カナダのブリティッシュコロンビア大学などに所属する研究者らが発表した論文「A double-edged hashtag: Evaluation of #ADHD-related TikTok content and its associations with perceptions of ADHD」は、TikTok上のADHD(注意欠如・多動症)に関する動画の信ぴょう性を調査した研究報告である。
TikTok上には「ADHDのせいでこうなってしまう」「ADHDの人はこのように行動する」などといったADHDの症状について解説する動画が掲載されている。このような動画が、ADHDに対する認識にどんな影響を与えるか理解するため、2023年1月のTikTokで「#ADHD」のハッシュタグがついた最も視聴された100の動画を調査。これらの動画は合計で約4億9600万回の視聴と平均98万4000件の「いいね」を獲得していた。
これらの動画の内容が、精神疾患の診断マニュアル「DSM-5」に掲載があるADHDの症状を正確に反映しているのか、心理学者2人に尋ねた。結果、動画の48.7%がADHD症状を正確に反映していると判断した(なお、少なくとも1人の評価者が「はい」と回答した場合、その主張は正確と見なしている)。
一方、51.3%は、2人の心理学者のどちらも「いいえ」と回答し、DSM-5に記載されているADHD症状を反映していないと判断した。
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これらの動画のうち68.5%は、“正常な人間”の癖や問題とされる事柄をADHDに起因させている間違った内容を反映しているとした。42.0%は複数の障害に見られる横断的な症状、18.2%は別の障害(うつ病、不安障害、摂食障害など)を示す内容、5.6%はADHDと高く関連するものの中核症状ではない現象(実行機能や作業記憶の問題など)と分類した。なお、これらの分類は評価者間の判断の違いにより合計が100%を超えている。
その後、大学生843人(ADHDと正式な診断を受けた学生は198人、自己診断は421人、どちらもなしが224人)に心理学者が評価した動画の上位5つと下位5つを見せ、ADHDに関する心理教育として他人に推薦するかを評価してもらった。
結果、上位5つの動画に対して、心理学者は平均3.6点を付けたのに対し、学生たちは平均2.8点を付けた。下位5つの動画に対して、心理学者は1.1点を付けたのに対し、学生たちは平均2.3点を付けた。これは、学生は心理学者と比較して、上位評価の動画をより低く評価し、下位評価の動画をより高く評価する傾向を示唆する。
また、参加者にTikTokでADHD関連コンテンツを視聴する頻度とADHDに対する認識について質問をした。結果、ADHD動画を視聴する頻度が高いほど、心理学者が高評価した動画も低評価した動画も同様に推奨する傾向が見られた。加えて、一般人口におけるADHDの有病率を実際より高く見積もり、ADHDを持つ人々が直面する課題をより深刻に推定する傾向があることが判明した。
ADHDと正式な診断を受けた参加者は、自分のADHD状態への確信度が高く、研究期間中も変化しなかった。一方、ADHD非該当群と自己診断群の確信度は変動した。研究開始時は非該当群が自分にADHDがないという確信が強かったが、ADHD動画視聴後、自己診断群の確信度が上昇し、非該当群の確信度が低下したため両者に差がなくなった。
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これはADHD動画を視聴することで、ADHDでない一部の人々が「自分にはADHDがある」という思い込みを助長させる可能性を示唆している。
Source and Image Credits: Karasavva V, Miller C, Grelated TikTok content and its associations with perceptions of ADHD. PLoS ONE 20(3): e0319335. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0319335
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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d払いで障害発生 ユーザー困惑(写真:ITmedia NEWS)56
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