災害対応から有事まで――「Japan Drone 2025」で見た国内ドローン産業のいま

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2025年06月24日 17:51  ITmedia NEWS

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 6月のドローン業界は、衝撃的なニュースからはじまった。ウクライナがロシアの爆撃機を狙った大規模ドローン攻撃を実施したのだ。ロシア国内にひそかに潜入させた合計117機のドローンは、ロシアの戦略巡航ミサイル運搬船の34%に大打撃を与え、このミッションを遂行した最も遠かった場所は、国境から約4500キロも離れたところだったという。


【写真を見る】「Japan Drone 2025」の展示の様子(全21枚)


 日本では、ドローンはラジコンの延長といったイメージが強いかもしれない。しかし、いまやドローンの活用は、このような国防上の重要なピースとしてだけではなく、日本の産業界においても「LTE通信による遠隔運航」や、事前にプログラムした飛行ルートのオートパイロットによる「自動航行」が前提になりつつある。


 具体的な活用シーンは、太陽光パネルやビル壁面の点検、人が行くには困難な山間の鉄塔点検、災害時の広域調査や緊急物資輸送、施設の夜間警備などさまざまだ。もちろんそれ以外にも、「手動操縦」による施設点検などの活用事例も豊富で、もはやドローンは私たちの暮らしや社会に溶け込んでいる。


 同時にAIの活用も進んでいる。例えば、取得したデータから劣化部分をAIで自動検知してインフラ点検の一次スクリーニングに活用する。飛行中に周辺の画像データを自動解析して障害物を自動検知・回避するなど、活用方法も幅広い。


●「災害対応」がメインストリームに


 6月4日より3日間、幕張メッセで「第10回 Japan Drone 2025」と「第4回 次世代エアモビリティEXPO 2025」が開かれた。2025年は出展数285社、来場者数2万3049人で、いずれも過去最高を記録したという。


 今年も「災害対応」がメインストリームだったように思う。背景には、24年1月1日に発生した能登半島地震で災害直後の広域調査や、インフラ点検、緊急物資配送などでドローンが用いられたことや、25年1月28日の埼玉県八潮市道路陥没事故でも、被災地調査に小型ドローンが用いられたことなどがある。


 Japan Drone出展者らは、「災害対応や防災を目的に、自治体や地域のインフラ事業者からの注目が高まっている」と口々に語った。


 なかでも今後のトレンドになると感じたのが、テラ・ラボの展示だ。愛知県名古屋市でガス配管工事などを手掛ける山田商会と、ゴールドスポンサーとして共同出展した。「これからは地元の事業者が主役。どんなドローンがあって、どの用途にはどれがいいのか、利用者は目利き力を磨いて機体やサービスを選び、運用していくスキルが求められる」というメッセージは大変印象的だった。災害時、いきなりドローンに限らず不慣れなソリューションを使うのは難しい。地元の事業者が日常使いした延長線上にこそ、確実な活用があるからだ。


●有事に備え、長距離飛べる「VTOL」とは


 このように災害など有事の「広域調査」を念頭に置くと、VTOL(固定翼ドローン)の重要性がお分かりいただけるだろう。VTOLとは、「Vertical Take-Off and Landing aircraft」の略で、滑走路を使わないで垂直離着陸と長距離飛行が特長だ。


 今回特に注目を集めた1社が、空解(QU-KAI)。主力製品「QUKAI MEGA FUSION 3.5」は海上保安庁でも活用された。ちなみに同社のコアメンバーはラジコン飛行機エアロバティック競技で世界トップクラスの実力派。20年以上、「機体の軽さ」と「飛行安定性」を追求してきたノウハウをバックボーンに新規事業を立ち上げた。今回はハードウェアにとどまらずFUSIONフライトシミュレーターも紹介しており、普及の後押しになりそうだ。


 このほかにもVTOL機はさまざまあったが、エアロセンスは新型の災害対策用VTOLの試作機「AS-H1」を発表。経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)に採択されて開発中だという。


●ドローン技術が「除雪ドローン」に変身


 雪国でひらめいた、エバーブルーテクノロジーズの「除雪ドローン」も目立った。同社はもともと、風力を利用して航行するという超エコな「帆船型水上ドローン」の開発を手掛ける。この技術を、陸上の困りごと解決に転用した。例えば夜の駐車場などの無人エリアで、自動航行で雪かきをし続ける。積もってから除雪ではなく、「そもそも積もらせなければいいんじゃない?」という真逆の発想だ。24年1月より販売開始し、25年6月からはレンタルも開始。自宅の玄関からでも出し入れして使えるよう小型にこだわったというが、利用者アンケートでは「意外と力がある」と好評だという。


 とはいえ小型だと、広いエリアには向かなそうだが、ドローンには「群制御」という技術がある。ドローンショーなどはまさにそれだが、同社では複数台の除雪ドローンの協調動作で効率的な除雪作業を可能にするべく技術開発中だという。空港など広い場所での活用も視野に入れる。


 そうした場合、通信確保や、障害物回避、乗っ取りなど、別の課題も出てくるだろうが、すでにある技術を組み合わせて新しい用途に活用していく発想こそイノベーションだ。GMOがサイバーセキュリティ、NTTドコモが上空LTE通信における「パケット優先制御」や「閉域接続プラン」などを紹介しており、心強く感じた。


●来場者の反応は


 過去最高の来場者数ということで、非常に盛り上がっていた。利用者の情報収集や、これから新規参入する目的の方も多かったようだ。また、海外企業との接点を積極的に持つ方が、やや増えたように感じた。例えば、スマート送信機やジンバルカメラなどを販売する中国SIYI(深?)のブースや、NDAA、Blue USAに対応済みの製品を低価格で提供するベトナムGREMSYのブースでは、片言の英語で懸命に質問する姿が目立った。


 韓国パビリオンには日本語の通訳者が何名もいて、とてもフレンドリーな対応だった。フライトコントローラー(ドローンの頭脳に当たる)やGPSを開発する韓国VOLOLANDの担当者は、「日本では政府関係者や大学の研究者の関心が高い」と明かした。余談だがJapan Drone 2025開幕の2週間前に米ヒューストンで開かれた世界最大級のドローンの展示「XPONENTIAL」にも出展していた(筆者も現地取材した)ことに触れると、「これがきっかけで、米国企業から受注した」と話してくれた。


●日本はこのままガラパゴス化していくのか


 やや懸念として感じたのは、海外勢とのスピードの差だ。前述のVOLOLANDは、聞けば5月のXPONENTIAL初出展で受注し、そのまま米国市場進出というスピード感だ。かたや国産ドローンは、「第一種機体認証機体」が昨年と同じ「申請中」というステータスだった。


 もちろん部品と機体とでは、ましては認証制度への対応では事情は全く異なる。誰が悪いとも思わない、むしろ関係者の"顔が思い浮かぶレベル"で応援している。しかし、XPONENTIALで各国企業から言われた「日本は商習慣の違いや独特な規制があるため、進出していない」という言葉を思い出して、日本はこのままガラパゴス化していくのだろうかと一抹の不安がよぎった。


 最後に、そんななか水中ドローンは勢いがあった。CESやXPONENTIALへの出展経験豊富なスペースワンは、おなじみの大水槽での水中ドローン実演や、同社がレンタル事業を開始し初お披露目となる大型LEDパネルの設置で、会場を盛り上げた。2日目には「Talk over a beer」と称しビールを振る舞う交流イベントを繰り広げていた。


 水上ドローンとの「タッグ」も今後は熱くなりそうだ。7月28日・29日には静岡県清水港で実海域を活用した水中ドローン、水上ドローンのデモを行うという。担当者によると「12機種が参加予定」。Japan Drone展のネクストアクションとして、空・陸・海のドローンを「まずは動かしてみる」とよりイメージが膨らむのではないだろうか。



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