客30人を出禁にして「年商2倍」に。飲食店が“迷惑客”を切り捨てたら優良客が戻ってきた納得の理由

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2026年05月18日 09:10  日刊SPA!

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バー「CASUAL BAR Don'tCry」経営者・神田芳朗さん(撮影=松嶋三郎)
古今東西、飲食店では利用マナーをめぐるトラブルが絶えない。なかでも近年目立つのが、店側による「出禁通告」だ。SNSではたびたび拡散され、「当然だ」という声と「やりすぎではないか」という批判がぶつかり合う。カスハラ防止条例の整備が進むいま、店側の判断はどこまで許されるのか。そもそも、出禁に至る“決定的な一線”とは何なのか。実際に出禁を宣言した店への取材から、その判断の裏側を追った。
◆7年で約20人を出禁に 「暴言を我慢して心を病むのなら、はっきり伝えたい」

「マジで2度と来なくて結構です」

東京都目黒区内でバー「CASUAL BAR Don’tCry」を経営する神田芳朗さんは’23年2月、店舗のGoogleレビューに書き込まれた口コミに対してこう書き込んだうえで、客側への「出禁」を通告した。

元のレビューは「帰り際にグラスを割ってしまったら、客の心配よりまず第一声に、あ、弁償になるんで、と言われました」と来店時に起こったトラブルを暴露、店側の対応を非難する内容だ。

それに対し、神田さんは「そのまま帰る可能性が高いので(そう伝えた)」「まずは『割ってしまってすみません』じゃないんですか?」と、事細かに反論。店側がここまで「本気の返信」をすることは珍しいが、なぜこうした対応を取ったのだろうか。

「元のレビュー内容を他の客に鵜呑みにされると、店にとってマイナスでしかなかったからです。とくに個人経営の飲食店は、客の暴言を我慢しすぎて体を壊したり、メンタルを病んで死に追い込まれることも多いと聞きます。それもあって、自分の精神を守るためにも日頃からはっきりとした伝え方をしています」

神田さんは’19年から店を経営しており、これまでに出禁を宣告したのは20人程度。バーという性質上、対象は酔っぱらい客が多い。「大半はナンパやウザ絡みが多いですが、相手が明らかに嫌がっているのに、注意してもやめない場合に、出禁や退店を促します」と語る。

直近で出禁にしたなかで、最もひどかったケースを聞いた。

「男性3人客のうち1人がトイレで嘔吐して吐瀉物まみれにしていました。清掃後、それを伝えたところ、『俺たちはやってない』としらばっくれる始末。次に同じことをやったら清掃料を支払うように伝えると、うち1人が僕の顔面を殴ってきたので警察に通報。警察官立会いのもと、迷惑料を支払わせたうえで出禁にしました」

◆HPに出禁の条件を告知する店も 「敬遠していた客が戻ってきてくれた」

「出禁」の通告は、店によって色々なやりかたがある。大阪・天王寺の会席料理「松宮」は、店のホームページ上で「ご予約時間の来店、並びに離席のタイミング等に配慮が感じられない行動を行われる場合」「当店の備品、装飾品の故意の破損が発生した場合」などと全6項目にわたって、出禁の条件を細かく掲載している。

来店経験のない客にとっては緊張感が走る内容だが、店主の松宮剛さんは「ホームページに書いているのは全部実際に被害があり、出禁にしたケースです。『この店面倒くさそうだな』と、来店を控える方がいても気にしません」と話す。

店をオープンしたのは、新型コロナ禍である’20年。カウンター8席、ワンオペで店を切り盛りしていることもあり、「少ない労力で店を守る」というねらいのもと、’22年から計30名以上に出禁通告を行ったという。

「出禁の理由は勝手に持ち込んで食べたお菓子の残骸を放置したり、店の備品や装飾を故意に破損したり、お食事の提供タイミングを合わせたいのに長時間タバコで離席したりとさまざま。再三の注意に応じていただけない場合、『次回のご来店はお断り』とお伝えしています」

個人経営の飲食店で出禁を通達するのは、なかなかの勇気が必要に思える。

「たしかに店をコロナ禍に開いたこともあり、一人でも多くの来客が欲しかったので当初は多少の迷惑行為は見逃していました。それでも、このまま迷惑行為を見逃していると店がめちゃくちゃになり、経営が成り立たなくなってしまう。そう思い、覚悟を決めて(出禁を)伝えるようになりました」

ホームページに記載していない内容であっても、行為次第では「出禁」と判断するケースもある。

「当店ではペアリングコースとして、お食事に合うお酒をその場で提案してご提供することもあります。ただ、会計後に追加でお酒を注文してその分の代金を支払わない方がいました。店としては『無銭飲食』ととらえ説明したのですが、納得されずそのまま退店されましたので出禁としました」

店として「迷惑客はお断り」という意思をはっきり示したことで、思わぬ副次的な効果があったとも、松宮さんは続ける。

「1万円程度だった客単価が1万5000円から2万円程度に、そして年商もおよそ2倍にアップしました。嫌な思いをしたけど何も言えず、店を敬遠されていたお客様が戻ってきてくださったことが、売り上げアップに繋がったと考えています。新規の良いお客様も増えましたし、出禁を宣言して本当に良かったですよ」

◆出禁後に無理矢理来店すると「建造物侵入罪」が成立する可能性も

告知の方法は違えど、二つの店に共通しているのは、「出禁」の基準を店側が定めている点だ。その内容は、法的にどれだけの有効性があるのだろうか。「カスハラドットコム」を運営する弁護士の能勢章氏は、「飲食店を含む一般企業は、顧客に対して出入り禁止を通達できる自由がある」と断ったうえで、理由についてこう話す。

「民法には『契約自由の原則』という基本原則があります。これは、誰と契約を結ぶのか、どのような内容の契約にするかについて、公序良俗に反しない限りは自由に決められるということ。ただし、出禁の理由は性別や社会的な身分等に基づく不合理な差別でない必要があります」

店側から「出禁」通告を受けた客が通告後に来店した場合は、処罰の対象になる可能性もあるという。

「そういった客には建造物侵入罪が成立する可能性もあります。ただし、迷惑行為や出禁にした証拠がないと警察は動いてくれないことが多いため、店側は音声や動画、書面などの記録が必要でしょう」

同じく弁護士の大和幸四郎氏は、近年増えつつあるSNSなどでの「出禁客晒し」について、出禁対象とした客以外への啓発効果も含むと指摘する。

「仮に出禁客が一方的に悪いトラブルだったとしても、SNSなどで好き放題言われると店の信用問題に繋がるため、厳然に対処するのは当然のこと。『(店側から)晒されたり、訴訟されるなら慎もう』という意識づけが客の側に広がる効果もあると思います」

たとえば東京都で’25年4月から施行されているカスタマー・ハラスメント防止条例では、顧客等から就業者への暴言や過度な要求を禁止しているものの、罰則は明記していない。過剰な対応に見えることもある「出禁」だが、現状では店側の「自衛」という意味合いも大きいことは念頭に置いておきたい。

能勢章(のせ・あきら)
能勢総合法律事務所代表。『カスハラドットコム』運営。カスタマーハラスメントを専門とし、これまでに処理したカスハラ案件は100件を超える。著書に『「度が過ぎたクレーム」から従業員を守る カスハラ対策の基本と実践』(日本実業出版社刊)がある

大和幸四郎(やまと・こうしろう)
1996年旧司法試験合格、佐賀県弁護士会所属。佐賀大学客員教授。佐賀いのち電話評議員。得意分野は捜査弁護、遺産分割等の相続問題、借金問題、消滅時効。退職代行事業「もうアカン」代表

<取材・文・撮影/松嶋三郎>

【松嶋三郎】
浅く広くがモットーのフリーライター。紙・web問わず、ジャンルも問わず、記事のためならインタビュー・潜入・執筆・写真撮影・撮影モデル役など、できることは何でもやるタイプ。X(旧Twitter):@matsushima36

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  • 昔々池袋の「大勝軒」おやじさんに余計なことをいう客に「二度と来なくていいぞ」と言われた客数人見ました。なので皆静かに食べてとっとと帰ったものでした。
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