原案である『若草物語』では、作者のオルコットが自身の性格を投影した4姉妹の次女・ジョーを結婚させたくなかったんだそうですね。自分と同じく生涯独身を貫く女性を描きたかったのに、出版社や読者の圧力に屈して作中でジョーを結婚させたことを後に後悔しているというエピソードが語られています。
ドラマ『若草物語 ─恋する姉妹と恋せぬ私─』(日本テレビ系)も最終回前の第9話。主人公のリョウ(堀田真由)にも、いよいよその魔の手(?)が迫ってきました。さあ大変。
振り返りましょう。
■好きじゃないと伝える話
冒頭、プロットライターとして参加していたドラマ『恋愛遊覧船』の打ち上げのビンゴで空気清浄機を引き当て、ゴキゲンのリョウ。今後も師匠の大平かなえ(筒井真理子)に付いて脚本家修行を続ける気満々でしたが、大平師匠の次作のプロットは局からの御指名ライターが担当するとのことで、あえなくお払い箱となってしまいました。
無職となったリョウは公園で1時間ブランコを漕いでみたり、昼間から映画を2本見たりとプラプラしていますが、姉妹たちには大きな変化が訪れています。
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姉のメグ(仁村紗和)はハローワークでセクハラ上司を告発し、こちらも失職中。3年付き合ったしょうもない彼氏とは別れてしまいましたが、非正規公務員の待遇改善を求める団体活動に精を出し、いい感じの新聞記者と出会っています。
妹のメイ(畑芽育)はコンテストでグランプリを獲得し、賞金200万円をデザイナー志望の沼田(深田竜生)と分け合うことに。2人でブランドを立ち上げるつもりだったメイに、沼田はすでにインターンとして働き始めていることを伝えます。それでも沼田と離れたくないメイは沼田の弟のお世話をさせてもらうことにしました。
弟のマコト(永瀬矢紘)を連れて行ったファミレスで酔っ払いにからまれ、割れたグラスで負傷してしまったメイ。病院に沼田がやってきますが、沼田はマコトを危険にさらしたメイにブチ切れ。メイのケガには目もくれず、マコトを抱き上げて去っていきました。メイはずっと沼田が好きでやっていたことですが、メイは沼田が自分を「まったく好きではない」ことを悟るのでした。
メグもメイもいろいろすっきりして、リョウは安心したようです。3人で昔話をしながら散歩する昼下がり、これからもずっとこんな暮らしが続けばいい。そう思っていたリョウですが、家に帰るとメグの元カレである大河(渡辺大知)が待っていました。
メグに復縁を迫る大河。しかしメグはそんな大河を一蹴すると、自分は新しく付き合い始めた新聞記者と同棲したいと告白します。その告白を真剣に聞くリョウ。その場にはまだ大河がいますが、もう誰の眼中にも入っていません。メグがもう大河を「まったく好きではない」という明確な拒絶です。さらにメイまでパリに留学すると言い出し、リョウはひとりぼっちになってしまうことになりました。
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沼田やメグのように、相手を「まったく好きではない」のであれば、話は簡単です。しかし、リョウの場合はそうもいきません。
姉妹と別れることになり、もうリョウには親友のリツ(一ノ瀬颯)しかいなくなりました。結婚にも恋愛にも興味がないリョウのことをもっとも理解してくれる男友達だったリツ。そのリツが最近、やんわりとアプローチをしてきていることはリョウも気付いていましたが、いよいよ決定的な場面が訪れてしまいました。
夜の公園でひとしきり子どものように遊んだ後、リツはリョウにプロポーズします。「リョウにも僕が必要だろ?」「家族だって喜んでくれる」。あらゆる角度から迫るリツの言葉はすべて本気だし、リョウにリツが必要であることも、家族が喜んでくれることも間違いありません。
それでも、リョウは首を縦に振ることができません。あくまで「友達でいたい」と言い張るリョウを残して、リツもまた立ち去ってしまうのでした。リョウはリツのことを「まったく好きではない」なんてことはなく、むしろ大好きです。でも、結婚とか恋愛とか、そういうのは無理。その拒絶はリツにとっては理不尽に映りますし、リョウにとってもまた最大の理解者を失うことになるのでした。
■制御不能な感情
リツがリョウに恋愛感情を抱くことを制御できなかったように、リョウもまたリツの思いを受け入れることができません。「友達でいて」と訴えるリョウの悲壮な表情は、恋愛に踏み切れない自分に戸惑っているようにさえ感じられます。はっきりと語られたわけではありませんが、リョウという人物はアセクシュアル、あるいはアロマンティックと呼ばれる、他人に恋愛や性愛感情を抱かないという指向の持ち主であることが示唆されています。
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思い返せば、『若草物語』というドラマでは女性のセクシュアルについて意識的に明示しているように感じます。四女のメイは沼田とワンナイトの関係から始まっていますし、音信不通だった三女のエリは田舎町で地元の男と子どもを作っていた。長女のメグもずっと彼氏がいたし、次の男と同棲を始めるという。うっすらと描かれてきた次女・リョウの孤立感が、ここにきてリツ自身が「気持ちを押し付けることは暴力だ」と語っていたその暴力的プロポーズによって白日の下にさらされてしまったわけです。
さらに、沼田とリツに両親がいないこと、4姉妹の母親が放蕩者であることで、このドラマは恋愛や結婚と親の問題を周到に切り離しています。あらゆる選択や決断を、自己責任において下すことを登場人物たちに強いているのです。
そうしたシビアな構造でリョウというひとりの女性を孤独に陥れておいて、次回は最終回。再びリョウは脚本を書くようです。リョウがどんなセリフを書くのかわかりませんが、このドラマは「脚本には書き手の本心、魂が乗る」ということだけは言い続けてきていますので、『若草物語』というドラマが伝えたかったことが、きっと明確になるはずです。
第7話のレビューで「このドラマの脚本家は腹を割って見せるということを恐れていないし、恥じていない。」と書きました。楽しみに待ちましょう。
(文=どらまっ子AKIちゃん)