皆さんは“デジタル終活”という言葉をご存じでしょうか。
PCやスマートフォンといったデジタル機器が普及する中、個人が扱うデータやインターネットで契約したサービスはますます増大しています。このような状況で、故人のものでパスワードが分からずにアクセスできなくなるデータやサービスアカウントといった「デジタル遺品」が問題になっています。
つまりデジタル終活とは、このデジタル遺品を残さないように生前の遺品整理をデジタルでも実施しようという取り組みです。
以前、このコラムでもデジタル終活については取り上げており、筆者が取得したドメインのうち、会員登録の必要なサービスは全て「Gmail」などの第三者が運営する電子メールアドレスに移行し、これらが失効しても家族が困らないようにきちんと相続の仕組みを整えました。
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ただこのデジタル終活は個人だけでなく、組織にも関係する話なのです。
●Apple AccountやGoogleアカウントの“デジタル終活”はどうやればいいのか?
消費者向けの情報を提供する国民生活センターは2024年11月、「デジタル終活」に関する啓発資料を公開しました。
もはやインターネットに触れる全ての人が、携帯電話契約をはじめとした何らかの個人的なサブスクリプションに登録しています。その人がもし、突然事故などで亡くなられたとき、その契約は宙に浮き、デジタル遺品となってしまいます。
サブスクリプションは、サービスによっては利用者本人ですら解約の作業が煩雑です。IDも知らない家族がその作業を実施するのは非常に大変であることは想像に難くありません。国民生活センターの資料では、その対策として以下の4項目を挙げています。
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1. スマホのパスワードを書いた紙を保管しておく(修正テープでマスキング)
2. 契約中のサービスのIDやパスワードを整理しておく
3. エンディングノートを活用する
4. 自分が亡くなった後、スマホのアカウントにアクセスできる人を指名しておく
これらの対策は、ある意味セキュリティの文脈を度外視していますが、国民生活センターなりに、デジタル終活が必要な世代を考えた現実的な解だと思います。ただ、この対策について、ある海外のメディアは「遺言書にユーザー名とパスワードを記載してください、と日本政府はアドバイスしている」というタイトルの記事で取り上げていました。
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セキュリティの文脈を度外視せざるを得ないのは、実際にこういった状況に遭った人の話を聞くと理解できます。自分が不慮の事故でこの世からいなくなった場合、家族は自分の家のルーターの設定すら分かりませんし、自宅にNASが設定してあってもパスワードも不明ということにもなるでしょう。ルーターやNASなどの知識を家族に強いることもなかなか難しいでしょう。そうなると、上記のような「紙に残す」という手法も仕方がないのかもしれません。
今すぐできそうなことは、上記の4で挙げられている「スマホのアカウントにアクセスできる人を指名しておく」でしょう。「iOS 15.2」以降のApple Accountでは「故人アカウント管理連絡先」を指定できます。この他、Googleアカウントは故人のアカウントに関するリクエストを送れます。Apple AccountやGoogleアカウントのデジタル終活については、こちらの記事もぜひ参考にしてください。
筆者の場合、これらに加えてパスワード管理ソフト「1Password」の家族向けライセンスを購入しており、家族間で共有できる保管庫に「何かあったら見ること」というタイトルのメモを残しています。これであれば、パスワード管理ソフトが保護するレベルで情報を保管でき、家族それぞれが持つ保管庫への認証で情報を引き出すことができるはずです。後はこれを忘れないようにしてもらい、各種デジタル資産へのアクセスや保険、年金、万が一のときに知らせてほしい人への連絡先など、デジタルなエンディングノートを作ることが可能になるでしょう。
●組織人の終活として、業務向けエンディングノートを作っておこう
このようなことをつらつらとSNSにメモしていたところ、「家庭内だけでなく、企業で担当者や偉い人がいきなりいなくなることに備え、アカウントの引き継ぎ準備が必要ですよね」とコメントをいただきました。これもまさにデジタル終活。個人としてだけではなく、組織の一員も不慮の事故で急にいなくなる可能性があります。
多くの場合、組織内で認証情報を管理しているため、端末や管理者権限のIDなどは何とかなるとは思います。しかし業務範囲が拡大する中、当人しか知らない認証情報というのはどうしても出てきてしまうのではないでしょうか。そういったものがあるのであれば、万が一を想定してそれをどう共有しておくかというのは、事前に気にしておく必要がある課題ではないかと思います。
自分がいなくなっても良いように、常に引き継ぎ書類を作成する、デキるビジネスパーソンになろう、というのはまず不可能かと思います。そうなると、少なくともデジタル資産へのアクセスに関しては、システム管理者が全てをコントロールできる基盤を用意することが目指すべきゴールになるでしょう。ほとんどの場合、そこまでの基盤はないと思いますので、その部分は運用でカバーするという対応にならざるを得ません。そうなると国民生活センターの提案に近い、業務向けエンディングノートを作る必要が出てくるかもしれません。
筆者の周りでも、仕事での近しい人や知人、子供の同級生が突然の事故や病気でこの世を去るというのを見ています。『死は生の対極としてではなく、その一部として存在している』という言葉をかみ締める年でした。デジタルが生活の一部になりつつある今、デジタル終活対策にも目を向けなくてはなりません。皆さんはどう思いますでしょうか。
筆者紹介:宮田健(フリーライター)
@IT記者を経て、現在はセキュリティに関するフリーライターとして活動する。エンタープライズ分野におけるセキュリティを追いかけつつ、普通の人にも興味を持ってもらえるためにはどうしたらいいか、日々模索を続けている。
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