「有給は権利じゃない。会社の配慮」――。ある会社の社長が、SNS上でそんな発言をしたことから、炎上状態となった。さらに、体調不良での休暇についても「体調管理を万全にすべき」との持論を展開し、当たり前のように有給休暇を取得しようとする会社員に対して苦言を呈している。会社と労働者側の権利について、弁護士の見解も交えて検証してみよう。
ある会社の社長が11月6日、X上に次のように投稿した。
「欠勤は労働契約違反です。ちなみに指示通りに業務ができないほどの体調不良も。ですので、体調管理を万全にすることは社会人としてビジネスマンとして大事な約束ごとであり、当たり前のことなんです。風邪引いたんで欠勤します〜、有給にします〜って権利じゃないから!!あくまでも会社の配慮です。」
これが自社の社員に向けられたものなのか、一般論としての見解なのかは定かではないが、「体調管理ができないビジネスマンは社会人失格」「風邪くらいで休むな」「有給休暇は会社員の権利ではなく会社の配慮」と受け取れることから、批判の声が殺到した。この投稿は1週間ほどの間に1000万回以上読まれ、「有給休暇は労働基準法39条に明記された労働者の権利です。また、原則として労働者が自由な時期に自由に取得できるものであり、病気を理由に取得することもできます。会社は正当な理由がない限り拒否できません」とのコミュニティノート(注釈)が追記されている。
一方で、「体調不良になってしまうのは人間なので仕方ないですが、そもそも風邪を引かないようにするための事前対応は何かやっているのか?と言う所ですよね」「体調不良で欠勤、有給を絶対に認めない‼️…訳ではなく、基本的にそうなったら認めるしできる限り対応するけど、ベースとして会社側の配慮なんだよ?ってことなんだと思います」など、当初の投稿の意図を探りつつ、共感する見解も少なくない。
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投稿したのは、宝石の買取・販売を行う貴瞬の代表取締役・辻瞬氏。業界関係者は、辻氏のことを「バイタリティにあふれる人物」と評する。
「若くして起業し、寸暇を惜しんで事業を拡大させてきたので、最近の若い社員が体調不良を言い訳にして簡単に休むことを快く思っていないのでしょう。とはいえ、貴瞬が有休休暇を取れない会社というわけではないです。かなり体育会系で、特に入社間もない頃には勉強時間など自己研鑽を積む時間を取るようにいわれるので、土日などもゆっくりできないという声を聞くこともありますが、手順を追って申請すれば有給休暇は取れるようです。ただ、最近は体調不良で気軽に当日申請で休む人が増えている、という状況を見て、“もう少し体調管理をしっかりしろ”という意図で件の投稿をしたのでしょう。文章だけ読むと、かなりブラックな会社の印象を受けますが、普段の熱い性格がそのまま出た感じですね。元社員の方に聞く限り、定例の会議も白熱して何時間にも及ぶことがあるそうですから、ヒートアップしやすい方なのでしょう」
炎上を受けて辻氏は「(出社を)強要するとは1ミリも言ってません。体調管理の意識を持つことが大事と伝えたいだけ。安易に欠勤を考えてませんか?ってことです」「風邪はひきます。それはどうしようもありません。私は欠勤を安易に考え、体調管理を疎かにしてないか?という点に対して意識醸成できればとポストしました」と、投稿の意図を説明。
さらに、「言葉足らずと法律知識が足りなかったため、誤解を招きました。今一度、お伝えしたいのは欠勤は雇用契約上義務違反(弁護士確認済み)です。なので、安易に欠勤をとることは社内的にもビジネス的にも良くない。権利と義務は正しく認識すべき」と釈明し、欠勤は雇用契約による労働者が提供すべき義務に違反する、との見解を示しつつ、「有給は権利じゃない」とした一文については不適切だったと訂正した。
辻氏が投稿した文においては、「有給休暇」と「欠勤」が混同している感もあるが、本来の使用者と労働者、それぞれの権利と義務について、山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士は次のように説明する。
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「有給(正しくは年次有給休暇)を使用させることは、労働基準法39条が定める会社の義務であり、社員の権利ですので、会社の配慮ではないことは自明です。なお、欠勤は、労働力を提供するという社員の債務不履行(義務違反)ではありますが、債務不履行が成立するためには『帰責性』が必要です。風邪ひいたというのは、よっぽど不摂生な生活をして風邪を引いた場合でない限り、『帰責性』はないでしょう。
また、『当日の有給申請』ですが、これはいろいろ問題になるので『有給の申請方法』を明確に定めておくべきです。就業規則などで『有給申請は3日前まで』と定めておけば、これにしたがわない当日の有給申請は認められません」
有給休暇を使うことは、労働者に認められた「権利」であるので、「権利じゃない。会社の配慮」は、明らかに誤り。また、当日の有給休暇申請が認められるか否かは、会社の裁量によるところがあるが、風邪などの体調不良での欠勤については債務不履行が成立しないことから、「雇用契約上義務違反」との見解も正しくないといわざるを得ない。
辻氏は、「私が伝えたかったのは欠勤によって社内やビジネスにとって迷惑かかるから 安易に考えないよう意識を醸成しましょうってことです」と、一連の投稿の真意を述べており、経営者の立場から賛同する声が一定数あるのも確かだが、休みを気軽に取得できない会社という印象を与えてしまった感は否めない。突然、仕事を休むと周りに影響が出ることがあるというのも理解はできるものの、特に近年は体調不良で無理に出社して、周りに病気を広めるリスクを懸念する意識も強まっており、少しでも異変を感じたら休んで回復に努めるべきとの考え方も多い。
(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)
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