写真―[インタビュー連載『エッジな人々』]―
’23年発売の美容本は、60万部を超える大ヒットを記録。近年ではドラマやバラエティ番組でも活躍するMEGUMIの経歴は一見、華々しさにあふれている。しかし、27歳で出産した後は、このままでは「(世間に)忘れ去られる」と、恐怖していた時期も長かったという。一体、彼女はいかにしてそこから這い上がったのか? 自らも「専業主夫」として働く妻を支える作家・樋口毅宏氏が聞いた。
◆日本とスペインの2拠点生活を始めたワケ
──現在は、日本とスペイン・バルセロナの2拠点生活だとか。なぜまた、異国であるスペインに住まいを持とうと思われたのですか?
MEGUMI 1年前、スペインを初めて訪れたときに人生観が変わったんです。当時は心身共に疲れ切っていて、親友にもピラティスの先生にも「バルセロナに行ったら絶対に元気になれるよ。行ったほうがいい!」と勧められたんですね。それを聞いて、「もうこれは行くしかない!」と(笑)。実際に行ってみると、もう、ただオレンジジュースを飲んでいるだけでも幸せだった。「何もしないでも幸せな場所ってあるんだ」と、目からウロコが落ちる感じでした。
──日本にいると、なかなか持てない感覚ですよね。
MEGUMI 東京では夜中まで会食をして、次の日は朝から撮影……とハイペースな毎日でした。スペインでも毎日Zoom会議は2〜3本やっていますが、それでも仕事量は全然違う。ゆっくりゴハンを作る時間もあるし、そういう“生活”が一番大事だったりするんですよね。
──わかります。多忙を極めるうちの妻も、「今日は私が作るね」とキッチンに向かうことがあるんです。そんなときは「あ、今はちょっと小さいリセットをしたいんだな」と感じますね。
MEGUMI そうそう、まさにそういう感じです。
◆キャリアアップは「魔界転生レベル」
──グラビアアイドルとして世に出て、現在は「シン美容の女王」およびプロデューサー。さらに実業家まで。もはやMEGUMIさんのキャリアアップは、「魔界転生レベル」です。
MEGUMI 魔界転生 (笑)。
──もともとはストリート系で、R&Bやブラックミュージックの歌手になるために岡山から上京されたんですよね。
MEGUMI そうです。グラビアデビューしたのが’01年で、そこから数えると約25年。自分でもここまで来るのにいろんなプロセスを踏んだなと思うし、時間をかけて夢を叶えていったことで、学びも多かったなと思いますね。
──具体的には?
MEGUMI 「こうなりたい」という意思をハッキリ持つこと。そして、それをちゃんと言葉にすること。やりたいことって口に出さないと伝わらないし、そうすると「あ、そういうことなら、手伝えるよ!」と声をかけてもらったことは一度や二度ではありません。そして「面倒くさいことを逃げずにやる」のも超大事。……とまぁ偉そうに言ってるけど、私も常にパーフェクトにできているわけじゃないですが(笑)。
◆「世間に忘れ去られてしまうんじゃ」出産時の恐怖
──MEGUMIさんは27歳のときに息子さんをご出産されています。自分の妻を見ていても思いますが、今の日本では女性は出産をすると、キャリアが一時中断してしまうことも多いのが現状です。当時、どんな心境だったのでしょう。
MEGUMI 今振り返ると、とにかく焦りが大きかったです。子を産めば体形も変わるし、物理的にも同じようなペースで仕事を受けていくことは不可能な状況になる。「自分はこのまま、世間に忘れ去られていってしまうんじゃないか?」という恐怖もあった。いわゆる「ママタレ」方向に舵を切りたいわけじゃないし、それなりに病みましたね。時間がたって今は、あれは次のステージに移行するために必要な準備期間だったと前向きに捉えられるようにはなっています。
──方向転換して、俳優としても存在感を増していったということなんですね。MEGUMIさん主演のドラマ『それでも俺は、妻としたい』を拝見しましたが、もうリアルすぎて……。風間俊介さん演じる売れない脚本家が、妻にことごとく拒まれて、それでもめげずにアプローチする。あれはドラマじゃなくてドキュメンタリーですよ!
MEGUMI 皆さん、リアルだとおっしゃいますね(笑)。
──でしょう!? さすがに妻とは一緒に見られないですよ。
MEGUMI 私が演じる主人公チカは、口が悪い役柄なので受け取られ方に不安もありましたが、視聴者の方には「リアル」と楽しんでいただけて良かったです。
──実際、素のMEGUMIさんはどうなんでしょう?
MEGUMI 一切怒らないですね(即答)。何も言わない。軽い愚痴をこぼすことはありますが、翌日には忘れています。たとえ家族間であっても、口論して何かが生まれるわけではないと思っていて。どうしても言わなきゃならないときは、落ち着いた頃合いを見計らって伝える……くらいかな。
──男性に対して、ある種の嫌悪感を抱く女性を演じるのがすごく上手です。そこは現実ではどうですか?
MEGUMI 新しいことを始めようとするとき「何でそんなことをやるの?」と聞いてくるのは男性が多い。葛藤を感じることはあります。でも、その人の背景もさまざまだろうなとは思うから、その場で相手に強く言うことはないです。
◆売れたり評価されたりすることはすごく大事
──近年では、プロデューサーとしてもご活躍されていますね。ドラマ『完全に詰んだイチ子はもうカリスマになるしかないの』や、『くすぶり女とすん止め女』を面白く拝見しました。
MEGUMI そう言ってもらえたらうれしいです。ドラマや映画の作品はいつも「すべての女性にエールを」という気持ちで取り組んでいるんです。以前、ニュース番組に出演した際、「日本人女性の自己肯定感は世界でワーストクラス」というトピックを扱ったことがありました。衝撃的でしたが、同時に「これは理解できるな」とも思いました。さっき挙げた2つの作品も最初から「女性主人公が逆境をユーモラスにサバイブしていく!」という大筋は決めていたんです。そこから、番組制作陣からいただいた「今はこんなのが流行っていますよ」というアドバイスを取り入れた作品です。
──『それでも俺は、妻としたい』は、第1話の見逃し配信再生回数が100万回を超えました。時代のニーズを捉えつつも、同時に見られる作品を作る。この2軸がうまく両立しているように思いました。
MEGUMI もともと声高に「私ってこういう人間なんです!」と主張するよりも「きちんと評価されて売れたい!」という思いが、昔から強い。バラエティ出身のせいか、俯瞰して全体を見渡して「今、自分には何が求められているか」を考えるのも好きですし。プロデュース業を始めてからは、その点をより意識しています。それが、作品を通じて伝わっているのであれば、うれしいですね。
◆「取捨選択は“秒”でできる自信があります」
──そんなMEGUMIさんが近年手がけていらっしゃるのが、日本映画と文化を世界に発信することを目的としたカンヌ国際映画祭でのパーティ「JAPAN NIGHT」です。国内外の俳優のスピーチや日本の映画監督によるプレゼンテーション、さらに食やプロジェクションマッピングまで日本映画や文化を国際的に広く発信する場なのだとか。
MEGUMI 私自身、プロデューサーとして映画を目下準備中なのですが、根底には日本映画や文化を世界により広めたいという強い思いがあります。昨年は、当初300人規模の想定だったのが、1000人近い映画関係者の方々にご来場いただいて、とにかく感無量でした。会場はポジティブなエネルギーにあふれていて、あのイベントから国をまたいだ共同プロジェクトが始まる話も耳にして驚いています。この先、こういった場を積み重ねていったら、日本映画はもっと世界に大きく羽ばたいていけるという確かな手応えを感じました。
──今年も開催されるんですよね。
MEGUMI 今年はイタリアからもお声がけがあって、3都市で開催予定です。大きな使命感を持ち何かに携わるのは、生まれて初めての感覚。「マジで気合入れてやるしかない!」みたいな(笑)。
──複雑なコミュニケーションが国境を越えて行われている。しかもそれをほぼリアルタイムでこなすって、僕には想像がつかない。お仕事を選ぶ際、何かご自分のなかで”基準”があったりするんでしょうか?
MEGUMI 過去の経験やリサーチに基づき、最初に違和感を覚えたらダメ。見て見ぬふりをして「いや、こっちのほうがいいはず……」と進めると後々トラブルになる。過去の経験から、取捨選択は“秒”でできる自信があります。
◆息子は海外留学中「私も徐々に子離れをしています」
──完全に別件で個人的な相談があって。うちの子、小学生なんですけど、ついつい僕が過干渉になりがちで。今日も雨だけど歩いて塾に行くようにって言い残して出てきたけど、この時間だとまだ家にいるな、なんて気になってます。
MEGUMI その気持ち、すごくわかります。私も自分の子を育てるときにはレールを敷いていました。スマホも「一日〇時間まで!」と厳しく決めていた時期もあったりして。それでも、子どもは親の目を盗んでゲームをするわけで(苦笑)。でもあるとき「何でダメって言ってるんだっけ?」と思ったんです。ゲームのやりすぎは目に悪いけど、eスポーツで才能を開花させる子もいる時代。世の中が猛烈に変わっているなか、私たちがイメージしていた親や子育てのままじゃいけないとも思ったんですよね。
──それもプロデューサーの俯瞰力ですね。
MEGUMI いや、最初からではなくてやっと持てるようになった感じです(笑)。息子は今、海外留学していて、私も徐々に子離れをしています。
──最後に、なりたい自分になるために遠回りしたと思いますか? 今は幸せですか?
MEGUMI うーん、即答はしづらいですね。強いて言うならば、日々、「筋トレ中」という感じかな。映画を撮っていると日々、いろいろな問題が起こるのは事実です。それに対して一喜一憂しながらも、「楽しい」という感覚も間違いなくある。ここを乗り越えてもう少したったら、しみじみと「幸せだな〜」とひと息つけるのかもしれないと思っています。
【MEGUMI】
1981年、岡山県生まれ。タレント・俳優・実業家。’01年にデビュー。近年はカフェ経営、プロデューサー業など多方面で活動中。4月にYouTubeチャンネル「MEGUMIこんな感じでやってます。」を開設
衣装/AFFECT GIA STUDIO 撮影協力/バックグラウンズファクトリー ヘアメイク/エノモトマサノリ スタイリング/斉藤くみ 撮影/唐木貴央 構成/アケミン
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