インタビューに答える篠原尚之元財務官=15日、東京都中央区 先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議が21日からカナダ西部のバンフで開かれる。「米国第一」に傾斜するトランプ米政権の高関税政策で、世界経済の減速懸念は強まり、自由貿易体制を推進してきた国際協調の枠組みも揺らいでいる。元財務官の篠原尚之氏と、米国政治に詳しい上智大の前嶋和弘教授にG7の課題や存在意義などを聞いた。
◇開催すること自体に意義=元財務官の篠原尚之氏
―トランプ米政権の高関税政策で、世界経済の不確実性が高まっている。
不確実性だけで経済にネガティブな影響があることは間違いないが、どのくらいの影響があるかは分からない。米国も対中関税で急に歩み寄る姿勢を見せたり、影響があると困るという感じを持っていることは明らかだ。金融市場は今のところ落ち着いている。米国の国債市場が揺れたことがトランプ政権への警告になっている。
―日本の自動車なども高関税の対象だ。
日本経済は依然として車の輸出に大きく依存している。日本は重商主義的な輸出産業依存の体質から脱しないといけない。一方、急激に為替が変動すれば利益が相当減り、景況感が悪化する可能性もある。
―G7の意義は。
(会議を)開くこと自体に意義がある。昔に比べると明らかに存在意義は減ってきている。国際的な協調自体も今は止まっている。だからこそ、国際的な枠組みを維持し、金融市場の混乱などが起きた時に協力できるようにしておくべきだ。
―自由貿易体制を守るための日本の役割は。
環太平洋連携協定(TPP)など地域的なレベルの協調の枠組みをできるだけ強くしていくことが一つの選択肢。G7では(加盟各国にメリットがある)ウィンウィンの世界をつくらなければいけないと言い続けるしかない。
◇G7はピークを過ぎた=上智大の前嶋和弘教授
―G7の存在意義は。
非常に揺れている。日本で開かれた2023年は、自由貿易や民主主義を守りながら、国際秩序を破るロシアに対し厳しい声を上げることで一つになれたが、あれがG7のピークかもしれない。米国を中心にまとまっていた時代から、国際社会で主導的役割を担う国家が存在しない「Gゼロ」の時代に入っている気がする。
―米国と議長国カナダの関係も変わってきた。
本来なら蜜月関係にあるが、今は過去にない緊張関係だ。米国をパートナーと考えるカナダについて、トランプ米大統領は「(米国の)51番目の州」などと言っている。ベセント米財務長官もトランプ政権のメッセンジャーとしてカナダに厳しい姿勢で臨むだろう。
―米高関税政策の評価は。
トランプ関税は基本的に100%国際法違反だ。中国との交渉では思ったよりも早期に、大きく関税率を下げた。多くの製品を輸入しているだけに動かざるを得なくなったのだろう。米経済が痛めば日本などは交渉しやすかったが、(米中の譲歩により)高関税措置は長く続くかもしれない。
―G7財務相会議の注目ポイントは。
今の状況は国際協調を保っているとは言えない。米国がG7の枠組みから抜けることを止められるかどうかだ。

インタビューに答える上智大の前嶋和弘教授=14日、東京都千代田区