【オリコン・モニターリサーチ】会員20代以上の男女1000人に実施した「がんとお金」に関する意識調査より 2人に1人が生涯で一度はがんになると言われ、今や“国民病”ともいえるほど日本人にとって身近な病気になっているがん。しかし、先ごろORICON NEWSが行った調査によると、7割以上の人が「がんになった後の経済的不安」を抱えているにもかかわらず、「がんの治療費や入院費を知っている」人はわずか3割未満ということが明らかに。いざというときに備えて、「がんとお金」についての正しい最新情報を専門家に聞いた。
【漫画】大腸がん、余命宣告された38歳漫画家が描く闘病のリアルとは…!?■がん治療費は高額療養費制度で「年収500万円なら1ヵ月の上限8〜9万円ほど」
ORICON NEWSでは、20代以上の男女1000人に「がんとお金」についての意識調査を実施。「がんにかかった場合の経済的な不安の有無」に対して【不安あり(非常にある38.1%・どちらかというとある37.7%)】が75.8%、【不安なし(まったくない3.4%・どちらかというとない13.8%)】が17.2%だった。
その一方で、「がんになった際の治療費・入院費にいくら必要か」の問いに対して、【認知あり(知っている6.3%・どちらかというと知っている22.2%)】が28.5%、【認知なし(知らない39.2%・どちらかというと知らない30.8%)】が70.0%と、多くの人ががんになった際の金銭面に不安を抱きながらも、かかる費用についての知識を持っていない実態が浮き彫りになった。
この現状について、がん患者とその家族の経済的・精神的サポートを行っている、一般社団法人がんライフアドバイザー協会代表理事の川崎由華さんは「ひじょうに納得できる」と深くうなずく。
「がんと診断されてから、『がんの治療って高いんでしょ?』『いくらかかるか検討もつかない』と相談に駆け込んでこられる方は本当にたくさんいらっしゃいます。自分がまさかがんになるとは思っていなかったから準備をしてこなかったという方が大半ですが、その一方で、私は今の大人は社会保障制度についての教育を十分に受けてこなかったことががんにかかった場合の経済的不安を抱えてしまう一番の原因だと思っています。日本は社会保障制度でとても守られているので、医療費額も軽減されます。その知識を十分にもっていれば不安を和らげることができるはずです」(一般社団法人がんライフアドバイザー協会 代表理事 川崎由華さん/以下同)
そのひとつが、公的な健康保険の加入者なら誰もが利用できる高額療養費制度だ。
「高額療養費制度は、ひと月にかかった医療費が自己負担限度額を超えた場合、超過分を支給する制度で、年齢や所得に応じて自己負担限度額は変わります。例えば、現在は69歳以下で、年収500万円くらいの方でしたら、1ヵ月の上限は8〜9万円、年収が1000万円くらいの方でしたら、17万円くらい。マイナ保険証または限度額適用認定証を利用することで、医療機関での窓口での支払いが、高額療養費制度を適用した後の自己負担限度額に基づいた金額になります。詳しい金額は厚生労働省のホームページで確認できます」
どんなに高い治療を受けても、健康保険が適用される治療であれば自己負担額は限度額のみで済む。これは不安解消の大きな材料になるが、「実は懸念事項もある」と川崎さん。
「特に高額な治療を長期にわたって受けている患者様にとって高額療養費制度は極めて大切な制度です。ところが、現在、この自己負担額の引き上げが検討されており、患者様やそのご家族から不安の声が上がっています」
また、この制度が適用されるのは、「受けた医療に関する費用」についてのみ。入院すれば、医療費以外の支出も必要になることを忘れないでほしいと続ける。
「けっこうみなさんが驚かれるのが入院した際の食事代です。一般の方であれば1食490円なので、1日1,470円。これは高額医療費制度の適用にならないので、別途必要になります。高額医療制度が適用されるからと安心していたら、支払いの段階になってそれ以上の請求が来て、驚いて相談に来られる方も少なくありません」
食事代のほかにも、診断書などの文書料金や個室等の差額ベッド代、病着のレンタル代等も高額医療費制度の適用にはならない。
さらに近年は、働きながら治療を受けるなど、患者の生活の質(QOL)を落とさないために、薬物治療や放射線治療は通院で行うケースが増えているが、通院治療も医療費以外の出費が意外と必要になることを覚えておきたい。
「がん治療は、遠方の病院へ通うために『交通費がかかる』という方はひじょうに多くいらっしゃいます。患者様を一人で病院に行かせるのが不安な場合は同伴者の交通費も必要となります。また、抗がん剤をうった後、しんどくなったためにタクシーを使うというケースもよく耳にします。ほかにも通院日には託児所に子どもを預けたり、治療の副作用が出ている間、家事代行を頼んだり、入院中、ペットをホテルに預けるなど、医療費よりその他の支払いのほうが高額になったという方も多くいらっしゃいます」
■「給与明細にある健康保険はがんになったときに経済的支援が受けられる保障を有している」
治療が長引けば長引く分、出費もかさむというわけだが、さらに頭を悩ますのが、収入の減少だ。がんの種類や進行の度合いによって治療は異なり、もたらされる副作用も個人によって異なるが、川崎さんによると「抗がん剤治療によって手足にしびれが出て、仕事が続けられなくなったなど、休業や辞職を余儀なくされるケースは少なくない」そう。出費が増えるうえに、収入が減少もしくはなくなるのだから、患者にとってはダブルパンチ。「貯蓄があったとしても、子どもの学費のためにとか、老後の資金のためにと考えてきたものだったので、自分の治療に使うのはと躊躇される方も多くいらっしゃいます」と川崎さんは言う。
しかし、これらについても安心材料となる保障制度がある。
「給与明細に、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、厚生年金保険料などが記されていると思いますが、健康保険が高額療養制度を有しているように、これらはすべて、がんになったときに経済的な支援が受けられる保障を有しています。例えば、介護保険は介護が必要になった時に受けられますし、厚生年金は、日常生活や仕事などが制限された場合に障害年金という形で支給され、雇用保険は失業や退職した際に受けられます」
加入している健康保険によっては、医療費について独自の給付制度を設けているものもあり、例えば、高額療養費制度によって病院への支払いは17万円で済んだが、健康保険からさらに15万円補てんされ、最終的に負担額が2万円で済んだというケースもあるのだそう。
「自分の入っている健康保険にどのような給付があるのかは、その保険のホームページを見れば確認できます。仕事ができなくなったとき、休業手当がいくら受け取れるかも掲載されていますので、確認しておくといいでしょう」
残念ながら、自営業等の国民健康保険の加入者は、独自の給付や休業手当等は一切ない。しかし、「ない」ということを知っておくことも、いざというときのための備えを考えるうえで大きな材料となることだろう。
■がん保険、各社で特徴や保険料が大きく異なり「単純比較しづらいこと」が課題
がんが“国民病”とも言われる今、がん保険も様々登場しているが、やはりがん保険に入っておくべきなのだろうか。前述の「がんとお金」にまつわる調査結果によると、「がん保険の必要性」について、【必要あり(必要だと思う27.2%・どちらかというと必要だと思う35.7%)】が62.9%ながら、がん保険未加入者が59.4%と、必要性を感じながらも、大半の人が入っていないという結果に。
未加入の理由については、【保険料が高い】37.5%、【どの保険が良いかわからず決め切れていない】28.3%が上位を占めた。この結果に対して、『乳がん・子宮がん・卵巣がん経験者専用がん保険』『胃がん経験者専用がん保険』など、がん経験者のための保険を提供するMICIN少額短期保険の担当者はこう語る。
「がんと診断されたら受け取れる保険や、がんで手術や入院をしたら受け取れる保険、はたまた抗がん剤治療や通院の保障が手厚い保険等々、各社が提供するがん保険の特徴や保険料は大きく異なります。『単純比較がしづらい』『どの保険が良いかわからない』と言った声は、まさに、がん保険の課題だと考えています」(MICIN少額短期保険・代表 笹本晃成さん)
では、がん発症後の生活に金銭的な不安がある「がん保険」未加入者は、まず何をすべきだろうか。
「保険を考えるのであれば、まずは、お知り合いのファイナンシャルプランナーや保険募集人の方、お近くにある保険ショップに相談していただきたいと思います。収入や家族構成等によって、がんに罹患した場合にかかる自己負担額は大きく異なります。まずは情報やシミュレーションを入手してください。すでに保険に加入している方も、改めて現在の保障内容や、それでどこまで対応できるのかを確認してほしいと思います。そのうえで、自分が負担できる保険料内でおさまる保険プランの提案を受けてみましょう。複数の商品提案を受けることで、自分にとってどの保険が良いかが見えてくるはずです」(笹本さん)
情報を集め、自分に合った保険を見つけることの重要性については、川崎さんも経験を踏まえてこう語る。
「医療保険の中には入院した場合のみ支払われるというものもあります。実際、通院で抗がん剤治療を受けることになった患者様の中には、長年保険料を払ってきたのに、がんになってすごく困っている今、1円も受け取ることができず、それでもやめてしまったら2度と同じ保険には入らないから保険料だけは今も支払い続けているという方もいらっしゃいます。自分がどういうがんにかかり、どういう治療を選択することになるかは、誰も予想がつきません。でも、その中で保険で備えるなら、幅広くサポートがあるものや、収入が減った時でも治療や生活費等にお金が使えるよう一時金が支払われるものなどが役立つと思います」
医療の進歩で高額な治療薬も増え、がんは死へと直結する病気ではなくなった。がんに罹患しながらも生存期間が長くなり、治療をしながら仕事を継続し、社会とつながっていられる現代。「治療費は点ではなく線となり、お金の問題は大きくなっている」と川崎さん。
「まずは、自分の社会保険の保障を確認したうえで、困るかもしれないと思ったら、保険に入るのか、貯金をしておくのか、備えを考えるといいと思います」
不安を煽る広告や情報には惑わされず、まずは正しい情報を得ることが不安解消の第一歩ということだ。
PROFILE/川崎 由華(かわさき・ゆか)
一般社団法人がんライフアドバイザー協会 代表理事
社会福祉士、CFP(R)、1級FP技能士、住宅ローンアドバイザー、両立支援コーディネーター。がん治療関連薬を扱う製薬企業に勤務し、がん診療連携拠点病院で相談員を務める中、がん患者とその家族のお金や仕事の相談を受ける医療・介護者づくりの法人を設立。相談実績を医療関連学会で発表するほか、お金や仕事の問題といった社会的苦痛の緩和も治療の一貫として考えていく重要性を発信している。
(取材・文/河上いつ子)
【調査概要】
調査時期:2024年12月9日(月)〜12月16日(月)
調査対象:計1000名(自社アンケートパネル【オリコン・モニターリサーチ】会員20代以上の男女)
調査方法:インターネット調査
調査機関:オリコン・モニターリサーチ