転職市場では40代を中心とした、即戦力となり得るミドル層の採用を強化する動きが強まっています。しかし労働力不足が深刻化する中、人材獲得競争はこれまでになく白熱。多くの企業が苦戦を強いられているのが現状です。
ミドル層の採用で「優秀で申し分ないけれど、転職回数が多いのがネックだな……」といった事態はしばしば起きます。こうしたとき、どのようなポイントを踏まえて考えるべきなのでしょうか。
前編「ミドルの採用、競争が激化 苦戦する企業の『3つの共通項』とは」に続き、後編となる今回は、転職などにまつわるデータも用いてミドル層の特徴、またそれを踏まえた採用面接のポイントを解説します。
●ミドル層採用に成功する企業は「何を見極めている」のか
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新商材の販売開始を前に、専門商社のC社は、営業部隊を統括できる人材を探していました。C社は新型コロナの感染拡大を受け、業績が著しく悪化。生き残りをかけて開発した新商材であるため、採用における希望条件は高く、以下を必須経験として挙げていました。
●C社が求める経験
・有形商材の豊富な営業経験
一方、これまで金融業界で営業職を続けてきたDさんは、もっとやりがいのある仕事にチャレンジしたいという思いが芽生え、転職を検討していました。
●Dさんが有する経験
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・金融業界での20年以上の営業経験
・営業部門を含む、複数部門での10年以上のマネジメント経験
C社はDさん職務経歴書を確認し、営業とマネジメント経験は申し分ないとの判断でしたが「業界経験者でないこと」そして「5回転職していること」が懸念材料となり、一度は面接を見送りました。しかし、新商材の販売開始が控えているという時間的制約や、Dさんのビジネススキルに関する高い評価を理由に転職エージェントから再プッシュがあり、面接してみることに。
面接を通じC社は、Dさんの課題の見つけ方や乗り越え方を含むこれまでの仕事の進め方、周囲との関係性の構築方法などを知り、Dさんの汎用性の高いビジネススキルに驚きました。また、毎回チャレンジ精神を持って転職し、さまざまな経験を積み重ねてきたことも知りました。
結果C社は「幅広い営業チャネルの開拓」「営業戦略の立案・実行実績の豊富さ」「営業組織づくり」など、営業部隊の責任者として必要な経験を豊富に有していることから、業界未経験であっても周囲を巻き込みながら新商材を売ってくれるだろうという期待のもと、Dさんの採用を決めました。
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職務経歴書のみで判断していれば、C社はDさんを採用することはなかったでしょう。しかしC社は面接で、職務経歴書からは読み取れないDさんの汎用性の高いビジネススキルに加え、当初懸念材料として挙がっていた「転職回数の多さ」については、前向きな転職を通じ積み重ねてきたさまざまな経験があることを理解し、採用を決めました。
「転職回数」については、回数の多さから定着性を懸念するケースが多いのが実態です。しかし、採用背景や事業フェーズを踏まえた上で、いかに環境の変化に適応し、早期に立ち上がれるかを重要な論点とするならば、回数の多さは変化適応力という強みとして捉えられます。
「ならば、面接で具体的にどのようにスキルや経験を判断したらいいのだろう」と思った人も多いのではないでしょうか。
実は、ミドル層採用の面接現場も書類選考と同様に、求めるスキルや経験の有無を確認する“スキルジャッジ”の場としての側面が強く、企業が求める要素と近しいものを持つ候補者であるにもかかわらず、それらを引き出すようなコミュニケーションが取れていないケースが散見されます。
この事実を踏まえ、ここからは、求めるスキルや経験を引き出すために理解すべきミドル層の特徴である「キャリア観」と「自己開示の深さ」を解説したうえで、それを踏まえた採用面接のポイントをお伝えしたいと思います。
●特徴(1)キャリア観
転職サービス「doda」における40歳以上ミドル層の新規登録者数は増加傾向にあり、2023年の新規登録者数は2018年比で1.5倍以上になっています。
これには、新型コロナ以降、従来の上昇志向が強いミドル層のみならず、働き方改善などを目的に転職を試みるミドル層の増加が影響していると考えられます。また、現職の事業縮小や売却などのキャリアショックを起点として急遽(きょ)、転職に踏み切る転職経験のないミドル層が増えていることも関係しているでしょう。
つまり、転職市場にはこれまで以上にさまざまなタイプのミドル層がいるということです。そんな彼らのキャリア観は、大きく4つに分けられると捉えています。
・現状維持型:安心できる環境でやるべきことに集中して働くタイプ
・ワークライフバランス型:責任感を持ち他者と協力して働くタイプ
・やりたいこと重視型:組織の中で成長していくことで専門性を切り開くタイプ
・スキル追求型:リスクをコントロールし自己改革のために働くタイプ
企業主体でキャリアを高める維持型傾向の「現状維持型」「ワークライフバランス型」は、組織の中で成長し、経験、スキルを積み上げていく傾向があります。
自己主体でキャリアを高める確立型指傾向の「やりたいこと重視型」「スキル追求型」は、好きなこと、興味があることや自己成長を追い求める傾向があります。ちなみに、従来転職市場に多く出てきていたのは「スキル追求型」でした。
確立型傾向のミドル層は、専門性の追求やさらなる自己成長を重要視しており、かつ多くは転職経験もあるため、自らの経験やスキルをある程度言語化できるでしょう。
しかし、キャリアショックにより突如として初の転職に挑むことになった維持型傾向のミドル層は、職務経歴書を書いたこともなければ、自身のキャリアを十分に振り返ったこともないでしょう。
そんな彼らにスキルや経験の有無を単刀直入に聞いたとしても、実は近しいスキルや経験を有しているのにそれを企業に伝えられず、双方にとって機会損失になってしまう可能性があると考えられます。
●特徴(2)自己開示の深さ
パーソル総合研究所の「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」(参考リンク:PDF)によると、キャリア相談時の自己開示の深さは、40代以降急激に落ちることが分かっています。
社会人経験を重ねると役割上、聞き役に回り、意図的に若手層の話を引き出したり、仕事でも私生活でも決まったコミュニティーとしか接点を持たず、他者との交流が減ったり──。そんな傾向が強くなることが、自己開示しなくなる一因であると考えられます。
このデータから、一定数のミドル層はスキルや経験があったとしても、積極的に自らについて語らない可能性が高いと想定できます。スキルや経験の有無ならば答えられるでしょうが、近しいスキルや経験の有無、業務上の工夫、仕事における興味・関心などまでは自ら語らない可能性があります。
●面接のポイント:「STARモデル」を活用し、個人の行動特性や思考特性を引き出す
ご紹介したミドル層の2つの特徴を踏まえ、面接時のポイントとして「STARモデル」を紹介したいと思います。
「Situation」(状況)、「Task」(課題)、「Action」(行動)、「Result」(結果)の4つの観点から過去の特定の状況下で、どのような課題に取り組み、どのような行動を取り、どのような結果が得られたのかを聴き出すことで、個人の行動特性や思考特性を把握する面接手法です。行動面接とも呼ばれています。
本手法に沿ってコミュニケーションを取っていけば、どのようなキャリア観を持ったミドル層でも、自己開示が苦手なミドル層でも、ストーリーテリングがしやすくなるでしょう。企業はそのストーリーの中から、求める、もしくは近しいスキルや経験を見極めることができます。
ミドル層採用の面接は、迎え入れる現場部門が担うケースが多いため、スキルジャッジがメインになってしまいがちです。面接に携わる現場、そして企業人事や採用担当者も含め、これまでの面接を振り返り、アップデートする意味合いも込め、「STARモデル」を活用いただけたらと思います。
●最後に:「アンラーニング力」と「キャリアオーナーシップの発揮」を見極めることも重要
「職務経歴書上だけで判断しすぎない」という点に立ち返り、面接で見極めるべきポイントをもう2つお伝えし、本稿を締めたいと思います。
(1)アンラーニング力
アンラーニングとは「学習放棄」とも呼ばれ、これまで得た知識やスキル、さらには自らの価値観を見直し、取捨選択し、代わりに新しいものを取り込むことを指します。
人は、年齢や経験を重ねるにつれ、仕事の進め方や考え方が凝り固まっていく傾向にあります。しかし、即戦力として迎え入れられ、事業貢献が求められるミドル層に関しては特に、転職先の企業のミッションやバリュー、カルチャー、プロダクトやサービスにおける新たなインプットなくして、自らの経験や経験を最大限に生かすことはできません。
よって面接を通じ、未知のことにもオープンなタイプか、年齢や役職に関係なく周囲から学び、新しいことを吸収する姿勢の持ち主かを見極めることが重要です。
また、特定の専門性など発揮してほしいスキルがあればあるほど、受け入れ時の期待が高まっていく一方で、その期待が環境適応における足かせとなり、想定していた活躍につながらないケースが、ミドル層採用において散見されるのも現実です。異分野に挑戦する人ほどアンラーニングしやすい柔軟なマインドセットを持っていることを踏まえた上で、環境適応力を適切に判断することが重要といえます。
(2)キャリアオーナーシップの発揮
自らのキャリアを自分の力で切り開いていく主体性、すなわち「キャリアオーナーシップ」を発揮できるかは、事業にインパクトをもたらすことが求められるミドル層には特に重要です。
パーソル総合研究所の「従業員のキャリア自律に関する定量調査」(参考リンク:PDF)によると、キャリア自律度、すなわち「キャリアオーナーシップ」が高い人ほど、自己評価やワーク・エンゲージメント、学習意欲、仕事充実感が高く、人生満足度も高いことが分かっています。
自らの働き方を考え、自分の意思で決め、その自己決定に基づいて行動することができるタイプか。これまでのキャリアの描き方や、自身のキャリアに対する向き合い方などを、面接を通じ掘り下げることも非常に重要といえるでしょう。
著者プロフィール
山口 義之(やまぐち よしゆき)
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