好発進「大井町トラックス」は何がウケた? 地域住民が歓迎した施設づくりの裏側

0

2026年06月05日 05:40  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

集客が好調な大井町トラックス

 3月28日、東京都品川区の大井町駅前にオープンした、大型複合施設「OIMACHI TRACKS(大井町トラックス)」の集客が好調だ。


【画像】大井町トラックスで大人気の回転寿司店


 JR東日本ではこの施設のオープンに合わせて新改札口の「トラックス口」を開設。東急からも改札を出て直ぐの場所にあり、交通の便が非常に良い。地元の焼肉などの人気店、まぐろが評判で地域初出店のグルメ回転寿司、手ぶらでバーベキューができる店、最新設備のシネコンやサウナを備えているのも特徴だ。地域住民に評価され、オープン以来、にぎわいが絶えない。


 1階には4600平方メートルの芝生を敷き詰めた広場(トラックスパーク)もあり、小さい子どもを連れてくるにも良い環境だ。隣接した土地には、品川区役所の新庁舎を建設中。2029年9月に完成予定で、大井町トラックスとは歩行者デッキで連結される。区役所が移転すると、さらに来街者が増えると目されている。


 同日にフルオープンとなった高輪ゲートウェイ駅前「高輪ゲートウェイシティ」が、早くも失速が懸念されているのに対して、明暗が分かれてきた大井町トラックスの魅力を深掘りしていこう。


●地域住民の注目度が高かった再開発


 大井町駅は、JR京浜東北線、東急大井町線、東京臨海高速鉄道(りんかい線)の3線が乗り入れている。1日当たり約40万人が利用する駅で、近い将来に区役所とも連結されることを考えるとポテンシャルは相当高い。JRの広大な東京総合車両センターに隣接しており、主に山手線の電車を見られることから鉄道ファン、乗物好きの子どもにも人気が出そうだ。


 この場所にはもともとJR東日本の社宅があった。2017年に老朽化によって取り壊された後は、複合スポーツ施設「スポル品川大井町」が期間限定でオープンした。スポルも評判の施設で惜しまれつつ閉店しただけに、その跡地にどのような施設ができるのか、地元の注目度は高かった。


●飲食に力を入れ、地元内外から有名店が結集


 大井町トラックスは商業施設、ホテル、オフィス、住宅、映画館、スパ・サウナ、公園などから成り立っている。メインとなっているのは2棟の高層ビルで、駅に近いほうが「ホテル&レジデンスタワー」(地上26階・高さ107メートル)、遠いほうが「ビジネスタワー」(地上23階・高さ113メートル)。さらにその先にトラックスパークがある。


 商業施設、ホテル、住宅という3点セットに加えて、シネコン、ウェルネス施設、人が集まれる広い公共スペースを備えた。さらに、わざと迷路のような動線としている。「六本木ヒルズ」のまちづくりをベンチマークしつつも、地域性を考慮した落とし込みを図っている。


●飲食店が充実


 オープンから今までの経過を観察したところ、1〜5階の低層階を占める商業施設「OIMACHI TRACKS SHOPS & RESTAURANTS」が好調だ。特にランチ時は、270席あるフードコート「ウェルサイド・テーブル」を含めて、どの店も行列ができている。宮城県から進出したグルメ回転寿司「廻鮮寿司 塩釜港」の人気はすさまじく、5時間待ちも当たり前になっている。


 全81店中6割ほどを飲食店が占め、運営元のアトレは「大井町が飲食に強い街であることを考慮し、大井町になかった業態を集めた」と説明している。アトレとしては、大井町には既に「アトレ大井町」「アトレ大井町2」を出店していることから、ファッション関連などはそちらに任せて、ランチやファミリー、オフィスワーカーの需要を満たせるレストランを強化するのが重要と考えたのだろう。これらと差別化するためにあえて今回は「アトレ」の名を冠しないようにしている。


 地元、大井町で評判の名店がいくつか入っているのも特徴だ。焼肉の「銭場精肉店」はA5黒毛和牛の雌牛を一頭買いしていて、和牛をリーズナブルに提供する。和食ダイニング「H」や立ち飲み「8」が人気のHグループも「立呑み 8」を出店。豊洲市場直送の鮮魚や、地元の店で仕入れた食材を使った料理が人気だ。創作料理やきとん「新橋 まこちゃん」は、新橋発祥の人気大衆居酒屋で、オーナーは大井町が地元だ。


●高輪ゲートウェイシティとはすでに「差」が生まれている?


 ベーカリーではいずれも人気店である六本木の「ラトリエ・デュ・パン」と、目黒の「レ・ジュ・ド・ベベ」が入居しており、期待が大きい。また、前述した塩釜港、「551蓬莱」創業者の孫が創業した豚まん専門店の「羅家 東京豚饅」が注目される。


 塩釜港は100円台の回転寿司ではなく、グルメ回転寿司に属する。小さめのシャリに大きなネタを乗せるスタイルが特徴だ。宮城県発祥のチェーンで、鮮度にこだわっており、マグロや三陸のネタに定評がある。1階の芝生広場に面している「ピチピチミートファーム」では肉を販売しており、テラスでバーベキューができるのも面白い。


 全般的に、高額所得者しか行けないような高級店はなく、庶民が奮発すれば手が届く範囲のぜいたくができる店がそろっている。ここがポイントだ。


 そんな中カフェでは、スターバックスやタリーズといった無難なブランドが入っているのは若干疑問ではある。しかし、安価で雰囲気やイメージが良く、誰もが気軽に休めて、軽食もあり、リモートワークにも対応しており、地域特性に合わせたデザインを考えてくれるという点では、なかなか代替する店がないのかもしれない。スーパーはライフと系列のビオラル、コンビニはセブンとニューデイズが入っている。


 飲食以外では、複数の特殊シアターを導入したTOHOシネマズ 大井町や、路面電車内を再現した「トラムサウナ」があるサウナメッツァ大井町などが営業している。レジデンスは、賃貸1K〜3LDKで194戸ある。月額約20万円〜と、周辺相場よりはかなり高めだ。


 同じJR東日本系列の大規模再開発で、車両基地に隣接する高輪ゲートウェイシティは、周囲にほぼ住宅以外何もない場所でいきなり再開発を行い、広大な敷地を持て余した感がある。KDDIなど大企業が入居するオフィスビルとしては成功していても、ファッションビルとしてはブラッシュアップが必要だと見受けられる。その一方で、高層の高級な飲食店フロアは順調なようだ。一軒家レストラン風のたたずまいや、レインボーブリッジも見える夜景などが好評。ステーキや和食が食べたいといった目的来店、接待需要、一部インバウンド向けの店として、想定した集客ができている。


●「広域品川圏」の実現はまだまだ先か


 対する大井町トラックスは、元々繁華街があった場所の駅を隔てた反対側に、大規模な再開発施設ができた。繁華街の拡張と言って良いだろう。これだけの施設ができたのだから、元からあった商店街や飲食街は影響を受けて大変だろうと思ったが、大井町トラックスに出店している地元の店からは「元の繁華街にある店の売り上げも伸びた」といった声が聞かれた。


 大井町トラックスは大井町の人の流れに変化をもたらすだろうが、今のところは街全体の活性化、来街者増加に寄与していると言える。運営会社としても、大井町トラックスのみが栄え、元からあった2つのアトレで閑古鳥が泣いてしまっては何の意味もない。街全体の回遊性を高めて、大井町全体の発展にいかに貢献するか。品川区役所とタッグを組んだまちづくりの行方に注目が集まる。


 JR東日本では、浜松町から大井町までの5駅(浜松町、田町、高輪ゲートウェイ、品川、大井町)を「広域品川圏」と称している。リニア開通に向け、羽田空港、竹芝桟橋と、陸空海の交通の便がそろった、新しいライフスタイルを提供する考えだ。


 しかし、今のところ、5駅の駅前の個々の街は、他の街に関係なく発展してきたので、一体感を何も感じない。港区と品川区の区境をまたいだ連携策を実現するのも大変だ。まずは、現実的に大井町トラックス、高輪ゲートウェイシティそれぞれで個別の成功を目指してほしい。広域品川圏の成否はその先にある。


(長浜淳之介)



    ランキングトレンド

    前日のランキングへ

    ニュース設定