アテンプトに向けてマシンに乗り込む佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング) 2025年のNTTインディカー・シリーズ第6戦『第109回インディアナポリス500マイルレース』は、プラクティスから天候に翻弄されて始まった。
プラクティス初日の5月13日(火)は予報以上に早く落ちてきた雨で2時間半遅れて始まり、2日目の14日(水)も前夜の雨のおかげで1時間ほど遅れての走行開始に。4月のオープンテストで大クラッシュを演じたレイホール・レターマン・ラニガン(RLL)の佐藤琢磨は、プログラムの遅れを取り戻すために1周でも多く走りたかったのだが、天候は味方してくれなかった。
プラクティス初日はウエイトジャッカーのトラブルに見舞われた琢磨。2日目もこのトラブルが完治されておらず、それが直ったと思えば今度は左リヤのブレーキトラブルが出て、そのタイミングでガレージに戻ることに。ガレージでブレーキの修復と同時に予選シミュレーションに臨むため、マシンは予選仕様に変更された。
前車の風の影響を受けないノートゥのスピードでは10番手とまずまずのスピードになったものの、琢磨自身は「まだやりたいことの3割くらいしかできていない」とフラストレーションも溜まり気味。オープンテストのシェイクダウンでは周囲を驚かせるスピードもあったが、その域にはまだまだ達していなかった。
プラクティス4日目は、ターボのブーストも上がるファストフライデー。土曜、日曜の予選を想定した走行となり、ほぼ1台ずつのアテンプト(タイムアタック)となる。
正午から6時間のプラクティスが予定された16日(金)、インディアナポリス・モーター・スピードウェイ(IMS)は晴天に恵まれた。しかし、それに比例して気温が上がったことに加え、風も強まって想像以上に難しいコンディションとなった。
琢磨の75号車もセッション開始時刻にあわせてスタンバイし、コースが空いたタイミングを見計らって最初のアテンプトに出た。しかし2周目にアテンプトをやめてピットに戻ってくる。マシンに異常があったわけではないが、気温の高さと強風の影響もあってダウンフォースが足りず「マシンが曲がらない」という。コース上ではペンスキーのスコット・マクラフリンや、チップ・ガナッシのアレックス・パロウが231マイル(mph)のスピードを叩き出している。
コンディションに合わせてセッティングを小変更し、ニュータイヤに履き替えて2度目のアテンプトに臨んだ琢磨は同じく2周目に226マイルまでスピードを伸ばしたものの、またもや途中でピットボックスに戻ってきた。
琢磨の前後にも、他のマシンがアテンプトに出ていたが、最後まで4周のアテンプトを走り切るドライバーは少数だった。1周のタイムラップこそマークするが、2周目、3周目とタイヤのグリップが落ちるとマシンをピットに向けたのだ。チップ・ガナッシのキフィン・シンプソンなどはグリップを失いターン4のウォールの餌食となっていた。
それだけ気温と路面温度、さらに強風がアテンプトを難しいものにしていたのだろう。さらに土曜日、日曜日の天気予報では気温が上がらないと予想されているため、必要以上にファストフライデーの暑いコンディションに合わせる必要があるのか、という疑問もあったと考えられる。
琢磨は2度のアテンプトの後、一度ガレージにマシンを戻した。あえて悪いコンディションの中でリスクの高いアテンプトを避け、気温が下がるのを待ちながらダンフォースをやや増やしたセッティングを施した。琢磨のクルマがピットに戻ってきたのはセッションの残り時間も2時間を切ったころ。ヘルメットを被った琢磨は、ライバル勢のタイムを窺いながら、コースインのタイミングを待った。琢磨の直前にアテンプトしたメイヤー・シャンク・レーシングのフェリックス・ローゼンクビストは、231マイル台の走行をしており、コンディションは良くなっているのは間違いなかった。気温、路面温度ともに下がり、風はやや強かったが琢磨は3度目のアテンプトに出た。
1周のウォームアップの後、タイム計測へ。アタック1周目に231.364マイル、2周目に231.006マイル、3周目は230.906マイル、そして4周目に229.085マイルとうまくタイムを揃えて6番手に浮上する。まだ残り時間はあったが、琢磨は走行を切り上げてマシンをガレージに戻した。
このあとにアテンプトをしたドライバーにタイムを抜かれ、琢磨の最終的に12番手となってファストフライデー終えている。
「最初の2回のアテンプトは気温が上がり過ぎてコンディションが悪く、想定していたよりまったくダウンフォースが足りなかったので、マシンを一旦ガレージに戻してセッティングを変えてタイミングを待ちました」と状況を説明した琢磨。
3度目のアテンプトについては「4周最後まで走りきって感触も悪くなかったと思います」と述べ、次のように続けた。
「タイムを追おうと思えばできたと思いますが、それをやっても意味はないし、明日の予選前のプラクティスでコンディションに合わせてしっかり走ろうということになりました。ライバルのマシンも速いですけど、しっかりデータを分析して明日の予選に臨みたいと思います」
オープンテストの後に大急ぎで組み上げられたマシンで、雨やトラブルでプログラムは遅れており、決して準備万端とは言い難かったが、それでも上位のスピードに近づいてきたのはインディ500を2度制した琢磨らしいところだ。
プラクティス終了後に予選のアテンプト順を決めるドロー(くじ引き)が行われ、琢磨の長男である佐藤凛太郎がくじを引いて、21番目のアテンプト順となった。インディ500の予選では過去3年トップ10に残り続けている琢磨だが、明日の予選でどんなパフォーマンスを見せてくれるだろうか。
[オートスポーツweb 2025年05月17日]