
連載 水沼貴史×平畠啓史
国内外のサッカー中継の解説者として活躍する水沼貴史さんと、日本屈指のサッカーマニアで知られる平畠啓史さんが、サッカー界のホットな話題をしゃべり倒す連載。今回はJ1第33節鹿島アントラーズvsガンバ大阪のレビュー。シーズン終盤の熱い戦いを振り返った。
【動画】水沼貴史&平畠啓史「0−0はドラマだ!」J1第33節鹿島vsG大阪を振り返る↓↓↓
【立ち上がりの見どころ満載の攻防】
水沼 めっちゃ熱い試合でしたね。スタジアムの熱気がすごかった。
平畠 3万2407人入りました。鹿島が4連勝。ガンバが5連勝というなかでのゲームでした。
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水沼 首位の鹿島は優勝に向かって進んでいるなかでのホームゲーム。前日までに今節の他チームの試合は全部終わっていて、この試合に勝つと2位と勝ち点7差。2勝とあと1ポイント差になるところで、結果引き分けで勝ち点差5にしかならなかった。これは2勝でひっくり返る数字なので、結構大きかったのかなと。
平畠 試合前にメンバー表をもらって、ある程度予想するじゃないですか。貴史さんはやっぱり4−4−2みたいなことを予想したんですか?
水沼 4−2−3−1ですね。でも、フタを開けたら「えっ? これは違う」「5(バック)だ!」と。やっぱりガンバはACL2でのタイ遠征から帰ってきて中2日。コンディションも考えて、鹿島のストロングであるサイドを防ぎにきた。それで相手が出てきたところをカウンターで押し返す狙いだろうと。
で、それがまた、まんまとハマりそうだったじゃないですか。
平畠 特に最初ですよね。スルーパスで山下諒也選手が抜け出すシーンがありました。
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水沼 パスを出したのは中谷進之介でした。それに山下がいいタイミングで出たんですけど、鹿島のGK早川友基が! なんですか。あの判断の速さは。
平畠 すごかったですね。ほんと一瞬でも遅れたら、山下選手はいけますからね。
水沼 早川はどういう基準で判断をしたんだろうというところまで考えると、すごいと思った。鹿島側からすると、この日鬼木達監督か言っていたのは、メンバー表を見た時に「これ、ちょっと(予想していた形とは)違うかもね」とは思ったらしいんです。それで試合が始まって確認をして相手の形は多分理解したと思うんですよ。ある程度の想定はしていただろうけど、そこまでの分析はしていなかったと思う。
だから、そうしたなか早川は「背後狙って前に早く来るかも」とか「最終ラインを高くしているからそこを狙ってくるだろう」というのも考えながらポジションを取っていて、あそこに出て行ったんだなと。
ここはうまく防ぎました。で、その2分後くらい。また同じのがありました。
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平畠 はい。ありました。
水沼 安部柊斗のパスに山下が抜けて倒され、レフェリーはPKを指しました。が、これはオフサイド。
ただ、短時間で2発同じことをやられたわけです。これで鹿島はラインコントロールに戸惑うだろうなと思ったし、ガンバの狙いもよくわかったし、この最初の10〜15分くらいがすごく面白かったですね。
【好調G大阪の狙いと戦い】
平畠 ガンバのほうは(ダニエル・ポヤトス)監督さんの考えてきたこと、チームの考えたことが、そのまますぐに出たってことですもんね。
水沼 だって、準備してないんですよ。今季3バック(5バック)をやっているのは8月31日の湘南ベルマーレ戦の一回だけ。多分ミーティングだけでやってるんで、それをできる選手たちの質がすごい。
平畠 ガンバ結構コンパクトでしたよ。なんか、いつもこのやり方でやってんのかな?みたいな感じで。
水沼 ガンバはこの日3バックはみんな走行距離9kmいってないんですよね。横のスライドとかなかったし、背後をバンバン取られることもなかったし、ある程度体力を温存できた。半田陸はウイングバックをやる時はガンガン行くけど、今回はタイ(遠征)でフル出場していて3バックの右。あまり運動量がいらないところに置いた。そうした体力の使い方、鹿島対策はすばらしかったと思いました。
平畠 スコアは0−0ですけど、特にガンバの戦い方は見るべきところがすごく多かったですよね。
水沼 鹿島は前半戸惑いましたね。
平畠 前半のチャンスは、鈴木優磨選手からレオ・セアラ選手に入って、最後はペナルティーエリアの中でチャヴリッチ選手がシュートを打った、あれぐらいだったと思うんですよね。
水沼 あれはクリアボールがバーンと高く上がったんですが、それをイッサム・ジェバリがトラップミスしたのが鈴木優磨のところへ行ったんです。
高く上がるボールって何か起きるんですよ。意外と処理が難しいんです。この試合は集中力が高かったので、何かアクシデントとかそういうことが起きない限り何も起こらない感じがずっとしていたので、あれもすごく面白かった。こういうゲームならではの現象でしたね。
平畠 やっぱりゲームが進んでいくにつれて、鹿島がだんだん自分たちのペースに持っていった感じでしたね。
水沼 後半ギアを上げて、ちょっと前がかりに。「コンパクトにしよう」と鬼木監督は言ったみたいですが、やはり選手間の距離を近くしていけば、プレッシャーに行った時に次のボールが拾えたり、コンビネーションが生まれやすい。いろんな理由があると思いますけど、そうしたことで前掛かりの勢いが結構出てきました。
そしてサポーターのボルテージがやばいぐらいに上がる。
平畠 終盤に向けてですよね。
水沼 ガンバのサポーターも負けじと、ずーっと旗を振って声を出してるんですよ。それで最後のあのPKです。あれもボールがバーンって上がって、出るのか出ないのか微妙な感じになった後でしたよね。
【PKにまつわるドラマ】
平畠 満田誠選手の手に当たって、それがPKになりました。で、PK誰蹴りますの?っていうところです。
水沼 僕が見たのは、荒木遼太郎がボールを持って蹴る気満々だった。荒木の顔がめっちゃよかったんですよ。
平畠 交代でゲームに入ってからも、なんとか自分を見せたいっていう感じがすごく出てましたもんね。
水沼 でもなんか様子が違って、キッカーが変わったんですよ。
平畠 徳田誉選手ですよね。あれは選手が蹴るって言ったんですか?
水沼 指名みたいです。鬼木監督の。その指名もまた深いと僕は思うんですよね。蹴りたい人に蹴らせるのが、一番いいかのもしれない。だけど、徳田は大ケガをしてようやく戻ってきて、これからの鹿島のエースになる選手だと言われている。こういう貴重な、大変なゲームで徳田が取ったら、彼はすごい選手になる、みたいな。あとはこのプレッシャーに耐えて決めてほしいという思いとか。多分いろんな思いがあって監督は徳田に指名したんだろうなと。
決めたら、このあと優勝した場合、立役者のひとりと言われるかもしれない。こういう大事なゲームで、そこを任せるのがすごいなと。
平畠 まあ、でも徳田選手の普段の振る舞いも、PKを任せるに値するものだからってこともあるでしょうね。
水沼 これから先のことを全部考えたのかなって僕は思ったんですよね。
平畠 ただね、もうGK一森純選手がすごかった。全然動かなかったですよ。どっちかに動きそうなもんじゃないですか。まったく動かなかったですね。
水沼 でも、スタジアムの空気と、試合の内容と、鹿島がなんとなく行き出しているところと、なんか全部がリンクして「これ絶対に普通に終わらないな」と思ったんですけど、ああいう場面で終わるとは思わなかったな。
平畠 最後の結末がね。PKが来て、PKが止められるという。
水沼 その止められるまでも、蹴る側にも止める側にもいろんな人間模様があって。徳田はね、試合後の挨拶の時もずっと泣いてたりしましたけど、絶対強くなりますね。
試合後に鹿島の強化の人とちょっと喋ったんです。そうしたら「ああいう場面で(小笠原)満男も外したんだから」と。
平畠 いやー、すごいな! なるほど。それは歴史がありますもんね。そこは本当に鹿島アントラーズというクラブの蓄積というか。
水沼 今年は鬼木監督が来てチームを変えてここまでやってきて。それでエースになっていくだろうという選手にPKを託すみたいな。
平畠 はい。
水沼 その裏には荒木の悔しい気持ちもある。そしてPKを止められてベンチではみんなが「うわーっ」て頭を抱えるという。
平畠 はい。
水沼 すごいドラマだった。
平畠 ドラマでしたね。だから0−0ですけど、なんなら点が入るゲームよりもドラマがいっぱいあるっていうね。見るべきところがすごい多かったですね。
水沼 ぜひみなさん、見直していただければと思います。