ファミマはなぜパンを「白く」したのか? 累計500万食の「白生」シリーズが挑む主役の座

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2025年05月25日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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ファミマの「白生パン」シリーズの販売が好調

 ファミリーマートの「白生パン」シリーズが好調だ。3月の発売から13日間で累計500万食を販売し、コンビニパン市場で存在感を示している。通常なら焼き色が付くパンを白く仕上げたことも話題となり、若年層や女性ファンを増やしている。なぜハマる人が多いのか、ヒットの背景を追った。


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 ファミマのパンカテゴリーは、2024年に過去10年で最高の売り上げを記録した。特に、2023年に発売された「生コッペパン」を皮切りに展開する「生」パンシリーズは、2年間で累計2億6000万個を販売する人気商品に成長。その成功体験をもとに生まれたのが、「白生パン」シリーズだ。


 3月25日に「白生コッペパン(つぶつぶいちご&ホワイトチョコ)」「白生クロワッサン(ダブル生チョコ)」「白生フランスパン(北海道産ダブル練乳ミルク)」(各168円)の3種類を発売。


さらに「白生クリームパン(ダブルカスタード)」(158円)、「白生ドーナツ(チョコホイップ)」(145円)、「白生コッペパン(トリプルチーズ)」(158円)も加わり、ラインアップが広がった。


 同シリーズの特徴は、焼いても白い見た目と、しっとりもちもちした食感だ。「生コッペパンから派生する形で発売したところ、白いパン生地への需要を感じた」と、商品本部スイーツ部副部長の鈴木崇義氏は振り返る。


 特定のターゲットを設定せずに発売するため、定番のコッペパンやクロワッサンを展開したところ、狙い通りに幅広い層からの支持を得た。さらに「パンが白い」というインパクトにより、これまで男性客が中心だった同社のパンカテゴリーの購買層において、若年層や女性客の割合が増えるという変化も見られた。


●購入者の「体験価値」の向上が狙い


 なぜ、あえて「白く」したのか。そこには、視覚的な驚きと新食感によって、日常的なパン購入に新たな体験価値を加えようという狙いがあった。「街のベーカリーでは商品を選ぶ楽しさがある。コンビニでのパン選びにも楽しさを提供したかった」と鈴木氏は説明する。


 通常、パンは焼く過程でタンパク質と糖がメイラード反応を起こして焼き色が付き、さらに糖が単体でカラメル化反応して色が付く。焼き色がきれいに付くのがいいパンとされているが、あえて色を付けずに焼き上げる工程で試行錯誤を繰り返し、開発には約6カ月を要した。


 「白生パン」を実現した背景には、2つの工夫がある。1つは、低温でじっくり焼く製法を採用したこと。通常より低い温度でやや長めに焼き上げることで、焼き色を抑えつつ、パンの膨らみを確保した。


 もう1つは、色が付きづらい糖に一部置き換えたことだ。しかし、この糖はイースト(パン作りに使われる酵母)の栄養源にならないため、発酵に必要な通常の糖とのバランスが重要だった。繊細な配合調整によって、白さと独特の食感を両立させることに成功した。


●商品名と食感のイメージが一致


 商品名に使われる「生」という言葉も、戦略的に重要だったといえる。生チョコや生ドーナツのように、「生」には、特別な口どけやフレッシュさ、さらにはちょっとした高級感を連想させる効果がある。


 もともとは生地に生クリームを加えていたことから「生」パンとして発売したが、鈴木氏は「商品名と食感のイメージが一致したことも、人気の要因」と分析している。


 この「生」食感を支えるために、同社は「多加水(たかすい)」という製法を採用した。水分をたくさん含ませる方法で、町のパン屋では一般的だが機械製造では難しい。水分が多いと生地がドロドロになり、機械では扱いづらくなるが、同社は発酵や製造工程を工夫することで対応した。


 食感にこだわった結果、パン生地自体に高い評価が寄せられている。もともとコンビニパンでは、具材やトッピングが注目されることが多かったが、生パンシリーズの発売以降は、生地そのものの味わいや食感に対する関心が高まっている様子がうかがえる。


 また、購入者の反応として特徴的なのが、白生パンシリーズの全品を食べ比べている点だ。通常は特定の商品に人気が集中しがちだが、同シリーズではそれぞれの商品に支持層がいるという。


●「スイーツ」としての価値を提供


 白生パンシリーズの開発は、「スイーツのファミマになる」という全社的なテーマとつながっている。ファミマは近年、デザート、パン、アイス、お菓子などを横断したスイーツ強化戦略を展開しており、同シリーズもその一環と位置付けている。パンは食事をしながら甘いものも楽しみたいという需要に応えられるため、同社は菓子パンを開発するときには、スイーツとしての側面を特に意識しているという。


 ファミマは、商品開発にあたり、年に数回のマーケティングリサーチを実施している。調査では、同社の商品企画担当者だけでなく、製造に関わる関連企業も参加し、目標とする品質の基準をすり合わせる。チームごとにパンを集め、試食や撮影を行いながら具体的な目標を設定していく。


 今回でいえば、白生パンの食感の特徴である「もちもち」といった感覚は人によって異なるため、実際のパンを持ち寄り、食感に対する認識をすり合わせた。


●「定番がおいしいチェーン」を目指す


 コンビニパン市場では、各社がさまざまな戦略を展開しており、セブン-イレブンは店内での「できたて・焼きたて」に注力する。2026年2月までに、パンや焼き菓子などを焼成する「セブンカフェ ベーカリー」の焼成機を約1万2500台導入する予定だ。できたてパンの展開を拡大し、専門店のような香りや食感を訴求する。


 ローソンは2025年に5年ぶりにプライベートブランドを刷新し、「3つ星ローソン」に統一。「圧倒的なおいしさ」と「コスパ・タイパ」を重視した商品開発を進め、「ローソンでしか買えない」独自性を強化している。


 こうした競争環境の中、ファミマは「定番がおいしいチェーン」を目指す戦略を展開していく方針だ。定番商品に付加価値を持たせた独自商品を開発し、他社との差別化を進める。「定番の食べ物をアップデートして、昔のままではなく、さらにおいしいものにしたい」(鈴木氏)


 「白生パン」シリーズも引き続きバリエーションを増やしていく。ただし、パン売り場全体を「白生化」するわけではない。白い生地を好む層と、従来の焼き色が付いたパンを好む層の双方に対応できるよう、商品構成のバランスに配慮する。


 一方で、原材料高騰などの影響で、パンの商品価格が上がっていることを課題と捉えている。そこで、低価格・中価格・高価格と幅広い価格帯の商品を提供し、価格重視の消費者にも対応できる品ぞろえを目指す。


 コンビニ各社がしのぎを削るパン市場において、ファミマは視覚的なインパクトと新たな食感を武器に、日常のパン選びに新たな価値を提供した。今後も「定番がおいしいコンビニ」を掲げ、白生パンに続くヒット商品の創出に挑み続ける構えだ。


(カワブチカズキ)



このニュースに関するつぶやき

  • パンが茶色いのはメイラーゼ反応もあるが、焼き色付けるために溶き卵塗って焼くのもあるからなんだぜ
    • イイネ!7
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