ソニーの「Xperia」は、日本ではよく知られたスマートフォンブランドで、新しいモデルが出るたびに注目される。
ITmedia Mobileが2024年4月に実施した読者アンケートでは、2024年4月〜5月に発表されたハイエンドスマートフォンの中で、Xperia 1 VIを選ぶと回答した人が最多だった。それ以前のモデルも、記事の反響を見る限り、端末としての人気は高いと感じることが多い。
しかし実際には、Xperiaの販売数は日本国内でも海外でも落ち込んでおり、スマートフォン市場でのシェア(出荷台数の割合)は大きく下がっている。市場調査会社のデータでも、Xperiaは上位5社から姿を消してしまっているのが現状だ(後述)。
なぜ、注目されているにもかかわらず、販売が落ちているのか。ここではその理由を、Xperiaの歴史を振り返りながら見ていく。
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●ソニー・エリクソンから生まれたXperia
Xperiaはもともと「ソニー・エリクソン」という、ソニーとスウェーデンのエリクソンが2001年に設立した合弁会社から2008年に誕生した。同年10月に発売の「Xperia X1」は、欧米諸国向けのモデルで、スライド式のキーボードとWindows Mobile 6.1を搭載していた。
2009年には、OSにAndroidを採用した「Xperia X10」を投入し、2010年には日本向けモデルとして「Xperia SO-01B」がNTTドコモから発売された。当時はスマートフォン黎明(れいめい)期で、XperiaはSO-01Bがヒットし、その後、ブランドが徐々に定着していった。
その後、2012年に合弁が解消されたことに伴い、ソニーモバイルコミュニケーションズが発足。Xperiaは高級モデル「Zシリーズ」などが人気を集め、特に2013年には、ドコモがGalaxyと並んで「ツートップ」と銘打ち、Xperiaを優遇した形での販売を行ったことで、Xperiaの人気はますます高まった。
●悪化するソニーモバイルの経営 スマホ事業は縮小へ
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しかし、2014年に事態が一変する。ソニーモバイルが大赤字になり、ソニー本体の経営にも影響が出るほどだった。
この時期、世界ではHuaweiやOPPOといった中国メーカーが、安価でコストパフォーマンスを武器にしたスマートフォンを市場に投入し、価格競争が激しくなっていた。こうした中、Microsoftがスマートフォン事業から撤退。HTCはVRにシフトしていき、LG Electronicsは赤字が続き、2021年にスマートフォン事業から撤退している。
一方でソニーは、赤字でもスマートフォン事業を継続したものの、利益を生むためにスマートフォン事業を大きく縮小した。その決断を下したのが、ソニーモバイルの十時裕樹社長(当時)だった。高価格のモデルに絞り、販売する国や地域も減らし、主に日本市場に集中した結果、世界での存在感はほとんどなくなった。日本でも、シャープのAQUOSなどに抜かれてシェアが落ちていった。
2018年には、岸田光哉氏(現:ニデック社長)がソニーモバイルの社長に就任し、製品ラインアップを刷新。クリエイターやゲーマー向けに特化した「Xperia 1」シリーズと「好きを極める」という新たなコンセプトを打ち出し、特にクリエイターから高い評価を得るようになる。
しかし、2017〜2019年度のモバイル・コミュニケーション(スマートフォンと固定通信)事業は、減収減益に加えて赤字に見舞われ、グループ全体でも足を引っ張る格好となっていた。一方、2020年度は減収だったが、オペレーション費用を削減することで、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューションは519億円の大幅増益となり、モバイル・コミュニケーションも赤字を脱却して277億円の営業利益を上げた。
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2019年には、ミッドレンジモデルのてこ入れを行った。国内で投入した「Xperia Ace」と「Xperia 8」を皮切りに、2020年には「Xperia 10 II」「Xperia 8 Lite」を、2021年には「Xperia 10 III」「Xperia 10 III Lite」「Xperia Ace II」を投入した。
●Xperia 1シリーズやミッドレンジが好調でシェア上位に復活
こうしたてこ入れが功を奏して、MM総研が2021年11月11日に発表した調査では、2021年度上期における国内スマートフォンの出荷台数シェアでソニーがAppleに次ぐ2位に躍り出た。ソニーのスマホシェアは10.7%で出荷台数は157.1万台となり、前年同期比で51.8%もの増加となった。Androidスマートフォンに限っていえばシェア1位となる。
苦戦していたスマートフォン事業が好転した理由について、ソニーは「Xperia 10 IIIやXperia Ace IIといったミッドレンジ、エントリーモデルの販売が非常に好調で、フィーチャーフォンや他社からの買い替えでもお選びいただけたことが大きな要因」としている。
当初からハイエンドモデル中心のXperia。ミッドレンジモデルにも力を入れるようになったことで、落ち込みから好転したわけだが、2021年にはソニーモバイルが再編でソニー本体に吸収され、スマートフォン部門はソニーの一部門になった。
●順調だったXperiaの出荷台数シェアが「ランク外」に その理由は?
順調に見えたXperiaだったが、2025年2月、MM総研が発表した「2024年(暦年)国内携帯電話端末の出荷台数調査」にソニーは含まれなかった。2024年のメーカー別総出荷台数シェア1位はAppleで、2012年から13年連続で1位を獲得。2位にシャープ、3位にGoogle、4位にサムスン電子、5位にXiaomi、6位に京セラと続くが、ソニーの名はなかった。
2024年のAIスマートフォンの出荷台数比率は31.4%だった。MM総研は2025年を「Apple Intelligenceの日本語対応がAIスマートフォンをさらに身近なものにし、新たな利用シーンの広がりや一般ユーザーへの普及が進む」年と予測する。
同調査にXperiaの名がなかったのはなぜだろうか? その主な要因として挙げられるのが、激化する価格競争で十分に優位に立てなかったことだ。特に円安が追い風となり、Xperiaのハイエンドモデルの価格は年々高価になり、競合のAndroidメーカーが次々とコストパフォーマンスの高いモデルを市場に投入する中で、優位性を示せなかった。
Xperia 1シリーズは高価格帯に位置付けられており、ミッドレンジのXperia 10シリーズだけで出荷台数シェア上位のポジションに上り詰めるのは至難だろう。エントリーの「Xperia Ace」シリーズも2022年の「Xperia Ace III」以降、後継モデルが発売されておらず、「普及価格帯Xperia」の選択肢が薄れていることも影響している。
競合メーカーの躍進もXperiaの出荷台数シェア低下に拍車を掛けている。例えば、Googleの「Pixel」シリーズはカメラ性能やAI機能を強みに順調にシェアを伸ばしており、シャープの「AQUOS sense」シリーズも国内市場で根強い人気を持つ。こうした中で、ソニーは熱心なファンに支えられてはいるものの、一般層にまで裾野を広げる戦略がかなっていない。
2023年秋にソニーが投入した「Xperia 5 V」では、望遠カメラを廃止する代わりに、簡単なビデオ編集を行える「Video Creator」アプリを利用可能にするなど、より広いユーザー層に訴求する戦略に舵をシフトしたが、2024年末には5シリーズ新モデルの投入がなかった。
Xperiaにとって、「目に分かる形でのAI機能」が不足していることも、今後の競争で不利になるだろう。
ソニーが5月13日に発表したハイエンドモデルの「Xperia 1 VII」では、GoogleのパーソナルAIアシスタント「Google Gemini」、囲うだけで検索できる「かこって検索」、写真の構図の調整など「Googleフォト」アプリで利用可能な「編集マジック」をサポートした。動画撮影機能にAIを活用しているが、ユーザーの日常生活を支援するようなAI機能は乏しい。
スマートフォン選びにおいてAI機能のみを重視するユーザーは限られており、AI機能の有無が直接的に出荷台数シェア低下の要因になっているわけではないだろうが、今後、市場の中で優位性や存在感を示していくには、AIが製品価値を大きく左右する要素になっていくことは間違いないはずだ。
買い換えサイクルの長期化も、Xperiaの出荷台数シェアが低下した一因だろう。内閣府の消費動向調査(2023年12月実施分)によると、携帯電話の平均使用年数は4.4年となった。買い替えの理由としては「故障」が38.7%と最も多く、次いで「上位品目(上位機種)への移行」が30.6%となっており、一般的に使用上問題が起きない限り買い換えたいという心理にはならないことの表れといえる。
●Xperiaがスマートフォン市場から撤退しない理由
このように、ソニーのXperiaは紆余(うよ)曲折をへて、現在に至っている。では、ソニーがスマートフォン事業を縮小しても、撤退しないのはなぜだろうか。
理由の1つは、自社で通信技術を持ち続けるためだ。ソニーは以前から、5G時代にはモバイル通信の重要性が高まると見ており、そのためにスマートフォン事業を続けると説明している。
実際、2024年には「PDT-FP1」という、5Gでカメラなどと高速通信できる機器を発売しており、スマートフォン以外でもモバイル通信の技術を活用している。Xperiaシリーズが、そうした開発の基盤になっているのは間違いない。
もう1つの理由は、Xperiaがカメラの技術をアピールするツールでもあるからだ。複数のピクセルを束ねて感度を向上させるピクセルビニングは、2022年の「iPhone 14 Pro」「iPhone 14 Pro Max」で採用され、イメージセンサーはソニー製だった。
Xperiaのカメラにピクセルビニングを採用したのは、2023年発売の「Xperia 5 V」からだった。ソニーは他社製品でカメラの技術を世界にアピールし、それをフラグシップモデルのXperiaに実装する、という逆輸入の流れを作った。
ソニーグループの2024年度のイメージング&センシングソリューション分野は、売り上げが1963億円(12%)の増収、営業利益が676億円(35%)の増益となり、好調を維持している。モバイル機器向けのイメージセンサーも増収増益となり、同分野の成長を支えている。
イメージング&センシングソリューション分野は好調であり、Xperiaはその最先端センサーのショーケース的な存在となっている。実際、Xiaomiをはじめとする他社もソニー製センサーを採用していることを前面に押し出しており、Xperiaが高性能カメラの技術力を市場にアピールする役割を担っている。
では、新モデルXperia 1 VIIは、出荷台数シェア回復の起爆剤になり得るだろうか。動画撮影時に被写体を捉え続けるなど、目玉の新機能はあるが、この1モデルのみで状況を一変するのは難しいだろう。鍵を握るのは「Xperia 10」シリーズの新モデルだ。
例年なら、1シリーズと同時期にミッドレンジモデルのXperia 10シリーズも発表していたが、「市場動向や社内開発状況を総合的に判断した」とし、2025年秋頃に投入する予定としている。中価格帯でいかに魅力的な選択肢を提供できるかに注目したい。
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