DeNA南場会長×小池都知事が対談 トランプ情勢やAI踏まえ、どうなる日本のスタートアップ

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2025年05月15日 11:11  ITmedia NEWS

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 二転三転するトランプ米大統領の関税措置や、日進月歩で成長するAI技術。日本のスタートアップにとってはチャンスもピンチもある状況といえるが、日本のスタートアップエコシステムはどのように対応すべきだろうか。


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 東京都や経団連からなる実行委員会が5月8〜10日にかけて開催したスタートアップイベント「SusHi Tech Tokyo 2025」では、DeNA会長で経団連副会長の南場智子氏と小池百合子東京都知事が対談。日本のスタートアップエコシステムをどう強化すべきか議論を交わした。


●米国のピンチは日本のチャンス?


 南場氏は対談のあった週にシリコンバレーから帰国したばかり。現地では、AI関連スタートアップが盛り上がる一方、トランプ新政権による予測不可能性の高まりからベンチャーキャピタルへの資金流入が減少している感覚があったという。


 さらに「フィジカルAI」と呼ばれるハードウェア関連では、中国からの部品調達が難しくなっている他、ディープテックに対する助成金なども不安定化しているとした。一方、そのような現状は日本にとってチャンスだと南場氏。日本から予測可能性のある安定したスタートアップ支援を提供することで、グローバルの中で相対的に地位を上げるチャンスだと強調した。


 南場氏の意見に対し、小池都知事も国際的な不安感を踏まえ「(都で)スタートアップ支援のエコシステムを本気で整えたい」と述べた。2022年11月に発表したスタートアップ戦略「Global Innovation with STARTUPS」の中で定めた「5年間で東京発ユニコーン数を10倍、起業数を10倍、官民協働実践数を10倍にする」計画の進捗について「官民協働実践数は当初目標100件を大きく上回り、24年だけで249件」と報告し、スタートアップ支援の成果が表れているとした。


 同様の施策は経団連も行っている。南場氏がスタートアップ委員会の委員長として22年3月に「スタートアップ躍進ビジョン〜10X10Xを目指して〜」と題する提言を発表し「(5年で、スタートアップの)数も10倍、成功の高さも10倍」という同様の目標を掲げている。


 ただし現状については「経団連としては珍しく毎年レビューを発表しているが、スタートアップの数が1.6倍、成功の高さが1.3倍。折り返しとしてはやばいよね、という状況」と南場氏。レベルの高い研究や、マーケタビリティの高い研究が見られるものの、投資が偏っており、長期的に資金が必要なディープテックが事業化しにくい課題があるという。


 「シード、アーリー、シリーズAくらいまでのお金は潤沢だが、エンジェルとレイターステージに資金がない。ディープテックは長くお金がかかる」(南場氏)。


 そんな最中に現在の情勢が訪れたため「まさに突風。これまで全て米国に吸い込まれていたのが、お金も、VCも、人材も日本に目が向いている。これをどう生かすか。本当にここ2〜3カ月の話。経団連も矢継ぎ早に提言をしていきたい」とスタートアップ支援に意欲を見せた。


 対する小池都知事は、初めから世界を目指す「ボーン・グローバル」の姿勢が求められると説く。人口減少が進む日本においても国際競争力を高められると指摘する。世界の国際競争力ランキングでは、フィンランドやシンガポールなど人口500万人程度の国々が上位を占めていることを例に挙げ、国の規模よりも戦略とグローバル志向が重要になると述べた。


 特に注力しているのが女性起業家の支援という。「女性の起業家をもっともっと世界で活躍してもらえるように」と小池都知事。東京都では「APT Women」と呼ばれるプログラムを通じて、「世界を相手にできるような方々、ニューヨークに行ってもらったり、シンガポールに行ってもらったり」と国際経験を積む機会を提供しているとアピール。「実際の世界の風に当たってもらう」ことで、世界で戦える起業家を育てたいという。


 行政手続きの改革についても触れた。海外投資家が東京でビジネスを始める際に直面する障壁として、かつては銀行口座開設に半年もかかるといった問題があるといい、こうした課題を解消するため、手続きの簡素化に力を入れているとした。


●対談中、こぼれ話も 「怖いメスオオカミ……」


 対談では、2人がそれぞれの境遇やDeNAの製品など、スタートアップとは別の話題でトークをすることもあった。例えば小池都知事が「経団連と南場さんが結び付かない」と話し、南場氏は「自分でも一人異物がいる感覚。サラブレッドの中に一人だけオオカミがいるような……」と返答。さらに小池都知事が「怖いメスオオカミ……」とこぼし、会場の笑いを誘う一幕もあった。


 南場氏が自社のヒット作「ポケポケ」(Pokemon Trading Card Game Pocket)に触れる場面もあった。「今大ヒットしていて、グローバルで億単位のユーザーさんが使ってもらっているが、(過去には)世界進出で結構失敗している」と述懐。99年に設立したDeNAと、同時期に創業した企業と比較しながら「そのころにMetaとかGoogleとか立ち上がって、桁違いの成功のレベルの差」と語り「自分が成し遂げなかったことを次の世代にやってほしい」と起業家にエールを送った。


 南場氏はDeNAの創業、東証上場、横浜DeNAベイスターズのオーナーと多角的に活動してきた経験から、日本人のキャリア観にも一石を投じる。「自分はこの会社25年いてと、あるいは30年いてって言ってると、あの日本では当たり前なのに、海外の人から『え?』ってびっくりされる」と指摘。「もっと動いていいんだよっていう。本当はもっともっと自由に動いていい」と、自らの経験に基づく言葉で流動性の重要性を訴えた。


 小池都知事も、リスクを取りながらチャレンジする気持ちの大切さを訴え「ダメな理由を探さずにできることやってみてほしい」と参加者に呼びかけた。



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