NEC社長に聞く「生成AIとセキュリティの関係」 真のAIエージェントとは?

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2025年02月08日 18:21  ITmedia ビジネスオンライン

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インタビューに応じたNECの森田隆之社長(今野大一撮影)

 AI活用の追い風を受けて業績を伸ばしているNEC。2024年5月には、企業のDXを促進する価値創造モデル「BluStellar」(ブルーステラ)という新しいブランドを発表した。


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 同社の今後のカギを握るのが、生成AIの実装だ。【NEC社長に聞く「2024年はどんな1年だった?」 キーワードは「ブルーステラ」】に引き続き、森田隆之社長に生成AI競争でのNECの強みや、AIエージェントへの見解を聞いた。


●生成AI競争が激化 NECの強みは?


――世界中で生成AIの競争が激化しています。NECは日本語に特化した独自の生成AI「cotomi」(コトミ)を構築しました。社内外での実装は進んでいるのでしょうか?


 社内では(システム開発の)テスト工程や、サイバーセキュリティの領域ではトレ−ニングやインテリジェンス情報の解析、メールの内容を点検して警告を出す際などに使っています。コンタクトセンターやコールセンターなどでも利用しています。ただ、これを顧客に提案するとなると、いろんな面で武装していかなければなりません。倫理問題や著作権の問題もあります。


 社外を意識すると、独自の情報を外部と切断してどう使っていくかが課題になります。またGPU(画像処理半導体)のコストも、いまはプロモーション期間だから低いものの、実際に使うと増えるかもしれないので、そうした費用の問題などもあります。


 ただ、こうした問題を全て整備してからとなると、遅れてしまいます。ある部門を切り取って業務プロセスの一つを生成AIに置き換えることも考えられます。例えばコールセンター、ソフトウェア開発、マーケットリサーチなどの領域は、一定の業務フローにおいて閉じた形で生成AIを使えます。社内ではあるものの、社外で使っていくための業務にも利用していくようにしたいと考えています。


 現在はまだまだ実験的で、個人レベルな使い方が多いので、今後は組織的にオーソライズしたやり方で実行してみることが必要になります。米国でもそうした動きが出てきています。グループ会社では、コンタクトセンターで使うアプリケーションを受託するといった動きも出ています。こうした動きが2025年は本格化してくるのではないでしょうか。


――生成AIに質問したら答えてくれるだけでなく、実際に指示した内容まで実行してくれるAIエージェントがホットトピックです。どう捉えていますか。


 確実にそういうトレンドになると思いますが、いま日本で言われているAIエージェントは(ソフトウェアロボットが一定のルールに基づいて人間に代わってデスクワークなどを自動化する)RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に毛の生えたようなものをAIエージェントと呼んでいることがあります。


 本当のAIエージェントとは何か。例えばAという会社から提案書を作成してほしいとなった場合、顧客のヒアリング情報を参照し、社内の提案書のツールやコンポーネントを探し出して、外部の情報とつなぎ、マーケットリサーチをし、顧客の思考を勘案して最適な提案をする。同時にその会社と競合している会社を比較する。


 最初はドキュメントから始まり、グラフや絵が入るようになり、さらには設計情報なども入ってきて、それぞれがマルチモーダルになっていく。そうした流れになってくると思います。


――NECの生成AIの強みはどこになりますか。


 われわれは生成AIをゼロから作っています。AIのトレーニングから何をどのような形で外部とつなげるべきかまで分かっています。これからはNEC独自の生成AIであるcotomiを単独で使うのではなく、OpenAIやマイクロソフトの生成AIサービスなどを、それぞれの特徴を生かして使うハイブリッドになってきます。


 このため、ハイブリッドシステムをどのように構築していくのかについては、技術の進展も早い中で、そのロードマップをおさえた形で、将来的に「もう一回作り直し」という形にならないような提案やシステム構築をできることがNECの強みになると思います。


 もう一つは、われわれがずっと言っている「クライアントゼロ」です。製品としてまだ出ていないものも含め、さまざまな形で社内でAIを使っています。例えば、世の中のいろいろなシステムに対して、加工やチューンアップをしているので、そういったスピードやフレキシビリティも含め、NECには優位性があります。


●森田社長が考える「柱となる技術」とは?


――近未来を見据え、森田社長が考える柱となる技術とは何でしょうか。


 やはりAIとセキュリティです。AIはまだまだ黎明期だと思っています。研究所との議論でもよく出るのですが、今のAIは、まだ理論が確立していない状況なのです。NVIDIA(エヌビディア)も、もともとはゲームのチップの会社です。いわゆるプロセッシングを並列処理するためのGPUを手掛け、それが良いということで当たりました。


 ただチップ単位でみると、AIチップのベンチャーも現れてきていて、おのおのがAIに最適なアーキテクチャを考えています。今はまだ周辺のツールや環境で、エヌビディアが優れています。だからそこに市場は依存せざるを得ないのですが、時間がたつと、その構造が変わってくる可能性があります。


 生成AIの論文のほとんどは「こうやったらこんな優れた結果が出た」というものです。ただ「どうしてそうなったのか」についてはまだ議論ができていません。そこができると圧倒的な効率化や、消費電力などのエネルギー問題も大きく解決する策が出る可能性があります。


 もう一つ、大事なのがセキュリティです。あらゆるものがAIによって影響される中で、しっかり守られていかなければなりません。セキュリティといってもサイバーセキュリティだけではなく、フィジカルセキュリティもあります。人のセキュリティもあります。そういう意味での広いセキュリティで守っていくことは、経済安全保障にも関わってきます。


 そしてAIがなぜ重要なのか。いろんな生産活動において大きな革命と効率性を実現するからですが、それはデータ主権の問題や文化にも関わってきます。 生成AIサービスは、われわれが知っているローカルなことを聞こうとすると、極めてバイアスの掛かったアウトプットになるケースがあります。やはりその部分については、日本が自分たちのデータ主権や文化を守るために一定のコントロールが必要で、守るべきものは守らなければなりません。


 生成AIの技術を全て外から持ってきたものに依存してしまうと、自分たちの大きな運命の重要な部分を依存してしまうことになります。主権や文化を放棄することになります。もちろん全部が自分たちでできるわけではないため、何を自分の意志で守っていくのかを、自ら決められなければなりません。そして、決めたものをバイアスが掛かって実行させられないように、セキュリティを確保することが大事になります。


(中西享、アイティメディア今野大一)



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