探査機「はやぶさ2」拡張ミッションの次のヤマ場は、2026年7月の小惑星「トリフネ」の接近通過(フライバイ)観測だ。通過時の相対速度は秒速5キロ(時速1万8000キロ)で、ライフル銃の弾丸の約5倍に相当。1キロも離れていない至近距離を超高速で通過するため、精密な制御が求められる。
トリフネは地球と火星の間の軌道を周回する小惑星で、直径約500メートルで細長い形状。初代のはやぶさが訪れた「イトカワ」と同様、岩石質の小惑星と考えられている。01年に発見され、公募により日本神話の「天鳥船(あまのとりふね)」に由来する名称が今年5月に付けられた。
衝突を避けつつ、なるべく近くで撮影するため、探査機とトリフネとの距離や速度に基づいて、軌道を調整するエンジンの噴射量を高精度で予測する必要がある。従来は、地上で計算した結果をはやぶさ2に送っていたが、通信に時間がかかるため最接近から10時間以上前の状況を基に予測せざるを得ない。そこで、今回のフライバイでははやぶさ2に搭載したコンピューターが、最接近の約10分前までのデータを基に計算することで、誤差を最小限にする手法が検討されている。
最接近前後の撮影では、超高速での擦れ違いによるぶれをできるだけ抑えるためシャッタースピードを100分の1秒単位まで短くする。このほか、小惑星「りゅうぐう」の観測時にも活躍した赤外線カメラなどの機器も総動員する予定だ。