コムジェスト・アセットマネジメントは12月6日、東京・丸の内で「不変の哲学と不屈の調査〜アナリストが語る投資判断の舞台裏〜」と題して「コムジェスト・パートナーズ・イベント2024」を開催した。同社が戦略を提供するファンド・オブ・ファンズを設定する国内運用会社やIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)などを対象として同社のポートフォリオマネージャーやアナリストが戦略の運用状況等について語った。イベントの開会にあたって同社代表取締役社長の高橋庸介氏(写真:左)は、「運用担当者には運用に専念してもらいたいという思いが強いため、このようなイベントへの参加はできるだけ控えてもらっているが、このイベントだけはパートナーの皆様にコムジェストへの理解を一層深めていただきたいという特別な機会と位置付けている。本日は、インフォメーションだけでなくインテリジェンス(意思決定のために情報を分析して得られる知見)をお伝えしたい」と語った。
高橋氏は、同社が投資する企業を選定する際の基準の一つとしている「5年連続2ケタの利益(EPS)成長=クオリティグロース」という条件を備えた企業を発掘することは「きわめて難しい」とし、「それだけに、ひたすら地味な調査を根気よく続けるしかない」という。イベントのタイトルに置いた「不屈の調査」とは、愚直に長期・2ケタ成長が見込まれる企業を探し続ける同社の運用チームの日常を表した言葉だと語った。そして、この11月に出版した同氏の新書籍『未来を変える価値ある投資』についても紹介した。「今年夏前に体調を崩し、もはや仕事を継続できないのではないかと思い遺書のつもりで書いた」という。12月には、この書籍出版に伴うイベントを開催するほか、来春には国際的な安全保障をテーマにしたセミナーを計画。また、投資先の企業訪問も実現したいとした。「価値ある情報を積極的に発信していきたい」と語っていた。
イベントの第1部は、世界株式戦略アナリスト/ポートフォリオマネージャーであるAlexander Narboni氏(写真:中央左)が「投資判断の事例紹介」について語った。Narboni氏は、まず、「コムジェストのパートナーシップ文化」について紹介。運用担当者はじめ一定の基準を満たしたコムジェストの全社員が、コムジェスト社の株式を保有し、「会社の経営パートナーとして全社員が自社の経営にかかわりを持ちながら業務にあたっている」という。その結果、「投資家と同じ視点で考えられる」「ベンチマークを意識しない長期投資を考えられる」「違う地域の運用チームと競争するのではなく情報共有し、協業ができる」などの様々なメリットがあるとした。そして、同社が投資先企業を選定する上で共通して持っている「クオリティグロース企業」を発掘するには「調査」が何よりも大事であると語った。「対象企業との対話はもとより、業界のエキスパートとの対話、そして、グローバルなサプライチェーンや競合について理解を深めるのは各地域の運用チームとの協議も不可欠だ」とした。
そして、具体的に投資で成功している事例、失敗した事例を紹介した。成功事例として挙げたのは、「SBI・コムジェスト・クオリティグロース・世界株式ファンド」でも組み入れ上位になっている「TSMC(台湾セミコンダクター)」と「イーライリリー」を取り上げた。「TSMC」については、「世界最大のファウンドリ(半導体受託製造会社)で、2008年頃に世界で8社の大手企業があったが、今では3社しかない。そして、先端半導体の製造はTSMCがほぼ独占している」という強さを紹介。そして、「TSMCの業績は好調を維持しているものの、だから、それで安心というわけではない。常に、競合他社の動き、地政学リスクの検証などを行っている。2021年には株価が下落したが、その際にもTSMCの優位性に変化がないかを詳細に調査して継続保有を決定した。現在はその継続保有決断がプラスに働いている」とした。
「イーライリリー」については、糖尿病治療薬として開発された「GLP−1」が肥満症へも適用拡大される見通しとなったことで「糖尿病関連医薬品のゲームチェンジャーになる可能性がある」という確信を持ったと語った。「GLP−1の市場価値は2030年に700億ドルの市場になると考えられ、かつて1つの薬がこれほど巨大な市場を獲得したことはない」という画期的な新薬になる可能性があるとした。一方、失敗事例として紹介したのは、歯列矯正器具のメーカーへの投資だ。独自の技術によって歯列矯正の市場で大きなシェアを維持できると予想されたものの、実際には競合が現れて期待ほどの収益に届かなかったという。歯科医師なども含む市場調査の結果でも高い評価を得られなかったため、株式を全売却した。Narboni氏は、徹底的な調査とともに、「規律ある行動」も重要だと語った。「規律ある行動を心がけることで、失敗した時にもパニックになることなく冷静な対応が可能になる」と語っていた。
第2部は、日本株式戦略のアナリスト/ポートフォリオマネージャーであるRichard Kaye氏(写真:中央右)とChantana Ward氏(写真:右)が「企業調査こそが付加価値の源泉」と題して講演した。Kaye氏は、「現在の日本企業は、全世界の上場企業の中でも有望だと思っている」と国内市場への強気の見通しを語った。ただ、「クオリティグロースの基準に合致する企業を探そうとすると、全体の1〜2%程度しか存在せず、それを見つけ出すのが非常に難しい」と語った。そのうえで、「ここ2〜3年はバリュー株の色が強くなっており、過去40年の歴史を振り返ってもこれほど長くバリュー株優位の相場が続くようなことはなかった。良い会社が株価で正しく評価されていない可能性が高い」とした。その理由の1つとして、「国内企業のIR(投資家向け情報開示)が適切に行われていない」と語った。「英語で情報開示し、ESGや女性取締役の数の開示など、外形的な部分で欧米の企業をまねても意味がない。自社のストロングポイントがどこにあるのか、各社それぞれにわかりやすく情報発信する努力が求められる」と語っていた。
続いて、Ward氏が具体的な投資先企業について語った。日本株ポートフォリオは38社で構成される集中投資型のポートフォリオになっている。「日本市場ではビジネスモデルが評価されていない会社が多い」と感じるとし、「日本には『高齢化』『デジタル化』『変わりゆく日本』などのメガトレンドがいくつかあり、それに沿って明確な成長ストーリーがある企業に投資している」と語った。たとえば、「デジタル化」では「浜松ホトニクス」や「ダイフク」など、「世界的リーディングカンパニー」の強みについて解説した。また、「変わりゆく日本」を象徴する企業として「日立製作所」と「三菱重工」、「アシックス」などについて紹介した。
イベントでは、具体的な投資事例について失敗した事例も含めて率直に情報提供をしていた。たとえば、日本株についても「日本M&Aセンター」への投資は、不祥事で大量に社員が退職するなど将来展望が描けない中で株価が大きく下落した局面で「失敗」と判断して売却した失敗事例として紹介した。「ただ、コロナ禍でM&Aが活発化したものの、その反動減として業績が低迷した。個社の問題ではなく、業界全体がダウンサイド・トレンドに入っていたもので、改めて調査してみると、『日本M&Aセンター』の強みは維持されていると評価できたため、改めて投資を検討している」とした。戦略のパフォーマンスは、1年、3年などの期間では、代表的な株価指数と比較して及ばない部分もあるが、15年、20年という長期のパフォーマンスでは年率2ケタ成長を実現している。「長期の目線で投資していただきたい」(Kaye氏)と呼び掛けていた。