
【写真】染谷将太のミステリアスな雰囲気が漂う撮り下ろし(全5枚)
■漆原院長を「演じる恐怖に襲われた」
あるデイケアクリニックに通うお年寄りの間で、院長の漆原糾(染谷)による“画期的な治療”が密かに広まり始める。「身も心も軽くなった」「活気が戻った」という好ましい副作用を耳にした編集者の矢倉俊太郎(北村有起哉)は、その治療法に共鳴。老齢期医療に革命を起こすべく、漆原に治療に関する手記の執筆を持ちかける。しかし“画期的な治療”に関する内部告発が、週刊誌に流出し、状況が一変していく――。
タイトルとなる“廃用身”とは、麻痺(まひ)などにより、回復見込みがない手脚のこと。染谷演じる漆原が考案するのは、介護負担の軽減を目的に、“老人の不要な手脚を切り落とす”という治療法だ。漆原の考えや、彼のたどる道のり、超高齢化社会に投げかける問いなど、全てが強烈。本作のオファーを振り返った染谷は、「主人公を演じる恐怖に襲われた」と覚悟を要する役柄だったと告白する。
「映画というのは、社会に影響を及ぼすものです。脚本を読んで、映画の倫理観を問われかねない作品だと思いました。そのことに対する恐怖や、ザワザワする気持ちがありました」と明かしつつ、それでも出演を決めた理由について、「原作もすばらしく、20年後、30年後に見返しても、とても意味のある作品になるのではないかと思えた」ときっぱり。
加えて吉田光希監督とは「高校生の頃に出会っている」そうで、「吉田監督の過去作も大好きで、いつかご一緒したいと思っていました。オファーをいただき、素直にとてもうれしかったです。最近はたいてい、台本がデータで送られてくるのですが、本作は製本された状態の準備稿が届いて。すごく熱量を感じましたし、吉田監督と一緒にこの作品に挑めるのであれば、安心してチャレンジできると思いました」と監督への信頼感が、染谷の背中を押した。
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■本作を見たあなたの感想は?
漆原が提唱する「Aケア」は、動かない手脚であれば切ってしまえば良いという治療法だ。その方が当人や家族、介護人にとっても、コスパの良い介護になるのでは…という驚くべき発想だった。しかし彼が「Aケア」について誠実に語る姿を目にしていると、見る者も「これは残酷なのか? むしろ理にかなっているのか?」と価値観を揺さぶられる。その危うさこそが恐ろしくもあり、本作の大きな醍醐味と言える。
観客にとって忘れ難いキャラクターを演じきった染谷は、「『これが誠実だ』と思って、突き進んでいる」と漆原について分析。「猟奇性やサイコパスじみているということではなく、本当に社会のために尽くしたいという気持ちを持っている」とキャラクターの思いを推しはかる。
だからこそ演じる上では、「善意を持って、『Aケア』という手法を社会に布教したい。そういった気持ちをブレずに、表現すれば良いと思っていました」と漆原の真っすぐな気持ちに注目したという。「本作における漆原のセリフは、大半が『Aケア』について語るものです。僕は現場にお芝居をしに行っているというよりは、もはや目の前にいる人たちに『Aケア』を布教しに行っているようでした。そこには説得力が必要で、隙があってはいけない。監督からは『これは良い治療法なんだと思わせてほしい』とお話があり、相手に有無を言わせないような姿勢を意識していました」と役作りを振り返る。
染谷が「監督の切り口がとても鋭い。漆原に関しても、良い人なのか、悪い人なのか、曖昧に見えるような切り取り方をしていて、そういった映画表現もステキです。カット割や撮り方も、キレキレなんですよ」とほれ込んでいるように、エンタメとして秀逸。さらに介護や医療という社会的テーマが浮き彫りとなる本作を通して、染谷は映画の力を実感することもあったという。
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■俳優・染谷将太が生まれた原点
7歳で芸能界入りした染谷は、9歳の時に『STACY』で映画初出演を果たした。『ヒミズ』では第68回ヴェネツィア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人俳優賞)を受賞するなど、世界的に評価される実力派俳優として圧倒的な存在感を放っている。全身から映画愛を感じられる俳優だが、映画の力を実感した原点は、“ジャッキー・チェン”だという。
「自分の人生の元をたどると、ジャッキー・チェンをきっかけに、映画が好きになって。その流れで、この仕事をずっと続けているんです」と目尻を下げ、「そういったことからも、“映画には、誰かの人生を変える力がある”と実感しています」とにっこり。「配信で映画を見られるようになって、映画館でかからないものが増えていったり、映画館が少なくなっていくからこそ、より映画の大切さ、面白みを再確認していける時代」だと愛情を傾ける。
油がのった、33歳。「精神的な部分で年齢を重ねている感覚がないので、『何歳ですか?』と聞かれても、すぐに答えられないんですよね。自分の年齢を忘れちゃうんです。気分的には、22歳くらいで止まっています」と笑いつつ、理想の老後について「良い景色を眺めながら、のほほんとしていたいですね。自分のペースで仕事をし続けられていたら、最高です」と希望。
染谷のこれまでの出演作を眺めてみてもその数に驚くばかりだが、役者業を邁進(まいしん)するうえで「どういった役をやりたい」という意志よりも、「どんな役が届くのか」が楽しみなのだとか。『空海 −KU‐KAI− 美しき王妃の謎』では、チェン・カイコー監督のもと偉大な僧侶・空海を演じた染谷。「現場で緊張しそうな時は、リラックスするために空海でやっていたお芝居を思い出したり、空海や仏教について勉強したことをヒントにしています」と想像の限界を踏み越えてくるような役柄から、新たな考えや刺激をもらうこともあると話す。
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映画『廃用身』は、5月15日より全国公開。

