みいこさん 胸元や左腕に彫られた刺青が目を引く女性がいる。みいこさん(@315HNNHRC)、32歳だ。その昔、摂食障害に苦しみながらも克服し、現在は「家族という宝物を手に入れた」と嬉しそうに話す。彼女の半生を振り返って気付かされる、家族の温かみとは――。
◆刺青を見た母親の反応は…
――インパクトのある刺青ですが、刺青歴は長いのでしょうか。
みいこ:ファーストタトゥーは、20歳〜21歳にかけて沖縄県で入れました。私は山口県の出身なのですが、摂食障害の治療なども兼ねて環境を変えるために沖縄県にいたんです。実家に帰って入浴しているとき、母にたまたま左腕の刺青を見られてしまい、「摂食障害を治すため行かせたはずなのに」と泣かれました。親不孝をしてしまったなと思って、右腕には彫らないようにしています。
――摂食障害はいつ頃から患っていたのでしょうか。
みいこ:14歳ですね。当時は体重が標準よりもやや多いかなくらいの体型でした。仲間内で「ダイエットしようよ」という軽いノリから始まって、痩せるのが楽しくて仕方なかったんです。でも、気がつけば太るのが怖くなっていました。最終的には、あまりに痩せすぎて、椅子に座っていると尾てい骨が痛くなるので耐えられなくなるほどだったんです。また、急激に痩せたせいか体力もなくなり、保健室登校をする始末でした。
◆父に反発し、ガラスを金属バットで…
――ご家族も心配したんじゃないでしょうか。
みいこ:そうだと思います。でも当時の私は、そんな両親の思いも受け止めることができず、グレてしまったんです。というのは、上2人の兄は私と違って学業も優秀で。特に、長兄は大学院を卒業するほどでした。父は司法書士、母は行政書士の資格を持っていて、父が経営する司法書士事務所兼自宅に私たちは住んでいました。もともと勉強にコンプレックスがあった私は、完全に腐っていました。14歳のとき、塾をさぼりがちだった私は、父から厳しく叱られました。力では勝てない私は、仕返しに事務所のガラスを金属バットで割るなどの反撃に出たんです。
◆母親が自身と同じ精神科に入院…
――まるで映画のようですね。
みいこ:父は私に真っ当になってほしくて叱ってくれたのに、浅はかな行動だったと思います。父とは気性が似ているぶん、衝突するとかなり激しくなる傾向にありました。だから父と折り合えないときは、公園のトイレで寝泊まりをするなどしていました。母はそんな私のぶんまで夕食を必ず作ってくれて、私は父のいないすきにそれを食べて、また外泊……というような日々を送っていました。
――お母様はみいこさんを支え続けたわけですね。
みいこ:でもそんな母を、問題児だった私は悲しませ続けました。結果的に母は病んでしまったんです。「みいこが入るとお風呂の水が汚れる」と言い出したり、私の部屋の前に盛り塩をしたり、結構スピリチュアルな方向へ傾倒していったと記憶しています。結局、私が摂食障害の治療のために通っていた精神科に、母も通うことになってしまったんです。
覚えているのは、未成年なのにタバコを吸う私を見た両親が何も言わなかったこと。「自分は諦められているんだ、期待されていないんだ」と落胆しました。家族はみんな優秀なのに、私だけが異物のようでした。
◆家族の名前を1文字ずつ刻んでいる
――現在、ご両親との関係性はどうなのでしょうか。
みいこ:はい、とても仲良しです。それは、16歳くらいのときのアルバイト先の店長から「両親を大切にしろ」と教えてもらっていたことが大きいかもしれません。お給料をもらって実家にいくらか納めることで、私は両親への感謝を示してきました。ただ、やはり自分がしてきたことのハチャメチャさを考えると、これから一生両親に感謝を伝え続けなければと思っています。私の胸元には、両親と2人の兄、そして私の名前から1文字ずつを取って刻んであるんです。これは、私が家族を思う深い気持ちを表したものです。
――みいこさんは現在、ご結婚をされてもうひとつの家族を作りました。家族について、どのようなことを感じますか。
みいこ:もとの家族と、現在の家族。この2つが私が生きている意味だと言ってもいいくらいです。夫は私の家族とも仲良くしてくれて、私にとって大切な存在をも大切にしてくれる人です。自分が親の立場になって、あの当時の両親の気持ちがよくわかるようになりました。傷つけてしまった過去は消えないけれど、感じている恩を最大限に返していくことはこれからの努力次第だと思っているので、頑張りたいと思います。
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人生において、遅れて感謝の念が湧くことは多い。未熟さゆえに愛すべき対象を傷つけることもあるだろう。現在は幸せそのものにみえる家族を巻き戻すとみえてくる、諍いの痕跡。そこから目を背けることなく、みいこさんは胸元に家族の名前を刻んで、これからを生きていく。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki