“ディズニー発”のファストパス、飲食店にも続々浸透中 「値上げ」が難しい中、救世主となるか

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2025年05月22日 06:01  ITmedia ビジネスオンライン

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「ファストパス」はさらに広がるか(出所:ゲッティイメージズ)

 追加料金を支払えば行列に並ばずに入店できる「ファストパス」の導入が進んでいる。例えば、飲食店の予約管理システムなどを手掛けるTableCheck(東京都中央区)の「TableCheck FastPass」といったサービスも出ており、ラーメン店での利用が多いようだ。もともと、ファストパスを世に広めたのは東京ディズニーランドだ。国内では2000年から導入、2022年からは有料化した「ディズニー・プレミアアクセス」となっている。


【画像】ラーメン店やディズニーのファストパス的なサービス(計2枚)


 大阪・関西万博では一部フードコートの座席を有料席としており、550円で50分座れる仕組みだ。ファストパスとはうたっていないが、優先的に座れ、混雑解消をもたらしている点で同じ機能を果たしている。主に遊園地などで見られるファストパスだが、今後飲食店でさらに普及する見込みはあるのだろうか。その可能性を探っていく。


●東京ディズニーランドから広がった「ファストパス」


 ファストパスを有名にした東京ディズニーランドでは、各アトラクション前にある発券機にパスポート(入場券)をかざすと、時間指定のファストパスが発行される仕組みだった。指定の時間帯にファストパスを持っていけば、行列に並ばず優先的にアトラクションに乗れる。


 コロナ禍以降、東京ディズニーランド・シーはチケットの値上げや年間パスポートの廃止など、全般的な値上げを進めており、その一環でファストパスは廃止に。2022年からは有料化したディズニー・プレミアアクセスを導入し、アプリで1500〜2500円の追加料金を支払うと優先的に乗れるシステムとなった。無料版は40周年記念の「プライオリティパス」のように、イベント時に限っている。


 ファストパスのような優先券は、主に遊園地などで普及してきた経緯がある。富士急ハイランドでは有料の「絶叫優先券」を発行しており、購入者は絶叫系のアトラクションに優先して乗れる。ひらかたパークの「優先乗車券」も同様の仕組みだ。


 4月に開幕した大阪・関西万博では、有料席を設けたフードコートが営業している。1000席のうち約500席が50分550円で、無料の席は座れず立ち食い形式となる。現在、有料席は空席も見られ、混雑解消の効果を発揮している。以前は不公平感があるとして負のイメージがあった優先券だが、追加料金システムは消費者の間で許容されつつあるといえる。


●ラーメン店、カレー店、カフェなどでも広がりつつある


 こうした追加料金を払うシステムは飲食店でも導入が進む。日本人は、行列に並ぶことがレジャーの一つとして認識する傾向があるが、外国人は違う。インバウンドの中には「お金を払ってでもスキップしたい」というニーズがあり、TableCheckが2024年2月にリリースしたTableCheck FastPassは、その受け皿となっている。


 導入の多いラーメン店では、ファストパスをおよそ300〜500円程度に設定している。1杯1000円強で提供する銀座のラーメン店では、午後のみ500円のファストパスを導入し、混雑解消や顧客満足度向上といった効果やキャンセル被害が減少するメリットもあったとしている。行列に並ぶストレスを解消するほか、先払いしている分「損をしたくない」心理が働き、キャンセルも抑えられるのだろう。他のラーメン店では390円に設定、その収益を時給引き上げや福利厚生の向上に用い、人手不足を解消している。


 カレー店やカフェでも導入が進む。最大2時間待ちの行列ができていた「FLIPPER'S 渋谷店」では2024年4月から同システムを導入し、500円の予約手数料を設定した。それでも来客が多いのか、現在では1000円に設定している。同カフェの口コミを見ると長い待ち時間への不満が多く見られる。行列と料理待ちの両方で1時間半以上待たされた客もいるようで、混雑が課題になっていることが分かる。


●単純な「値上げ」が難しい中、切り札になり得る


 外食業界全体をみると、ファストパスは現段階で本格的な展開には至っていないように見える。TableCheck FastPassに類似するサービスもみられるが、数は少ない。しかし、今後もインバウンドは増える見込みであり、人気店ではファストパスに類似したサービスが広がる可能性はある。


 本来、混雑への解消策には「単純な値上げ」と「二重価格制」がある。値上げによる客数減少以上に客単価を上げられれば、利益は増えるはずだ。ただし、2010年代まで続いた長いデフレ経済が尾を引いているのか、店主側の値上げに対する抵抗感は強い。飲食店の競争が激しい都内では特に厳しい。


 二重価格制は時間帯や客層によって価格を変える仕組みだ。時間帯によって変えるのはランチ、ディナーのように大手レストランチェーンが既に導入している。客層による二重価格制には、インバウンドだけ高くするといった施策がある。ただし、差別的であるという主張や店舗側の負担が増えるという点で抵抗は大きい。値上げしたいが、抵抗がある……ファストパスはそうした事業者の間で普及するかもしれない。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



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  • 並んでまで〜追加料金払うんでしょ?って言ってる人、追加料金払って並ばずに入店する制度、って言葉が読めないらしい
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