年間約20億円を売り上げる「雪塩さんど」を中心に、菓子事業が急成長している宮古島の雪塩(沖縄県宮古島市)。西里長治社長へのインタビュー前編では、ブランド戦略と商品開発の舞台裏に迫った。
【写真3枚】雪塩さんど宮古空港店。真っ青な店内空間が印象的だ
雪塩の成功要因の1つは、インバウンド観光客の取り込みにあった。同社の西里長治社長によると、ゴーフレットの「雪塩ぱりん」は、売り上げの7割が海外観光客によるものだという。販促活動は一切しておらず、完全に口コミで広がっているのだとか。雪塩さんども、インバウンド需要が売り上げをけん引していることは間違いない。
コロナ禍前から、沖縄本島や宮古島ではインバウンド観光客の増加が顕著だった。もともと塩ビジネス中心だったが、そこから万国共通である菓子事業にシフトしていったのも、インバウンドの影響だ。
コロナ禍が終わり、観光客数が回復した後は、さらに需要が高まっている。実はゴーフレットは10年近く前から販売していた商品だが、味をほぼ変えずにパッケージのデザインを「雪塩ブルー」に統一したことで、4倍ほど売り上げが伸びた。現在、雪塩ブルーのシリーズ商品は「出せば出すだけ売れる」状況となっているのだ。
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商品別で見ると、雪塩さんどが約20億円で、「雪塩ふぃなん」(フィナンシェ)が約5億円。それ以外の商品もまとめ買いされており、ブランド統一の効果が出ている。今年は新たな商品を矢継ぎ早に発売していく計画だ。
一方で、生産が追いつかずに品切れが発生することもある。その際は、供給量を調整するため、あえて価格設定を変えて需要をコントロールすることもあるという。
2026年には宮古島に新工場が完成予定だ。「新工場が稼働すれば、今の3倍の量を作ることもできます」と西里社長は期待を寄せる。「次はノルマです。どんどん売らないといけなくなりますよ」と笑みを見せる。
●宮古島のマンゴーやメロンなども原材料に
宮古島に新設される工場は、ビジネスパートナーである寿製菓との合弁で運営する。その合弁会社で作った商品を、宮古島の雪塩が販売する形をとる。この工場は、西里社長の「島で売るものは、島で作りたい」という思いを実現したものだ。その意義について、次のように語る。
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「宮古島で生産されているマンゴーやメロン、黒糖や紅いもといった特産品の“出口”を設けることができます。原材料は現地で調達できるため輸送コストがかからず、さらにそれらで作った商品は海外市場まで見据えることができます。今回の工場は、私たちがこれから取り組もうとしている挑戦の“入口”となるのです」
同社はこの新工場の稼働にともない、組織体制も変更する。製造部門は合弁子会社に移管し、会社としては販売の機能に特化していく方針だという。
「一部の小規模な製造は続けますが、基本的には寿製菓との合弁会社の中に、私たちの製造部門が入ります。ノウハウは寿製菓の方が圧倒的に上なので、そこはお任せしようと思っています」
この合弁事業を通じて、宮古島の特産品を活用した商品開発と、より広いマーケットへのアクセスを両立させる戦略だ。
ただ、興味深いのは、雪塩さんどは人気商品であるにも関わらず、現状は沖縄県外には展開を控えていることだ。西里社長は「沖縄県内で販売したいので、あえて県外への展開は抑えています」と明言する。
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この方針は、かつて東京に塩の専門店を出店した経験から得た教訓に基づいている。
「東京に専門店を出して分かったのは、派手に見えるだけで、手間がかかる割には大した収益にならないということでした。むしろ、沖縄県内でナンバーワンの地位を確固たるものにしていった方が良いと思いました」
一方で、将来的な展開として、別の方向性も模索している。
「沖縄以外でこの商品を売るよりは、沖縄というマーケットの中で別ブランドを立ち上げた方が良い。今考えているのは、紅いものシリーズです。素材そのものを生かした商品作りに、もっと上流から関わっていきたいと考えています」
●社名変更で、求人への応募数が倍増
2024年、創業30周年の節目に社名をパラダイスプランから宮古島の雪塩に変更した。
「社名というのは、親しみやすく、分かりやすいのが一番良いと思います。皆さんから、『雪塩さん』や『雪塩の西里』と呼ばれていたので、それに合わせて変えるべきだと考えました。ただ、『株式会社雪塩』ではつまらないので、宮古島の雪塩にしました」
この社名変更は、採用においても効果があったという。「求人への応募数が倍になりました。特に県外からの応募が増えました」
一方で、企業としての理念や歴史を伝えていくことの重要性も感じている。
「昨年10月以降に入社した人は、パラダイスプランという旧社名すら知りませんし、そうした人はこれから増えていきます。創業の頃からの思い、そして会社の根幹をなす価値観は、しっかりと伝えていかなければならないと考えています」
この課題に対して、西里社長は積極的に社内教育を行っている。
「新入社員研修ではもちろん、全社員研修という形で、パート社員も含めて必ず月1回は1時間半の勉強会を行っています。忙しいので、嫌がる人もいますが(笑)。ただ、そうした教育をしっかりと行っていくことが、企業としての実力につながると思っています」
現在の従業員数は170人(うち正社員110人)で、その半数は県外出身者だという。社員寮も次々と建設しなければならないほど、成長している。
●あきられる前に、次の一手を
同社の好調ぶりは、着実に数字に表れている。2025年3月期の売上高51億7000万円に対し、営業利益は約17億円。利益率は34.5%と、初めて30%を超える見込みだという。「半分近くは雪塩さんどによる利益なので、積極的に還元していこうと思っています」と西里社長は強調する。
ただ、この成功に甘んじているわけではない。
「あきられるのが一番怖いので、何かしなければと考えていますが、まだ解は見つかっていません。雪塩ブルーシリーズの商品が一巡した時に何が起こるのか、今のうちに考えておく必要があります。どのように商品を展開していくべきなのか、ここからの2、3年が勝負ですし、土俵の真ん中にいる間に、次の一手を仕込んでおくべきだと感じます」
常に先を見据え、売れているうちに次の戦略を練る西里社長。雪塩さんどに続く新たなヒット商品とともに、宮古島の産業振興にも貢献し続ける姿勢が、今後も同社の成長を支えていくだろう。(インタビュー前編を読む)
●著者プロフィール
伏見学(ふしみ まなぶ)
フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。
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