(左から)IMAGICA GROUP・長瀬俊二郎社長、是枝裕和氏、第1弾作品『マリア』のプロデューサー・土川はな氏、市山尚三氏、坂野ゆか氏 映像事業を手がけるIMAGICA GROUP(本社:東京都港区、代表取締役社長:長瀬俊二郎)が創業90周年を機に「オリジナル映画製作プロジェクト」を立ち上げ、その概要と第1弾作品を「第78回カンヌ国際映画祭」の期間中に発表した。
【画像】IMAGICA GROUP「オリジナル映画製作プロジェクト」記者発表の模様 フランス現地時間14日、カンヌに設けられたジャパンパビリオンで記者発表会が開催され、第1弾作品『マリア』のプロデューサー・土川はな氏(株式会社オー・エル・エム)をはじめ、審査員を務めた映画監督の是枝裕和氏、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三氏、川喜多記念映画文化財団 常務理事の坂野ゆか氏、そしてIMAGICA GROUPの長瀬社長が出席した。
『マリア』は、福祉現場でソーシャルワーカーとして働いていた大阪出身の寺田ともか監督による初の長編脚本作品。18歳の少女マリアが予期せぬ妊娠をきっかけに、自らの尊厳と向き合っていく姿を描く。
審査員からは、「新人らしいフレッシュさと完成度を兼ね備えた魅力的な脚本」(市山氏)、「実現可能性が高く、非常に現実的な作品」(坂野氏)、「リアリティとユーモアのバランスが秀逸で、文句なしの高評価」(是枝監督)といった高い評価が寄せられた。
プロデューサーの土川氏も、「社会問題を背景に、いわゆる弱者とされる女性が自らの意思で生きていく姿を、同情的ではなく真正面から描いている点に共感しました」と作品への自信をのぞかせた。さらに、「この企画が映画として世に出ることの意義と、それを形にする責任の重さを実感しています。選ばれた意味をしっかりと受け止め、寺田監督と共に一歩一歩丁寧に制作を進めていきたい」と、感謝と覚悟を語っていた。
寺田監督は家族の都合により現地には参加できなかったものの、映像コメントで「愛とリスペクトを込めて、ユーモアたっぷりに描いていきたい」と意欲を表明した(コメント全文は下段参照)。
IMAGICA GROUPにとって初めての自社製作映画となるこのプロジェクトは、グループ会社内から国際映画祭を視野に入れた映画企画を毎年1本選定し、5年間にわたり製作を継続するというもの。才能あるクリエイターの発掘・育成を通じて、日本の映像文化を世界に発信していくことを目指している。
是枝監督は、「まさに待っていた企画。10年、15年と続くプロジェクトになってほしい。将来的にはアジアの若手監督の支援にも広がることを願っています」と期待を込めてコメント。市山氏は「オリジナル脚本に取り組むこの仕組み自体が素晴らしい」と述べ、坂野氏も「企業がこれほど本気で支援する例はほとんどなく、大きな意義を感じる」と語っていた。この取り組みにより、日本から世界へ羽ばたく新たな才能が誕生することが期待される。
■ 第1弾作品『マリア』脚本・監督:寺田ともか氏のコメント
これは私が初めて書いた長編の脚本です。私は大阪南部の田舎町で生まれて、介護の仕事をしているシングルマザーの母に育てられました。私自身もつい最近までソーシャルワーカーとして普通に福祉現場で働き(今も働いていますが)、とても遠い場所だと思っていたカンヌでこうしてお話しする機会をいただけたこと、本当に光栄に思っております。
この作品は、一人の女の子の尊厳に関する物語です。主人公は18歳のマリアという女の子で、物語は彼女が思いがけない妊娠をするところから始まります。物語の背景には、格差、貧困、ケアワーカーたちの労働環境の厳しさ、高齢者の孤独死、戦争の傷跡(加害も含めて)、そしてとりわけ女性たちが受けるジェンダー差別や性的搾取の問題などがあります。
しかし、映画のトーンとしてはとてもコミカルで、笑えるシーンもたくさん書いています。なぜなら、私がソーシャルワーカーとして働く中で出会う人々は、確かに厳しい現実に置かれているし、いわゆる弱者と呼ばれる人々かもしれませんが、彼女たちは常に苦痛にあえいでいるわけでも、逆境を甘んじて受け入れているわけでもないからです。
主人公のマリアは、そのような同情的な目線を跳ね返すユーモアを持った人物で、ただ支援を必要としている弱い存在ではありません。自分の尊厳を奪おうとするものとは正面から戦います。そんな彼女の姿を、愛とリスペクトを込めてユーモアたっぷりに描きたいと思っています。これから撮影の準備に臨んでいきますので、どうぞよろしくお願いいたします。