「どうしたらテクノロジーは人を幸せにできるのですか?」
デロイト トーマツ グループが11月15日に開催したイベント「Ecosystems&Alliancesサミット2024」のランチセッションで、同社の永山晴子ボード議長が、台湾初代デジタル発展相のオードリー・タン氏に聞いた質問だ。同イベントでは先端技術によるビジネス革新をテーマに、エヌビディア、日本オラクル、SAPジャパン、ServiceNow Japanら27社や一般企業らが、さまざまに議論した。
タン氏は、10代にして台湾と米国でソフトウェア企業を立ち上げた「異才のプログラマー」だ。台湾の新型コロナウイルス対策では、デジタル発展相として辣腕(らつわん)を振るった。台湾はコロナ封じ込めの初動に世界でいち早く成功したとされ、タン氏は中心的な役割を担ったと評価されている。同氏はマスク販売店の在庫がリアルタイムで分かるアプリ「マスクマップ」開発の指揮をとり、その対応が賞賛された。
世界が注目する天才は、テクノロジーと幸福の関係について、どのように考えているのだろうか。タン氏が語った。
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●「オープンイノベーションが幸せにつながる」 タン氏の意図は?
冒頭、永山氏はタン氏に「テクノロジーはどうしたら人を幸せにできるのか。テクノロジーのブライトサイド(明るい側面)はどういうところにあるのか」と聞いた。タン氏は「オープンイノベーションが、皆さんの幸せにつながるのだと思います」と口火を切った。
「例えばSNSをむやみやたらに禁止をしたり、使えなくしたりしてしまうのではなく、 “プロソーシャル”(社会に資する自発的な行動)の形で投資をして、社会の再構築のために貢献できる形に組み替えていくことが重要だと思います。ただし、こうするだけでは問題解決には至りません」(タン氏)
タン氏はテクノロジーによってツールを作り出す技術者の側に加えて、ツールを活用する大衆の側が、そのツールをどう活用するかにも注目している。技術者が新しいツールを設計することだけでなく、そのツールをさまざまな人々が実際に使うことによって初めて、人々の幸せにつながると指摘した。この両者の関係性を、タン氏は「オープンイノベーション」と呼んでいるようだ。
「われわれ(技術者の役割)は、あくまでもプラットフォームを人々にツールとして渡すこと。そしてツールを与えられた人々に、問題解決に動いていく場を与えるということ。私は、こういったことを信じています。幸せというのは、それぞれの人たちが、それぞれ自分の置かれた状況の中で感じるものだと思います。本当の幸せは、その人にしか分かりません。だからこそ(技術者は)こういった仕組みや技術を開発し、設計していく。われわれ(技術者)は常に謙虚に、良い方向と意図で使われるような技術を設計しなければいけない。このことを肝に銘じながら、将来を思い描いていく必要があります」(タン氏)
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永山氏が「課題にチャレンジするための勇気を、どうやって持っていますか」と聞くと、タン氏は「(台湾の問題では)まず明確な目標をきちんと設定すること。そして共通の価値観を持つことによって解決してきました」と答えた。
「明確にターゲットを設定すること。そして一貫したメッセージをいかにして聴衆に向けられるかがとても重要だと思います。コロナの例で言えば、コロナが始まったばかりの頃は、マスクをつけるにしても、N95という非常に高いレベルのマスクまでつけた方がいいのか(といった議論や)、そもそもマスクをつけることに効果はあるのかといった議論さえありました」(タン氏)
そこでタン氏は、いち早く共通の見解を見つけることを考えたという。
「マスクがあれば少なくとも自分たちを保護し、予防できる。これを共通の見解にできました。その後すぐに、柴犬がマスクをつけている(画像)をメッセージとして打ち出し、より広い聴衆に届けられました。問題を解決する際に、共通項を早々に見極めておけば、課題は乗り越えられます。1つの課題を乗り越えられれば、より意欲的な課題にも取り組めるのではないでしょうか」(タン氏)
最後にタン氏は「テクノロジーは全て完璧なものではありません。不完全なものがあるということを、ぜひ心にとどめておいてください」と結んだ。
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「テクノロジーを用いて社会をどう作っていくのかを考えていただきたいと思います。そうでないと『テクノロジーが暴走してしまったら、どうなってしまうんだろう?』と、皆さんの不安をかき立てることになります。 最後にお話ししたいのが(詩人の)レナード・コーエンの(『Anthem』の)詩になります。『There's a crack in everything, that's how the lights get in』(すべての物にはヒビがあります。しかしヒビがあるからこそ、その隙間から光が入ってくるのです)」
タン氏は技術者でありながら、その技術やツールがその先に、どんな影響を与えるのかまで思いを巡らす想像力を持っているように見えた。こうしたタン氏の多面的な視点は、課題解決のヒントになるはずだ。
(アイティメディア今野大一)
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