見かける機会が増えた「バインミー」専門店 サブウェイの教訓を乗り越え、日本人の日常に溶け込めるのか

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2024年12月14日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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バインミー、今後の可能性は?(出所:ゲッティイメージズ)

 近年、街中で「バインミー」専門店を見かけるようになった。バインミーとは、いわゆるフランスパンに肉やハムなどを挟んだベトナム料理。見た目は飲食チェーン「サブウェイ」が販売しているサンドイッチに近い。


【画像】ドンキやイオンに出店しているチェーン店のバインミー、店内の様子、メニュー表(全6枚)


 現地では一般的なファストフードのバインミーだが、日本での認知度が高まったのはここ3〜4年くらいと思われる。国内では既に複数の事業者がチェーン展開しており、全国的なブランドが多いハンバーガーチェーンのような規模にまで成長するのか気になるところだ。そこで今回は、国内18店舗(12月9日時点、以下店舗数は同日時点)を運営する「バインミーシンチャオ」のブイ・タン・ユイ社長に話を聞いた。


●インパクトある見た目、アジア料理人気が「ブーム」の背景に?


 バインミーは本来、ベトナム語でパンを意味する。ベトナムではフランスの植民地時代にフランスパンが持ち込まれた。現在のようなサンドイッチ型のバインミーが広がったのは、第二次世界大戦後とされる。肉、野菜のほか、パクチーなどハーブ類を挟むのが一般的であり、魚を挟むことはない。


 「現地では基本的に朝食で食べますが、間食で食べる人もいます。主に屋台で販売しており、1個当たり150円が相場で、高いものでも300円ほどです。基本は外で買うもので、家庭では作りません」(ブイ・タン・ユイ社長)


 日本では在日ベトナム人の増加とともにバインミー専門店が増え、近年メディアで目にすることも増えた。特に認知度が高まったのはコロナ禍以降である。彩り豊かな見た目や、アジア料理人気が影響してSNSで話題が広がっていった。健康志向が高まる中で、野菜を摂取できることも人気の一因だろう。


●「いずれはマクドナルドのように」


 バインミーシンチャオは都内を中心にフランチャイズ展開しており、現在は18店舗で他業者より店舗数が多い。社長は将来的に「マクドナルドのようなチェーン店にしたい」としており、並々ならぬ気合が入っている。


 もともと同チェーンは、2016年にユイ社長が弟と共同で創業。高田馬場に1号店を構えた後、2019年に浅草で2号店をオープンした。今回訪問した浅草店はビルの2階に位置し、主要道路に面していないものの店内から隅田川を望めるのが売りだ。店内はアジア料理店のような雰囲気で、日本人客と外国人客でにぎわっていた。客は女性の方が多い。店員はベトナム人である。


 販売するバインミーは全11種類。価格はおおむね700〜800円台で、「焼き豚肉バインミー」や「スペシャルバインミー」などが人気だ。ベトナムの麺料理「ミークアン」やビーフン、サラダなども提供する。ドリンクはベトナム風のコーヒーやフルーツを使ったティー、グアバジュースなど東南アジアを思わせるものが多い。バインミーとドリンクのセットは30〜50円引きとなる。


 「現地の味を日本人にも楽しんでもらいたいという思いで創業しました。そのためバインミーの味は日本人向けにアレンジせず、現地のものを再現しています。そもそもバインミーはもともと日本人受けする料理だと思っています。チェーン展開では、全店でメニュー構成を統一しています」(ユイ社長)


 近年はパクチーブームもあり、国内消費者の食に対する嗜好(しこう)の幅が従来以上に広がっている。前述の通り、いつかはマクドナルドのような大チェーンにしたいとユイ社長は意気込んでおり、メニュー表もファストフード店のように、見てすぐに全体像が分かるような構成になっている。


●サブウェイの教訓を乗り越えられるか


 バインミーは、ワタミが買収して話題になったサンドイッチチェーン「サブウェイ」のサンドイッチに似ている。サブウェイは自分でトッピングをアレンジできる点や、野菜を積極的に食べられる点が注目され、店舗を拡大していった。しかし、2014年に500店舗弱まで拡大したのをピークに勢いを失い、現在では187店舗しかない。


 サブウェイが日本で思うように拡大できなかった背景には、注文方式の煩雑さがあるといわれている。注文の際、パンの種類や追加のトッピング、野菜やソースを自分で選ぶ必要がある。自分で商品を選ぶならまだしも、口でスタッフに伝える仕組みは確かに面倒である。調理に時間がかかる点もファストフードとしては難点で、量の割に値段がやや割高な点もマイナス要因と筆者は考えている。


 反対に、国内のバインミー店舗は今回の取材先を含め、一定のメニューで提供するところが多く、サブウェイのような煩雑さは感じない。他方、価格は単品でどこも600〜800円台であり、牛丼やバーガーチェーンと比較して価格面では厳しそうだ。


●狙いは商業施設 日本人の「日常」に溶け込めるか


 バインミーシンチャオは18店舗中、フランチャイズが12店舗を占める。フランチャイズ加盟の問い合わせも多く、これまでは組織体制を確立するために出店を絞ってきた。ほとんどがベトナム人オーナーで、日本人オーナーがいる店舗は2店舗しかない。店員も基本的にベトナム人だ。来年度以降、本格的に出店を強化したいとユイ社長は話す。


 「他の業態よりも比較的初期投資額が小さいこともあり、今後はフランチャイズ店をメインとしつつ、直営店も出店します。地域別では関東と関西が中心で、立地は路面店と商業施設内を狙っていきたいです」(ユイ社長)


 特に勝機を見いだしているのが商業施設内の出店だ。現状はドン・キホーテの1階部分で路面店として営業する店舗、イオンモールのフードコート内店舗などがあり、競合と比較して商品力と認知度で勝ると考えている。


 エキゾチックな雰囲気が強い他のバインミー専門店と比較し、バインミーシンチャオはカフェらしい雰囲気があり、メニュー構成も分かりやすい。この点は、今後の店舗展開で競合店と差がつく要因になるかもしれない。


 現状、まだバインミーはSNSでの話題性や物珍しさで食べに行く人が多いようにも感じる。しかし、1食でパン・野菜・肉をバランス良く食べられる栄養面や、手軽さの持つポテンシャルは大きい。順調に店舗数が増え、認知度が高まれば、日本人の日常にも根付く可能性は低くない。将来的には牛丼やハンバーガーチェーンと同様、頻繁に見かける日が来るかもしれない。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



このニュースに関するつぶやき

  • デリバリーの冷たいサンドイッチを食べながらの米国のランチミーティングが本当にイヤだった。ベトナムでも、バインミーよりは暖かい麺類を食べていたい。
    • イイネ!9
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