
AI活用による成果が、ボーナスや昇給に影響し始めている。転職サービス「doda」によると、AIスキルの水準に基づく行動目標や達成率を社員評価に組み込む企業が5割を超えた。スキルの有無ではなく、それを使って何を実現したかが報酬に反映される時代になりつつある。
だが、評価制度を変えれば組織全体のAI活用が進むかといえば、そう単純な話ではない。7割超の企業が、AIを使える社員と使えない社員の「二極化」を実感している。制度変更の背景と、それでも残る格差の構造を追った。
dodaは、AIツールを導入・活用している従業員501人以上の企業の人事・採用担当者515人を対象に調査を実施した(2026年2月)。結果は2部構成で公開し、第1弾では採用への影響、第2弾では育成・評価の実態をまとめている。
調査によると、AI活用に関する項目を評価に「含めている」企業は54.7%を占め、うち25.4%が2025年度から新たに導入した。また、AIスキルの水準を定義している企業は67.2%に上り、うち58.4%が組織や個人の評価に反映している。
|
|
|
|
目標達成時のインセンティブは「ボーナス・特別手当」(64.4%)、「昇給」(63.9%)、「昇格」(60.9%)と金銭的報酬が上位を占めた。
企業が評価制度にAI活用の成果を組み込み始めた背景にはいくつかの要因がある。76.7%の企業がAI活用度と業務パフォーマンスに「関係がある」と回答しており、成果への寄与が実感され始めている。加えて、AIを使える社員と使えない社員の二極化を課題に挙げる企業も多く、活用を全社的に定着させ、成果を出した社員に報いる仕組みが求められている。
doda編集長の桜井貴史氏も「単に『AIスキルがある・ない』で報酬を決めているのではなく、AIスキル水準を踏まえて、どのような行動や成果につながったかを評価し、インセンティブに反映している。企業としてAI活用を一過性ではなく日常業務に根付かせたいという意思の表れだ」と分析する。
●広がる「使える人」と「使えない人」の差
では、企業が課題に挙げる「二極化」の実態はどうか。dodaの調査では72.4%の企業が、AIを「活用できている人」と「活用できていない人」の二極化を実感していると回答した。
|
|
|
|
要因として最も多かったのは「各個人のスキル・能力の差」(65.7%)で、次いで「年代の差」(59.0%)、「各個人の学習意欲の差」(53.6%)と続いた。研修や学びの機会を提供している企業でも75.7%が二極化を認識しており、学ぶ場を用意するだけでは格差は縮まっていない。
さらに、全社横断でAIを推進している企業ほど、二極化を「とても感じる」と答える比率が高い。「対象が広がることで、個人のスキル差や学習意欲の差が『見える化』される。部署・職種・人数が増えるほど、共通レベルまで引き上げる難易度は高まる」と桜井氏は指摘する。制度を整備した結果、見えづらかった差が表面化している構造だ。
パーソル総合研究所が実施した調査(2025年)でも、AIを積極的に活用し社内に広める「ヘビーユーザー」の40%前後が指導・支援の負担増を感じており、その多くが正式な業務として評価されていない実態が報告されている。
研修の機会を増やしても、「広げる人」の負担が属人的な善意に依存したままでは、組織全体の底上げには至らない。評価制度の変化には、こうした推進者の貢献を「善意のボランティア」から「評価される役割」に転換しようとする意図もあるのだろう。
●賞金1000万円のコンテストと、若手が役員を教えるAI塾
|
|
|
|
二極化にどう向き合うかが課題となる中、成果を上げている企業もある。ソフトバンクグループは2023年5月から社内で「生成AI活用コンテスト」を開催している。社員が生成AIを活用した新規事業や業務改善のアイデアを提案し、優勝者には1000万円の賞金が授与される。これまでに計10回開催され、累計の提案件数は26万件を超えた。
コンテストから生まれたアイデアが事業化されるなど、提案が実行に移される道も用意されている。さらに、約2万人の社員が1人100個のAIエージェント(特定の業務を自動処理するAIプログラム)を作成するプロジェクトにも取り組み、作成総数は250万個に達した。
金銭的な報酬とキャリアの可能性を同時に示すことで、社員の主体性を引き出す設計といえる。
博報堂DYホールディングスは、二極化の主要因である「年代の差」に向き合った。2025年に導入した「AIメンタリング」制度では、AIに精通した若手社員が経営層と1対1のペアを組み、定期的にトレーニングを行う。
メンターに選ばれるのはエンジニアではなく、営業やマーケターなど現場の社員だ。業務に近い立場の若手がサポートすることで、経営層が実務に直結するスキルを習得しやすくなる。
同社の調査によると、50代以上のAI活用率は10%程度にとどまっていた。試験導入の結果、参加した経営層の月間AI利用回数は約3倍に増加。経営陣が率先して参加したことが他の役員への波及を促した。若手がAIスキルを提供し、経営層が経験知を返す「相互補完型」の仕組みが機能している。
●「上から降ろす」だけでは動かない
いずれも「上から制度を降ろす」だけでなく、現場の主体性を仕組みに組み込んでいる。制度の受け手を「当事者」に変える設計こそが、浸透の分かれ目といえそうだ。
桜井氏も、AI活用が浸透している企業の共通点について「経営レベルでAI活用を重要な取り組みとして位置付けたうえで、現場が試行錯誤できる裁量を持ち、そこで得られた学びが組織内に横展開されていく状態を整えている」と語る。
dodaの調査でも、研修や評価制度を整え、AIスキルの定義や評価への反映を実施している企業ほど、AI活用度と業務パフォーマンスの関連を「強く感じている」と答える比率が高い。制度と成果の好循環が見え始めている。
だが、その循環に乗れない社員との差は開き続ける。格差の固定化を防ぐには、推進にかかる工数や役割を可視化し、正式な業務・ミッションとして位置付ける視点が欠かせない。
●制度の先に必要なもの
制度を整えたところで、機能するかどうかは、受け手が「当事者」になれるかどうかにかかっている。しかし現状では、評価や研修の仕組みが充実している企業ほど、社員間の活用レベルの差を強く感じているという逆説がある。
桜井氏は「社員1人1人が『なぜAIを使うのか』『自分の仕事やキャリアにどう結びつくのか』を理解し、主体的に試せる状態が必要だ。納得感や主体性が生まれる動機づけまで含めて設計することが、二極化を防ぐカギになる」と語る。制度があっても、その意味が腹落ちしなければ形骸化しかねない。
専任部署の設置や大規模コンテストは、資金力があってこその施策でもある。中小企業にとっては、博報堂DYのメンタリングのように少人数のペアワークで始められる相互学習や、現場で得られた学びを横展開する仕組みのほうが、現実的な打ち手になるかもしれない。
問われているのは、制度の有無ではなく、「なぜ使うのか」に企業がどこまで答えられるかだ。その説得力が、二極化の行方を左右する。
(カワブチカズキ)
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。

独立系修理店「スマートドクタープロ」、業界に向けた提言を発表(写真:BCN+R)

「AIスマートメガネ」で認知症患者の自立支援 紅茶作りから歯磨きまで… 「自信を取り戻す助け」に【地球を笑顔にするWEEK】(写真:TBS NEWS DIG)5