iPhoneへの「マイナンバーカード」搭載で、日本は再び世界の「デジタルライフスタイルのリーダー」に

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2025年06月24日 17:11  ITmedia PC USER

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iPhoneへの「マイナンバーカード」搭載は、日本がデジタルライフをリードするきっかけとなる

 日本はIT分野で遅れていると、よく言われる。確かに日本には世界で成功しているアプリやサービスがあまりないし、デザイン軽視の使いにくいWebサイトが不評を買うことも多い。


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 しかし、実は生活をより快適で豊かにする「半デジタル半リアル」の体験作りでは、いくつか世界に誇れる事例を生み出している。例えば、多くの訪日観光客が列をなすチームラボのデジタルアート体験はその1つだろう。一方、実用性の観点では、交通系ICカードの利便性の高さは世界中の人々が感心している。


 もちろん、日本にも「ダメな体験」はある。ちょっと前まで、「スマホを決済端末にタッチするだけ」という店舗決済において日本は世界をリードしていた。しかし、ちょうど世界の主要都市において「Apple Pay」「Google Pay」によるタッチ(EMVコンタクトレス)決済が広がる中、日本では決済事業に進出したい企業たちと、その動きを後押しする省庁によって、時代に逆行するバーコード/二次元コード決済が普及してしまった。今日では支払い方法が乱立して、かえって決済が複雑になるという残念な状態となっている。


 だが、そんな日本がデジタルライフスタイル分野で再び世界をリードすることになる。iPhoneへの「個人番号カード(マイナンバーカード)」の搭載だ。


●iPhoneのマイナンバーカードで何ができる?


 iPhoneのマイナンバーカードでは、プラスチックのマイナンバーカードで使える機能の一部をiPhoneの「ウォレット」アプリから呼び出して利用可能だ。具体的には以下のようなことができる。


1. マイナポータルにカードなしでログインして、医療費や年金の記録を確認したり、引越しに伴う住所変更手続きを始めとするオンライン申請をしたりする


2. コンビニエンスストアの複合機で市区町村から公的証明書(住民票の写し、印鑑登録証明書など)の交付を受ける


3. 対面での本人確認や年齢確認を行う


4. オンラインでの本人確認や年齢確認を行う


(※1)対応状況は市区町村によって異なる


 これらのうち、1と2についてはAndroidスマートフォンでは2023年5月11日から先行して対応している。その後に行われた法改正を受けて、iPhoneでは1と2に加えて「属性証明」とも呼ばれる3と4の機能も実装された。Androidスマホでも3と4に対応する予定だが、現時点では時期の見通しは立っていない。


 iPhoneのマイナンバーカードを受け入れるに当たって、一部の店舗や行政機関では追加対応が必要となる場合もある。例えば医療機関における「マイナ保険証」としての利用は、7月から実証実験を実施した後、9月から医療機関ごとに順次対応することになる。


 そのため、当面の間はiPhoneでも利用できるかどうか事前に確認すると共に、プラスチックのマイナンバーカードも一緒に持ち歩くことが推奨されている。


 iPhoneのマイナンバーカードは、2026年からは確定申告にも利用できるようになる。また遠からず「マイナ免許証」の機能も利用可能になることが期待されている(時期は未定)。


対応機種


 iPhoneのマイナンバーカードは、iOS 18.5以降をインストール済みの「iPhone XS」「iPhone XR」以降のiPhoneで利用できる。


 カード情報のインストールは「マイナポータル」アプリを使って行うが、詳しい方法はデジタル庁が用意した特設ページで確認してほしい。


●優れた安全性で詐欺も撲滅!?


 iPhoneのマイナンバーカードは、プラスチックカード(原本)と比べると安全性と利便性の両面でより優れている。


 まず安全性について見ていきたい。これまでの原本を使った本人確認では、「カード上の写真と利用者の顔を見比べる」という手法が主で、設備が整っている場合は「カード内のICチップで本物のカードであることを確認する」といった感じだった。


 それに対して、iPhoneのマイナンバーカードは、より安全な本人確認方法として定評があるFace ID(顔認証)かTouch ID(指紋認証)で本人確認をしないと使えない。そのため、例えば「iPhone内のメモリを取り出す」といった強引な方法で情報を盗み取ろうとしても、それは暗号化された安全な領域にあり、生体認証情報がないと復号できない。


 その上、カード自体には医療履歴や銀行口座といったプライバシー性の高い情報は記録されていない。本人認証が必須の「マイナポータル」にアクセスして、初めて取り出せる状況だ。


 このため万が一、iPhoneを紛失したり盗まれてしまっても、悪用される心配はない。紛失/盗難に遭った場合、別の端末から位置情報を確認したり、音を鳴らして探したりする機能がある他、盗まれたと確信した際には端末のデータを抹消する「リモートワイプ」といった機能も利用できる。iPhoneのマイナンバーカードの情報に限っていえば、デジタル庁の「マイナンバー総合フリーダイヤル(0120-95-0178)」で24時間/365日体制で一時利用停止を受け付けている。


 iPhone版マイナンバーカードは、偽造も極めて難しい。高度な暗号化技術を利用している他、政府が持っている「秘密鍵」の情報などがないとカードのデータを作成できないようになっている。


 マイナンバーカードの原本も、ICチップのデータ偽造は非常に難しいのだが、カードそのものの外観を似せることは難しくないという問題を抱えている。実際にインターネット上で探してみると、1枚1万〜2万円で偽造カードが売られており、詐欺行為に使われて問題になったことがある。


 これに対して、iPhoneのマイナンバーカードを使った本人確認は、画面上の情報ではなく必ず端末にタッチして暗号化された情報を交換することが前提となっている。こうなると、偽造のハードルが大幅に上がる。


 筆者は、最近増えている「偽の身分証明書を用いた詐欺行為」がiPhoneのマイナンバーカードの普及によって減ることを期待をしている。


●国境をまたいで実感できる「利便性」


 一方、この技術はどんな利便性を提供するのか。


 一番恩恵を受けるのは、酒やタバコを買う人たちかもしれない。店舗での年齢確認をiPhoneのマイナンバーカードで行えるようになるからだ。ウォレットからマイナンバーカードを呼び出し、生体認証をして、店舗のICカードリーダーにかざせば済む。ただし、仕組み上、店舗側の設備改修も必要となる。


 Androidスマホの電子証明書には、属性証明の情報が付帯していない。そのため、Androidスマホでは当面このような使い方はできない。現時点では、iPhoneのマイナンバーカードならではの使い方ということになる。


 iPhoneがこの機能をいち早く実装できたのは、先述の日本における法改正はもちろんだが、AppleがiPhoneを使った本人確認を世界中で提供できるようにできるように準備を進めていたからだ。


 同社はこの技術を「ISO/IEC 18013-5」「ISO/IEC 23220」という国際標準規格に沿って実装している。日本政府も、iPhoneのマイナンバーカードについては国際標準規格に定められた「mdoc」という仕様に沿って開発を進めてきた。


 Appleはただ単に技術を用意するだけでなく、この技術が使える店舗や行政機関でそれを明示する世界共通の「Verify Age with Apple Wallet(Apple Walletで年齢確認)」、「Verify Identity with Apple Wallet(Apple Walletで本人確認)」というロゴマークも準備している。


 デジタル庁によると、この本人/年齢確認手法は、当初は日本におけるiPhoneのマイナンバーカードでのみ利用されるという。しかし、国際標準に従った実装をしているということは、今後は電子本人証明書が利用可能な他の地域の人も、同様の方法で本人/年齢確認が行える可能性がある。


 例えば米国の一部の州では、iPhoneに運転免許証を搭載できる。その州の住民が、訪日観光旅行中に同じ端末で自州の運転免許情報を使って年齢を証明し、酒やタバコの購入を実現できるかもしれない。このようなことが現状難しいのだとしたら、デジタル庁にはできるだけ早期に実現できるように取り組んでもらいたい。


 全国チェーンのコンビニなどで活用されるようになれば、訪日観光客は日本のデジタルライフスタイルの先進性を改めて実感できるだろう。


 本人/年齢確認のためのアプリは、デジタル庁自ら「マイナンバーカード対面確認アプリ」として提供している。


 本アプリでは7月中にiPhoneのマイナンバーカードに対応する予定で、このアプリを起動したiPhoneやAndroidスマホに、生体認証をしたiPhoneをタッチすることで本人/年齢確認ができるようになる見通しだ。


 「銀行や証券の口座開設」「携帯電話回線の申し込み」「キャッシュレス決済の申し込み」といったより確実な本人確認を必要とする業界では、生体認証によるマイナンバーカード利用が増えそうである。


●「リアル」と「オンライン」の境目なく本人を確認


 iPhoneのマイナンバーカードの恩恵は対面利用だけに留まらず、オンラインでの本人確認にも活用できる。


 「オンラインバンキング」「オンライン証券取引」「個人売買サイト」「シティサイクルや電動キックボードの利用登録」といったオンラインサービスにおける本人確認では、「自分の顔と本人確認書類(マイナンバーカードなど)の原本を、PCやスマホのカメラで角度を変えて何度か撮影する」という手法が主流だ。これだけでも煩雑さを感じるが、大抵の場合はこの後に人による審査(確認)も入る。30分〜1時間程度でサービスを利用できるようになればいい方で、場合によっては1日以上かかってしまうこともある。


 その点、このような本人確認でiPhoneマイナンバーカードを利用できるようになると、煩雑さはほとんどなくなる。本人確認画面で「iPhoneのマイナンバーカード」を選択すると、画面の下からウォレット上のマイナンバーカードが呼び出される。その後、相手(サービス提供者)に提供される情報をを確認し、問題がなければサイドボタンをダブルクリックして生体認証を行うことで本人確認が完了する。


 サービスにもよるが、契約手続きの待ち時間はほぼゼロになるだろう。


 このオンライン本人認証の仕組みは、既に「マイナポータル」のログインや、同サイトから行える行政手続きの一部で利用できる。iPhoneのマイナンバーカードを一度登録してしまえば、ログイン操作は生体認証だけでOKだ。医薬品/医療費/年金情報の確認や、引越しなどのオンライン申請、そして住所変更の登録もiPhoneだけで完結できる。


 ユーザーの安全性と利便性を第一に考え、体験をデザインしていくAppleならではの「リアル」と「オンライン」をまたいだ快適な電子証明技術といえる。


 日本はこの極めて安全で使いやすく、利便性も高い身分証明書を世界で初めて提供する国となるのだ。


●ここまで来た「財布が不要な世界」 一部企業と行政の方針転換に期待


 Appleは、財布を持ち歩かなくても済む世界を目指して「Apple ウォレット」という技術を開発してきた。


 現金の代わりとして使える電子マネー「Apple Cash」(米国のみ提供中)や、クレジット/デビット/クレジットカード/デビットカード、公共交通カード、飛行機/鉄道の搭乗券、店舗のポイントカード、マイカーのカギ、家やホテルのカギ、そして身分/資格証明書――これまで財布に入れていたような大事なもの“全て”を1つの端末に格納し、生体認証、端末検索機能とリモートワイプ機能で“より安全に”した状態で提供することを目指している。


 残念ながら、Apple ウォレット対応がどのような利便性をもたらすのか理解していない企業が日本には多い。鉄道の搭乗券(きっぷ)やホテルの予約票、ホテルのカギ、ポイントカードといった分野では、Apple ウォレットがほとんど使われていない。


 鉄道会社のチケットレスサービスは自前アプリ主義が強く、座席を確認するために毎回アプリを起動してサーバに接続しないといけないため、サーバの負荷が重くなり、ただ乗る車両を確認したいだけなのに画面に「ただ今、アクセスが集中しています。○分お待ちください」などと表示されてストレスを感じることが多い。


 これをApple ウォレット用のチケットとして発行できるようにすれば、いちいちサーバにアクセスすることなく確認できるようになる他、列車に乗る時間が近づくとチケットがロック画面に表示されるので、ユーザーの利便性も高まる。


 まだApple ウォレット対応を果たしていない企業は、一度、先進事例を体験してユーザー体験第一で検討し直してほしいと思う。


 Apple ウォレットの目指す「財布不要世界」を実現する上で、最後のピースとも言えるのが電子身分証明書だ。最初は学生証などの形で米国の一部の大学などで使われていたが、その後一部の州/自治領(※2)において運転免許証として利用できるようになった。今後も、対応する州は広がることが期待される。


(※2)アリゾナ州、メリーランド州、コロラド州、ジョージア州、オハイオ州、ハワイ州、カリフォルニア州、アイオワ州、ニューメキシコ州、プエルトリコ


 2025年秋にリリースされる「iOS 26」では、米国の一部の州においてパスポート(旅券)の情報をウォレットに格納できるようになる。ただし、パスポートの電子化については国際的対応ができているわけではないので、現時点では「米国内の旅行における身分証明書」という扱いとなる。


 いずれにしても、我々の社会生活でわずらわしいと感じていた本人証明や行政手続きの一部が、国が安全性と使い勝手に優れた技術を選択し、大幅に利便性が向上するのは歓迎すべき動きだ。


 それだけに、公正取引委員会が進めている「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(スマホ新法)が、こうした動きの足を引っ張るものにならないことに期待したい。


 iPhone上のマイナンバーカードの情報は極めて安全な場所に保管されており、盗まれることはないことはもちろん、悪用される心配は極めて低い。しかし、代替ストアなどを通して個人情報を監視するアプリが普及すれば、例えば誰がいつどこでマイナンバーカード機能を利用したかなどの「行動情報」を拾えてしまう可能性は否定できず、それが将来悪用されないとは限らない。


 スマホ新法では、代替アプリストアを提供する企業に対しても、App Store同様のレベルで、個人情報をどのように扱っているかの明示を義務付けるなどしてほしい。



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