されて亡くなった。
1週間、1カ月、1年、いくら時間が経っても被疑者逮捕の知らせはこない。事件で聡美さんとともにナイフで刺され重傷を負った聡美さんの祖母は「私の命が尽きるのと犯人が捕まるのはどっちが先か」と口にしていた。
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犯人につながる情報がどこかに隠れているかもしれない。そんな思いでいる中、知人の勧めもあって、忠さんは2005年12月30日、ブログを始めた。
<娘への想いをつづる事を今日から始めます>
その一文で始まった投稿。聡美さんとの思い出のほか、映画を観たことなど日常の些細な出来事や思いつくことを日々書き連ねていった。そして、毎回最後にメールアドレスを載せ、「事件に関係する情報は、こちらのアドレスへお願いします」と書き続けた。
数あるブログの中で埋もれないようできる限り更新するようにしていたら、毎日投稿することが日課になっていった。
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命日を迎えるたびに強まる苦痛と焦り。そんな年を12回も繰り返していた2018年4月、突然、被疑者が逮捕されたという連絡が入った。
逮捕されたのは事件当時21歳だった鹿嶋学受刑者(のちに無期懲役が確定)で、下校途中の聡美さんをたまたま見かけて強姦しようと帰宅した家に侵入。抵抗されたためナイフで何度も刺して殺害した。姿を見られた聡美さんの祖母も襲い、その場に居合わせた妹にも手をかけようとした。
鹿嶋受刑者は事件直前、寝坊による遅刻で勤務先の会社に行くのが嫌になって逃げ出し、住んでいた山口県から東京に向かって原付バイクを走らせている途中で偶然見かけた聡美さんに狙いをつけて犯行に及んだ。
13年半もの間、自首することなく山口に戻って生活していた鹿嶋受刑者。事件への関与が発覚したのは、職場の部下への暴行で警察の調べを受けた際にDNA型や指紋が現場に残されたものと一致したためだった。
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暴行事件がなければ真相は闇のままだった可能性が高いこの事件。あまりにも身勝手な犯行、そしてその後も長い間自ら罪を打ち明けなかった加害者の行為は、被害者や遺族を苦しませ続けた。
事件直後は被疑者が捕まっていなかったため外出することもできず、しばらくの間、家族で自宅にこもってジグソーパズルを黙々と作り続けたという。
「2000ピースぐらいのものを10個以上作ったと思います。変に会話せずにすみますし、パズルに集中できるので」
忠さんは死刑を望んだが、広島地裁で開かれた裁判員裁判は2020年3月、鹿嶋受刑者に無期懲役の判決を下した。
「なんで娘がおらんなってお前が生きているのか。生きていること自体、許すことができない。本来は人の命を奪ったなら自分の命で償うのが一番です。家族を奪われた人間にとって死刑以外はありません。詐欺や傷害事件であれば、加害者に『悔い改めてやり直しなさい』と言えます。でも人を殺しておいてそういうことは絶対にありません。人の命を奪った人間に『立ち直り』という考えはありません」
事件は解決したが、忠さんはその後も4年以上ブログを更新し続けている。その背景には、事件から約1カ月たった頃に直面した忘れられない出来事があった。
通勤中の電車内で忠さんの近くにいた男性2人が「ひと月経つけど、あの事件解決しないよね。刺されて殺されたみたいだから、相当悪い女の子なんやろうね」と会話しているのを耳にした。
当時は犯人が逃走中だったため、捜査機関の見立てや憶測を交えて「恨みによる犯行か?」などと報じられていた。忠さんはニュースを見ていなかったが、電車内の出来事を機に、娘への根拠のない噂や誤解が広がっているのではないかと心を痛めてきた。
今もブログで聡美さんのことを発信するのは、娘の汚名を完全に消し去りたいという願いがあるからだ。
鹿嶋受刑者に対して無期懲役の判決が下された翌日の2020年3月19日のブログで、忠さんは聡美さんについて以下のように書いて訴えた。
「皆さん『突然、命を奪われた優しい女性』だという事に必ず、考え方を変えて頂きますように強く願います。一日でも早く、悪い噂や考え方を頭の中から消して下さい」
今も「遺族」という言葉が苦手だという。
「家族と言えばまたどこかで会えるかもしれないと思います。でも遺族というと、もう二度と会えない気がするんです」
同じ思いをする人を一人でも減らしたいと、講演や取材の依頼があれば応じるようにしている。
「事件が起きるとどうしてもひとごとだと思われるが、どこにでも起こりうる」
事件が発生した2004年は、まだ殺人にも時効があった。2010年に撤廃されたが、未解決となっている殺人事件はまだ多く残されている。
「未解決事件で一番怖いのは風化です。待っている家族は1年1年と年齢を重ねていきます。未解決事件の被害者家族の団体では高齢の方が多くなっていて、残された時間が限られています。早く解決してほしいと願っています」
2023年12月、犯罪の被害者や遺族が服役中の加害者に心情を伝える「心情等伝達制度」が始まった。だが、忠さんはこの制度を使うつもりはないという。
「(鹿嶋受刑者は)本心をどこにも出していないはず。今さら娘や家族のことを思われても、今さら何? という感じです。思い出したくないというのが一番です」
聡美さんが生きていたら今年で37歳になる。
「柴咲コウに似ていると言われていたので、生きていたらこんな感じになっていたのかなと思うことがあります」
娘の成長した姿を見ることは一生叶わない一方で、無期懲役刑で服役している鹿嶋受刑者には将来、仮釈放という社会復帰の可能性が残されている。このことについて忠さんは強い口調でこう話した。
「世間に出てくるのは絶対に認められません。命があるだけでいいじゃないか。生きていること自体が許すことできないのに、塀の中から出てくるというような考えを持つなよと。裁判の判決で命を守ってもらったなら、生きるのがこんなにつらいのかという毎日を過ごすべきです」
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