GACKT (C)KEIJU TAKENAKA GACKTが7月にリリースするライブアルバム『GACKT PHILHARMONIC 2025 - 魔王シンフォニー』のインタビュー後半では、その超人的“耳力”を支える音作りの秘密に迫る。オーケストラメンバーの選定から、独自の“クリック”活用法、ピッチの1ヘルツ単位のこだわりまで、GACKTが語る「耳の解像度を上げる」極意は、『芸能人格付けチェック』で見せる超人的な聞き分け力の裏付けそのもの。GACKTの音楽哲学に、ぜひ耳と心を傾けてほしい。
【ライブ写真多数】バンドとオーケストラの融合!GACKTのライブの模様■リハーサル中に倒れた奏者もいた
――今回のオーケストラのメンバーはどのように選定したのでしょうか?
構成メンバーを決める段階で、どんどん入れ替えていった。昼と夜の2公演で、トータル3時間以上の演奏を立ったままやらなきゃいけない。それができる人じゃないと無理だし。さらに、演出としてのマスクをつけての演奏もしなきゃいけなかったし、どういう角度なら譜面が見えるのかっていうのも、ひとりひとり確認して調整していく作業から始まった。最終的には「このメンバーだったらいける」っていう人たちで本番に臨んだ。リハーサル中に倒れた奏者もいたよ。
――倒れた!?
そう。ボクのリハーサルは長いし、あんな詰め込み方をしたことがない人たちばかりだから。気分が悪くなって途中で倒れたり、「もう座らせてくれ」ってお願いされたり、本当に大変だった…。
――そういった演出や条件に柔軟に対応できる人たちが、今回のメンバーになったと。
柔軟に対応してくれる人たち、そして「新しいものを一緒に作りたい」って思ってくれる人たちが集まってくれたから、今回のステージが成立した。単純に「腕がいい奏者」っていう理由だけで選んでたら、成立していなかった。
――これまでにやったことのないスタイルを、みんなで作り上げていくわけですもんね。そんな苦行を乗り越えて、打ち上げもさぞ盛り上がったのでは?
打ち上げでは、今回の公演を振り返って、「何が得られたか」っていう話をしたんだけれど。「これを通して、自分たちがバンドに戻ったときにどう活かすか」っていう話をしてた。つまり、バンドでも今回のように音を突き詰めていけば、よりクオリティの高い演奏ができる。バンドの各メンバーもそこに気づいてた。だから、「こういうタイミングでこういう音作りをしなきゃいけない」とか、「もっと抜ける(よく聞こえる)音を意識しないといけない」とか。すごく“深い打ち上げ”だったよ(笑)。
――マニアックな打ち上げですね…。セットリストの中でも6曲目の「UNTIL THE LAST DAY」は、特に印象的でした。この楽曲は、どのようにアレンジされたのでしょうか?
この曲はもともと激しくて“ヤバい”曲だから、そこにオーケストラが乗ったときに、この危うい世界観をどこまで広げられるかってところに重点を置いてアレンジを考えた。実際、アレンジにはかなり時間をかけた曲で。それに、スピード感のある曲でもあるから、少しでも“モタる”と勢いが削がれてしまう。だからオーケストラ側も、かなり“前のめり”で演奏するように意識してもらった。結果的に、この曲はスピード感の中にある狂気、危うさがより強く感じられる仕上がりになったよ。
――“前のめり”の演奏ですか。
オーケストラの演奏って、タイミングの取り方がバンドとは根本的に違う。彼らは基本的に、音の「点」で演奏を始めようとしても、その点の少し“うしろ”からスタートする癖がある。
――バンドはクリック(※テンポを合わせるためのガイド音)に正確に合わせるけど、オーケストラはその“うしろ”にいると。
そう。実際にクリックに合わせてオーケストラが演奏すると、全体的に少し“遅れて”聞こえる。でもバンドはオン・リズムで合わせてくる。だから、その境目を気持ちよく繋げるためには、ボーカルがその“中間”にいなきゃいけない。
――なるほど。
となると、ボクがイヤモニで聞いているクリックと、バンドメンバーが聞いているクリックは違う。ボクが聞いてるクリックは、オーケストラとバンドの間にあるタイミング。バンドメンバーのクリックはそれよりも前。こういう微調整を1曲ごとに、リハーサル中にやっていく。「どのくらいうしろにするか」とか、そういう細かい作業を重ねていくんだよ。
――それは今回が初めての試みだったんですか?
いや、この作業は、ボクのライブではいつもやってる。バンド演奏でも、クリックの調整は必ずしてる。ドラムのシンバルに自分の声がかき消されたりもしてしまうから。クリックをずらすことでボクの声が抜けて聞こえるんだよ。
――プロの方でも、そこまでやる人って少ないのでは?
やらないよ、普通は。
――やっぱり細かい作業がお好きなんじゃ…(笑)。
好きじゃない(笑)! やったほうが聞いてる人が気持ちよくなれるからやってる!
――こだわりがすさまじいです。
こんな種明かしをしてしまっていいのか(笑)。さらに細かい話だけど、ピッチ(周波数)に関しても、ボクはピッチをA=442ヘルツっていう基準で歌ってるんだよ。たった数ヘルツの違いで、音の響き方がまったく違ってくる。それを意識できるかどうかなんだ。普通のボーカリストはその違いを感じられない。
■Aランクの耳を持つためには…!?
――GACKTさんが『芸能人格付けチェック』で見せる音の聞き分けの鋭さは、やっぱりこういう耳を持っているからこそなんですね。
こんなマニアックな話、読んで楽しいって思ってくれるのか…。
――みなさん楽しんでいるはずです!GACKTさんのような“Aランクの耳”を持ちたいと思っている人が、今回の作品を聴くときに意識するといいポイントってありますか?
さっきも(※前編)言ったけど、人間の耳って、情報量をどれだけ処理できるかが人によって違う。クラシックが苦手って人も多いけど、それってクラシックは情報量が多すぎるからってのも理由の一つ。楽器の数も多ければ、メロディーも複雑で、トラックの数で言えばとんでもない数になってる。それを聞き分けるって、ちょっと修行に近い。訓練なんだよ。ボクはそういうのが好きだから、自分の楽曲でも160トラックくらい使って作ることもある。でも逆に、そういう複雑な音が苦手な人には「うるさい音楽」に聞こえるんだよ。
――それぞれの好みや目的に応じた“耳の鍛え方”があるんですね。
音楽って数学に近いところがある。複雑な公式が楽しいって感じる人もいれば、シンプルな公式しかできない人もいる。音楽に楽しみを見いだせない人にとっては、どんな公式も“めんどくさいもの”にしかならない。でも、一度その面白さに気づけたら、複雑な方が楽しくなることが多々ある。音楽を聴いてて、ある日突然「こんなメロディーあったんだ!」って気づく瞬間あるじゃない?あれって耳が成長してる証拠だよ。何年も聴いてる曲なのに、新しい音に気づけるっていうのは、自分の耳の“解像度”が上がったってことなんだよ。
――耳の解像度が上がれば、今作の細部にもより気づけるようになるわけですね。
今回の作品も、解像度が高い耳で聴く人にとっては「おっ!」って感じるような細かい音がたくさん入ってる。そういうのが好きな人には、間違いなく刺さる作品になってるよ。
――「自分にはGACKTさんみたいな耳はないけど、なってみたい」と思う人もいると思います。そういう人は何から始めればいいですか?
別にクラシックを聴けとは言わない。まずは自分の好きな音楽を聴くときに、もしEQ(イコライザー)をいじれる環境があるなら、いじってみてほしい。iPhoneでもできるし。いろんなEQ設定を試して、「どんな音が聞こえて、どんな音が消えるのか」を確認してみる。そうすると、「この周波数にこんな音があったんだ」っていう気づきがある。
――取り組みやすそうです。
たとえば、ローとミドルを全部落としてハイだけにして聴いてみると、同じ曲でもまったく違う音楽に聞こえてくる。普段は聞こえてなかった音に気づける。それを一度経験すると、もとのEQ設定に戻しても、その音を“見抜ける”ようになる。それが楽しいんじゃないかな。
――それはすごくいいトレーニングですね。
ボクなんて、自分でもたまに「精神不安定なんじゃないか?」って思うくらい、ずっとEQいじってるよ(笑)。
――やっぱり細かい作業が好きなんじゃ…。
だから…違うって(笑)!
【プロフィール】
バンド活動を経て、1999年にソロ活動を開始。これまでに、CDシングル48枚とアルバム19枚をリリース。男性ソロアーティストとしてのシングルトップ10獲得数は歴代1位を保持している。俳優として、映画『翔んで埼玉』にて『第43回日本アカデミー賞』優秀主演男優賞を受賞、クイズバラエティ番組『芸能人格付けチェック』では、脅威の正解率を見せるなど、多方面で注目を集めている。7月4日にはGACKT名義の作品としては8年ぶりとなるライブアルバム『GACKT PHILHARMONIC 2025 - 魔王シンフォニー』をリリースする。