初の70万人割れ……。
厚生労働省は6月4日に、昨年1年間に生まれた子どもの数が68万6061人と公表。一昨年より約4万1000人減少し、出生率も1.15と過去最低を更新した。
国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した「将来推計人口」では、出生数が68万人台になるのは2039年と予測しており、少子化が想定より15年近くも早く進行していることが明らかに。
第一生命経済研究所の主席エコノミスト星野卓也氏が解説する。
「将来推計人口は出生数を3つのシナリオで想定し、政府が通常使うのは基本シナリオ『出生中位』(2024年の想定は出生率1.27、出生数75万5000人)。
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しかし2024年の実績は、出生数が低い悲観的シナリオである『出生低位』(2024年、出生率1.12、出生数66万8000人)に近づいています。
将来推計人口は、国や地方自治体の政策判断の基準として用いられています。
あまり悲観的だと景気に悪影響が出るともいわれますが、少子化が想定よりも約15年も早まっていることから『出生中位』のシナリオと実態との乖離が広がっています」
政府の“激甘予測”より悲観的なシナリオで推計するほうが、経済成長や社会保障などの未来図がリアルに描けるようだ。
■公的年金の財政状況は「出生中位」を基準に
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たとえば年金。
将来推計人口は、公的年金の財政状況をチェックし、将来の給付水準の見通しを示す「財政検証」とも関わっている。
ニッセイ基礎研究所の主席研究員の中嶋邦夫氏が語る。
「財政検証では、経済の成長の見通しだけでなく、出生率が低ければ保険料を納める人数も少なくなることから、将来推計人口が使われています。
2024年夏に公表された財政検証では、現役世代の平均収入を100%として、夫婦2人のモデル世帯が受け取る年金額の割合である『所得代替率』が、法律で約束されている50%を維持する結果が出ていますが、これは出生中位が前提。
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今回の出生率を見ると、将来受け取れる年金額については、出生低位のシナリオでも考えておく必要があります」
財政検証でも出生低位のシナリオ(経済成長は実質0%が続いた場合)が示されており、2065年度には所得代替率が46.8%に。
基礎年金の水準は、現在より約4割目減りする見込みになっている。
中嶋さんがこう続ける。
「物価や賃金よりも受給額の伸びを抑えるマクロ経済スライドが終了する2065年度のモデル年金額は、出生中位が前提では月額21万9000円ですが、出生低位のシナリオでは20万4000円に。月に1万5000円の差になります。
今、国会で審議された『基礎年金の底上げ策』が導入されると、出生低位においても、年金を目減りさせるマクロ経済スライドの終了時期が、2065年から2040年に25年も早まり、2065年度のモデル年金額は23万3000円に改善する見込みです。
悲観的なシナリオでも将来の年金水準を確保できる制度に変更するべきです」
さらに出生数の減少に歯止めをかける有効な手段を講じることが求められている。
「出生数の減少の最大の要因は未婚化です。各自治体でもさまざまな婚活イベントを地道に開催していますが、とくに地方では、女性の都会流出が大きな問題。
進学で東京に出た後、地元に帰っても働く場所がなかったり、女性の仕事はお茶くみといったような企業風土や文化が残っていれば、出生数の向上は難しいでしょう。
地方でも女性が活躍できるような取り組みを自治体や地元企業が行うべきです」(中嶋氏)
このままでは将来の総人口も激減する。
出生低位のシナリオでは2052年には1億人を割り(9926万人)、2070年には総人口が8024万人に。
経済活動や社会保障を支える生産年齢人口(15〜64歳)は3473万人と直近の状況から半減する見通しだ。
現在よりも3割以上も人口が減った高齢化社会が行きつく未来とは?
「深刻な人手不足により、医療、教育、インフラ整備といった公共サービスの維持が困難に。
医療機関の閉鎖や学校の統廃合などが進むでしょう。
とくに地方では、老朽化した道路や水道などのインフラの維持管理が難しくなることが予想され、災害時の対応が遅れ、住民の安全確保にも支障が生じる可能性も。
物流にも影響が出て、商品が店頭に並ばない、ネット通販で注文した商品が届かないなどが起こります。
また現状でも農業従事者の高齢化が問題ですが、さらなる人手不足や物流が停滞することで、将来的にはコメや野菜などの農作物が高くなって買えなくなる可能性もあります」(前出、星野氏)
現在5kg4000円超えが当たり前のコメだが、将来的には5kg1万円超えも非現実的ではない。
■平均寿命が長い女性の単身高齢者世帯が増加
人口減少社会では、高齢化により社会保障サービスや家族のカタチも変わるという。
「高齢者人口が増大することで介護業の需要がひっ迫。2020年を基準とした介護職員の不足数は2050年には122万人に上ると推計されています。
複雑な仕事をこなす介護職においては“集約・効率化”はサービスの質の低下につながってしまいます。
また一人暮らしの高齢者、とりわけ平均寿命が長い女性の単身高齢者世帯が増加することが予想されます。
2050年には、女性の一人暮らし世帯と夫婦のみ世帯の数が同程度と推計。
年金収入のみで生活する一人暮らしの高齢者は貧困のリスクにさらされやすく、医療費や介護費用の負担が増加し、生活が厳しくなるでしょう。
また一人暮らしによる孤独感や孤立感によって、心身の健康を害するだけでなく、住民同士の交流が希薄になることで、高齢者の見守り機能が低下、孤独死などが増えることも否定できません」(星野氏)
年金制度改革法が成立したが、政府は出生率が低いことを基準とした最悪の未来図で政策を見直す必要があるだろう。
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