2025年春闘の対応方針について説明する日立製作所の滝本晋氏=13日午後、東京都千代田区 2025年春闘で、相場のけん引役とされる自動車や電機など大手製造業の労働組合が経営側に要求書を提出した。長引く物価高を踏まえ、基本給を底上げするベースアップ(ベア)要求は月額1万円超えが目立つ。前年に続く大幅な賃上げ実現に期待がかかる一方、恩恵が若手に偏る「世代間格差」の是正も交渉の焦点になりそうだ。
◇相次ぐ高水準要求
「生活が良くなったと実感している人はまだまだ少なく、昨年以上の要求を掲げる必要がある」。パナソニックグループ労働組合連合会の福沢邦治会長は13日の記者会見でこう訴えた。
電機業界では、主要企業の労組がベアの要求額をそろえる「統一闘争」が慣例だ。パナソニックのほか、日立製作所やNECは物価上昇を超える賃上げを目指し、月1万7000円のベアを求める要求書を提出した。前年の1万3000円から大幅に上積みし、現行方式となった1998年以降で最高の要求額だ。
中国市場で苦戦する自動車業界でも、トヨタ自動車やホンダなどの労組を中心に高水準の要求が相次いだ。鉄鋼や造船・重機大手の労組も月1万5000円のベアを要求した。
これに対し、経営側からは「平均以上の賃上げをできるように考えていきたい」(自動車大手幹部)と前向きな声が聞かれる。人手不足の中、優れた人材を確保して競争を勝ち抜くには賃金水準の底上げが不可欠とみており、日立の国内人材戦略を統括する滝本晋氏は「従業員のモチベーション向上を意識したい」と強調した。
◇若手に配分偏り
近年の春闘では大企業と中小企業の間の賃金格差是正が一大テーマだが、労組側は同じ企業の社員間の賃金配分格差という問題にも目を向け始めている。若手にはベアの配分が手厚く、中堅以上は手薄という企業が増え、中高年社員の間で怨嗟(えんさ)の声が高まっているためだ。
経団連の調査では、ベアの具体的な配分方法(複数回答可)について「若年層(30歳程度まで)へ重点配分」と答えた企業は34.6%だったのに対し、「ベテラン層(45歳程度以上)」と回答したのはわずか1.1%。ある大手製造業幹部は「若手の人材獲得競争が激しい。初任給を上げると若年層の給料の調整が必要になり、結果的に配分が厚くなってしまう」と語る。
労組側もこの現状を問題視。自動車や電機など五つの産業別労組で構成する金属労協は、中堅以上への配分が少ない場合、「公正な配分が行われるよう労使で協議する」と春闘方針に明記した。
日本総合研究所の藤本一輝研究員は「ボリュームの大きい中高年層の賃金が伸び悩めば消費全体が低迷するリスクがある」と指摘する。3月12日の集中回答日に向け、企業間だけでなく世代間の格差解消へどこまで踏み込んだ議論ができるか、注目が集まる。