【「本屋大賞2025」候補作紹介】『禁忌の子』――救急医・武田の元に搬送された溺死体は自身と瓜二つ......!? 現役医師が描く医療×本格ミステリ

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2025年03月17日 18:10  BOOK STAND

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『禁忌の子』山口 未桜 東京創元社
 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2025」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、山口未桜(やまぐち・みお)著『禁忌の子』です。

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 山口未桜氏のデビュー作でありながら、満場一致で第34回鮎川哲也賞を受賞した『禁忌の子』。刊行後は各種メディアで続々と紹介されたほか、書店員からも大きな注目を集め、2025年の本屋大賞にノミネートされることとなりました。

 2023年4月、兵庫市民病院で働く救急医・武田 航の元に、一体の溺死体が運ばれてくるところから物語が始まります。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、驚くべきことに顔や体格、体の特徴がすべて武田と同じでした。彼は何者なのか、なぜ死んだのか、自分との関係は何なのか......?

 武田は同じ病院に勤務する消化器内科の医師で、中学時代の旧友でもある城崎響介に協力を要請。ともに調査を始めたふたりは、武田の亡母が妊娠中に不自然なタイミングで病院を変えていたことを知ります。しかし、キーパーソンとなりそうな不妊治療専門クリニックの理事長に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまい......。

 なんとも奇想天外な設定にもかかわらず、冒頭の蘇生を試みるシーンの臨場感は圧巻で、読者は物語の世界へ一気に引き込まれます。著者の山口氏が現役医師であることから、同書では医学用語が頻繁に飛び交い、医療モノとしての面白さを存分に楽しめます。

 そしてそこに加わるのが、探偵役となる城崎というキャラクターの魅力です。彼は見た目が麗しいだけでなく、探偵役としていかに優秀であるかを早々に読者に知らしめます。

 さらに、ミステリの王道的要素が満載でありながら、重厚感ある人間ドラマも繰り広げられる同書。遺体の謎を追っていくうちに、武田はおのずと自分のルーツを辿ることとなります。衝撃に次ぐ衝撃の展開とともに、クライマックスで突きつけられるのはあまりにも辛すぎる現実。タイトルにも帰結する物語最後の一文は、ゾクリとさせられるとともに深く考えさせられるのではないでしょうか。

 生殖医療の問題やそれにまつわる倫理観など、医師だからこそ持ちうる知識と医療現場に立つ者だからこそ描けるリアリティが山口氏の強み。今後、さらに深みのある作品が生み出されることが期待されます。なお、医師・城崎は今後も登場し、シリーズ第2弾『白魔の檻』が2025年刊行予定とのこと。頭脳明晰ながらひとクセもふたクセもある彼が一体どんな活躍を見せるのか、今から楽しみですね。

[文・鷺ノ宮やよい]



『禁忌の子』
著者:山口 未桜
出版社:東京創元社
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