ランキング首位で東京E-Prixに臨むオリバー・ローランド(ニッサン・フォーミュラEチーム) 完全な電気自動車フォーミュラマシンで争われるフォーミュラEが、今年も日本にやってくる。
5月16〜18日に行われるABB FIAフォーミュラE世界選手権第8戦および第9戦『東京E-Prix』の開幕を前に、大会の流れをおさらいし、今季の有力チームを復習しつつ東京大会の優勝候補を探っていきたい。
■東京ストリートサーキットは若干の変更アリ
舞台は東京・有明の東京ビッグサイト(国際展示場)周辺の公道を使用した特設サーキット。『東京ストリートサーキット』と呼ばれるこのコースは、全長2.575km、18のコーナーを持つ。レイアウトは、コーナーが連続するテクニカルな前半区間と、高速走行が求められる後半区間で構成される。昨年から一部変更が加えられ、ジャンプスポットだったターン3手前の微調整や、最終コーナーのシケイン削減によって、よりスムーズな走行が可能となった。
■4輪駆動のGEN3 EVOが初上陸。
使用されるマシンは『GEN3 EVO』と呼ばれる電動フォーミュラで、昨年までの『GEN3』を改良したニューモデル。4輪駆動での走行が可能となり、エネルギー回生効率も向上。レース中に必要なエネルギーの約50%を回生可能となった。
タイヤはハンコックのワンメイクで、モノコックや外装デザインは全車共通。そのため、開発の重点はパワートレインを含む電気系に置かれ、高いエネルギー効率がマシンの戦闘力を左右する。
今季、GEN3 EVOは各サーキットでベストタイムを更新。東京でもコースの調整と相まって、さらなるタイム向上が期待される。
■予選は独自のデュエル形式
フォーミュラEのレースは、予選と決勝を同日に行う“ワンデイ開催”が特徴だ。2025年の東京大会では、17日(土)の第8戦、18日(日)の第9戦が行われ、各日40分のフリープラクティス(FP)、デュエル方式の予選、決勝が実施される。また、16日(金)にはFP1が設けられ、これが最初の本格的な走行となる。
大会の流れは、まず40分間のFPでコース習熟とマシン調整を行い、その後、予選に臨む。フォーミュラEの予選は独自の“デュエル方式”が採用されており、8番手以上は一対一のタイムアタックでグリッドを決定する。
各選手はポイントランキングに基づきふたつのグループに分かれて走行し、最大総電力300kWの状態でタイムを競う。その後、各グループの上位4台が一対一のデュエル予選を行い、勝ち抜いた選手が上位グリッドを獲得する。このデュエル予選では、最大総電力350kWが使用可能となり、マシンは4輪駆動に切り替わる。
■決勝のカギは『アタックモード』と『ピットブースト』
グリッドが決定すると、フォーミュラEではその日のうちに決勝が行われる。決勝はあらかじめ設定された周回数を走るが、レース中にセーフティカー(SC)やフルコースイエロー(FCY)が導入されると、追加周回がアナウンスされる。そのため、電動マシンで争われるフォーミュラEではバッテリーのエネルギーマネジメントが極めて重要となる。ドライバーとチームは、順位争いを繰り広げながらも残りの電力を計算しながら戦い抜くことが求められる。
また、フォーミュラEには特有の出力増加システム『アタックモード』が採用されている。特定のコーナーにあるアクティベーションゾーンを通過すると、一定時間パワーが350kWに増強され、4輪駆動へ切り替わる。レース中に2度の使用が義務付けられており、GEN3 EVOの導入後はパワーアップ効果が向上しているため、使用タイミングが勝敗のカギを握る。
さらに第8戦ではレース中の急速充電『ピットブースト』も義務化。今季より導入されているピットブーストでは、レース中のピットストップ時に600kWの急速充電を30秒間行い、10%(3.85kWh)の追加エネルギーを供給する。アタックモードとは異なる戦略要素となり、その使用タイミングもレース展開を左右する。
■ニッサンは優勝候補筆頭
日本からは、日本国籍チームのニッサン・フォーミュラEチームと、英ローラ・カーズと組んで参戦するヤマハが、ホームレースの東京E-Prixに挑む。
とくにニッサンは今季絶好調で、マニュファクチャラー選手権首位をキープ。ドライバーズ選手権ではオリバー・ローランドが今季すでに3勝を挙げ、ランキングトップに立っているため、東京でも優勝候補筆頭だ。チームメイトのノルマン・ナトも初ポールを獲得するなど調子を上げており、2台揃っての活躍が期待される。
また、ニッサンのパワートレインを積むネオム・マクラーレン・フォーミュラEチームの競争力も高い。とくに今季デビューしたテイラー・バーナードは、シリーズ最年少ながらもすでに2度のポール獲得を果たしており、度々優勝を争ってきた。初の東京でも速さを見せるはずだ。
■絶好調ニッサンのライバルは多数
ニッサンの対抗と見られるのは、現在チーム選手権首位のタグ・ホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチームだ。昨季最多勝のアントニオ・フェリックス・ダ・コスタと現王者パスカル・ヴェアラインという強力ラインアップを擁し、順位の入れ替わりが激しい決勝でのレース戦略も、極めて冷静。自社製パワートレインの優位性は高く、屈指の強豪チームだ。
また、前戦モナコで優勝争いを繰り広げたマヒンドラ・レーシングも有力候補。こちらも自社製パワートレインを搭載し、エースのニック・デ・フリース(元F1ドライバー、2020/21年王者)がチームを牽引する。さらに、チームメイトのエドアルド・モルタラは市街地コースで印象的な速さを見せ、昨年の東京E-Prixでも表彰台圏内を争った。
そして、昨年の東京E-Prixウイナーであるマキシミリアン・ギュンター(DSペンスキー)も侮れない。今季も第3戦ジェッダE-Prixでもポール・トゥ・ウインを達成しており、一度リズムを掴むと驚異的な速さを発揮する実力者だ。今大会でも上位争いが期待される。
■初参戦のヤマハは期待の星
最後に、東京E-Prix初参戦のローラ・ヤマハABTにも注目したい。エースのルーカス・ディ・グラッシは、シリーズ初年度から戦う大ベテランであり、2016/17年シーズンのチャンピオンにも輝いた。さらに第5戦マイアミE-Prixでチーム初の表彰台を獲得するなど、新体制ながらも高いポテンシャルを示している。チームメイトのゼイン・マローニとともに、東京E-Prixのダークホースとなる可能性がある。
今年もフォーミュラE東京大会には、元王者やF1経験者が多数参戦。日本初上陸のGEN3 EVOの走りに注目しつつ、レース戦略の鍵を握るアタックモードやバッテリーマネジメント、そして今季初導入のピットブーストをチェックしたい。今季は圧倒的なスピードを誇るニッサンのパフォーマンス、ポルシェの王者としてのプライド、ヤマハの未知なる挑戦が交錯する電動バトルを見逃すな。
[オートスポーツweb 2025年05月16日]