世界を上回るペースでBoxが日本で受け入れられている理由 「Box AI」で加速する社内コンテンツの活用

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2024年12月10日 21:11  ITmedia PC USER

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Box Japan 代表取締役社長 古市克典(ふるいちかつのり)氏。東京都千代田区にある同社オフィスにて。

 Boxが、「第3章」の幕開けを迎えている。


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 コンテンツの同期と共有からスタートしたBoxのサービスは、コロナ禍においてリモートワークが進展する中、セキュアなコンテンツ管理の仕組みとして高い評価を得て、日本でも利用が大きく拡大。さらに、昨今ではAIを活用したインテリジェントコンテンツマネジメント(ICM)のメッセージを打ち出し、セキュアなコラボレーションやコンテンツ管理、AIを活用したワークフローの実現を支援するサービスへと進化している。


 そして2024年11月に、米サンフランシスコで開催した同社年次カンファレンス「BoxWorks 2024」では、「Content+AI」をテーマに、ICMを次のステージへと引き上げた。


 インタビュー前編では、Box Japanの古市克典社長に、これまでのBoxの経緯を振り返ってもらいつつ、“第3章”となるインテリジェントコンテンツマネジメントの取り組みについて聞いた。


・インタビュー後編はこちら→「日本社会の幸福がなくてはBoxの幸福はない」 古市社長がこだわる組織作り


●Boxが日本のユーザーに受け入れられている理由


―― 日本におけるBoxのユーザー数が、着実に増加しているようですね。


古市 Boxの国内ユーザー数は、2019年には4800社だったものが、2024年には1万8000社に達し、この5年間で3.5倍に増加しました。また、日経平均株価の日経225では、75%の企業がBoxを利用しています。コロナ禍をきっかけに、Boxを活用する日本のユーザーが急速に増えており、その背景には、Boxが掲げてきたコンテンツクラウドに対する評価が高まってきた点が挙げられます。


 例えば、企業で日々利用している資料や契約書、営業コンテンツ、動画などの非構造化データは、社内データ全体の9割を占めるにも関わらず、その多くが個人活用だけで、全社活用ができていないという実態があります。


 しかも、それらのデータを活用する環境が、コロナ前には出社を前提としたものになっており、ハイブリッドワークを始めとした新たな働き方において、さまざまな課題が生まれたことは、多くの人が経験したのではないでしょうか。


 コロナ禍では、多くの企業がSaaSを導入し、リモートワークでもデータを活用できるようにしましたが、その結果、アプリケーションごとにファイルが保管され、クラウド上にデータが分散され、さらに、利用者がそれぞれにファイルを利用するため、最新版のファイルがどれか分からないといったように、「ファイルの迷子問題」があちこちで見られるようになりました。


 これを解決したのがBoxです。それまでファイルの管理は、アプリケーションごとにMicrosoftやGoogleなどに任せていたわけですが、いろいろなSaaSが活用されるようになると、そのままでは生産性が低下してコストが増大し安全性が低下する状況に直面した企業が相次ぎました。その解決策が、アプリケーションとファイルを分離して管理できるBoxだったわけです。コロナ禍をきっかけに、多くの企業がクラウドを利用し始めた結果、そこで生まれる課題を解決するためにBoxの採用が進んだのです。


 Boxであれば格納できるデータ容量は無制限ですし、ファイルを1カ所に置くことで「ファイルの迷子問題」も解決できます。また、現場ではアプリケーションごとに異なるセキュリティポリシーの設定に混乱しており、それが情報漏えいの温床になるケースもありましたが、Boxによって統一されたセキュリティポリシーの元で、最新のセキュリティ技術を活用しながら、ファイルの管理、運用ができる点も評価されています。


 さらに、電子署名サービスの「Box Sign」も、高い評価を得ました。これは日本法人から本社に強く要望して追加した機能でもあるのですが、他社の電子署名サービスが容量課金であるのに対して、Box Signは無制限で利用できますし、経済産業省のグレーゾーン解消制度にも対応していますから、あらゆるところに電子署名を利用する環境を実現できます。


 お客さまのニーズが拡大し、それに伴ってBoxがサービスを提供する範囲も拡大しています。しかし、2005年の創業時からの基本姿勢は、他社が持つ優れたサービスとつなぐことであり、その方針は変わりません。


―― Boxが日本のユーザーに受け入れられている理由は何でしょうか。


古市 Boxは、「チームワーク促進ツール」といえる存在です。一般的に言われるのが、日本の企業は組織力が強いという点です。コラボレーションやチームワークを重視した日本企業の仕事の進め方にBoxがマッチしたといえます。


 そして、もう1つの理由は、Boxの米本社が、日本のユーザーの声に敏感だということです。例を挙げると、最新のBox AIを開発する際にも日本からパイロットユーザーに参加してほしいという強い要望が本社からあり、日本から2社が参加して日本の声を製品化に反映しています。


 実はBoxのグローバルの売上げのうち、約21%が日本法人となっています。外資系企業としては異例ともいえる高い水準です。しかも、円安の中での結果ですし、日本での受注高も増えていますから、この比率はまだ上昇することになります。


 米本社も日本のお客さまを大事にしたいという気持ちが強く、日本市場にとっては、とてもいい循環が生まれています。他の外資系IT企業からBoxに入社した社員から驚かれるのは、「そこまで日本からの要望を伝えることができるんだ」という点なんですよ(笑)。


 Boxの日本法人を立ち上げた際にはリソースが限られ、知名度も低く、Boxの良さがなかなか理解されませんでした。私は分析が好きなので業界や企業規模などに分類しながら分析をして、どこにBoxの市場性があるのかを考えたのですが、それがことごとくうまく行かない(笑)。行き詰まったときに、ふと思ったのが業界や規模は関係なく、イノベーターやアーリーアダプターと呼ばれる人たちにアプローチするのがいいのではないかということでした。


 実際、Boxの良さを最初に理解してくれたのは、新たなテクノロジーに敏感なITリーダーの人たちで、そこから社内に広がっていくという流れができ、その動きを見た他社の先進的ITリーダーたちが関心を寄せるという流れができました。


 今はマジョリティー層にまで広がり、官公庁や金融など、もともとクラウドには保守的と言われた企業や組織にもBoxが導入されています。「Box Zones」で任意の地域内にコンテンツを保管できるようにしており、日本では、Google Cloud Platformの他、AWSおよびMicrosoft Azureの一部データセンターを活用して、PaaSの上でBoxを稼働させ、国内にコンテンツを保管し、処理できるようにしています。


 私たちは年次イベントとして、「Box Works Tokyo」を毎年日本で開催していますが、参加者からは、「事例の発表が多いですね」と、よく言われます。このように、日本でも数多くの新たな事例が創出されているところです。


●IT担当に人が割けない中堅中小企業にBoxが最適な理由


―― 最近では、どんな事例がありますか。


古市 あずきバーで有名な井村屋グループでは2017年からBoxを採用し、メールへの添付ファイルの暗号化への対策や、紙で蓄積されていた技術継承に関する資料をデジタル化し、このプラットフォームにBoxを利用しています。


 その後もBoxのプラットフォームを活用して、生産現場の機器操作で不明なことがあるとQRコードを読み取ってマニュアルや動画をタブレットに表示したり、ペーパーレス会議システムに採用したり、社内託児所の子供の様子を配信するといったことが行われています。


 さらに外部の協力会社とのFAXやメールでのやりとりをBoxに移行し、生産依頼書や注文書、請求書、出来高実績、納品伝票などをBox上で共有し、自動通知する仕組みへと変更しました。また、社員を対象にしたフォトコンテストにもBoxを利用しています。社員が応募すると「Box Relay」でメタデータを付与して、写真データを管理します。コンテストの審査が終わると、「Box Hubs」に登録して公開する仕組みを構築しています。


 今後は協力会社の社員にも参加を募る予定で、その際にもこの仕組みがそのまま応用できます。井村屋グループでは、こういった取り組みをIT部門の社員だけでなく、現場からの意見を元に、Boxの活用が進んでいると聞いています。


 一方、Boxでは大規模災害が発生した際に、被災地に対して無償でサービスを提供する「災害支援プログラム」を用意し、2024年1月に発生した能登半島地震においてもこれを実施しました。復興支援に取り組む団体同士での各種資料の共有や、被災地の現場から必要な資料の確認、現場の写真および動画のアップロードの際などに利用してもらいました。Boxであればデータ容量が無制限であり、まずはデータを入れてもらえればいいわけですし、共有も容易です。こういったところにもBoxが活用できるわけです。


―― Boxの導入は中堅中小企業でも進んでいるのですか。


古市 Boxを利用しているユーザーの多くは中堅中小企業です。これらの企業がBoxを導入している理由は、業務プロセスを改善や電子帳簿保存法への対応など、デジタル化や自動化に取り組むといったことがきっかけになっています。


 また、現場のアイデアを元にデジタル化や自動化を進めたいといった企業にも、Boxは最適なツールとなっています。Boxは中堅中小企業にとって、DX(デジタルトランスフォーメーション)の最初の一歩になるサービスであるともいえます。事業を成長させたいという企業には、ファイルやコンテンツを活用するための基盤としてBoxを活用してもらい、その上で各社のさまざまなクラウドサービスを使いこなしてもらいたいですね。


 ラムサムウェアの被害にあったり、情報漏えいの問題に直面したりといった中堅中小企業が、その対策のためにBoxを導入しているケースも増えています。IT担当に人が割けない中堅中小企業や、社内情報のセキュリティを強化したいという企業にとっては、Boxは最適なツールだといえます。


―― Boxを導入したものの、データの保存や共有のままで止まってしまっている企業も多いのではないでしょうか。こういった企業がBoxの機能を活用して、次のステップに踏み出すにはどうしたらいいでしょうか。


古市 例えば、Boxの活用を社内のデータ共有だけで利用しているというのであれば、これを協力会社や取引先とのデータ共有に活用してみることが利用拡大の第一歩となります。データをファイル添付とパスワードで送信するのではなく、Boxのリンクによって送付することで、セキュアな環境でのやりとりが可能になります。


 Boxは容量無制限なので、まずは保管場所として利用することから始める企業が多いのですが、データは共有してこそ価値が出ます。ファイルそのものを動かさずに、共有できるBoxのメリットを生かしてほしいですね。


 そして「Box AI for Documents」などを活用することで、Boxに格納されたドキュメントの要約や翻訳に加え、質問をしてそこから回答を得たり、新たなドキュメントを生成したりといったこともできます。Boxをデータ置き場に利用しているだけではもったいないですから、ぜひ、次のステップに踏み出してもらいたいですね。


 Box Japanの中には、次にどんな用途で活用したらいいのかを検討していたり、悩んだりしていたりするお客さまをサポートする専任部隊として、カスタマサクセスマネジメント(CSM)チームがあります。より詳細なサポートが必要な際には、「Box Consulting」によるサポートも可能です。CSMでは、定期的なウェビナーや動画情報の配信も行っています。こうしたコンテンツも活用していただけると、新たな活用のヒントが生まれるかもしれません。


●非構造化データとAIは相性がいい Boxが踏み出す新たな道とは?


―― Boxでは自らの取り組みが、「第3章」に突入したと位置付けています。これまでの経緯を教えてください。


古市 Boxは2005年に創業し、2013年に日本法人を設立しました。創業から10年間の第1章は、「ファイルの同期と共有を行うサービスを提供する企業」という位置付けでした。2016年からの7年間は、第2章として「コンテンツの管理と安全管理」に力を注ぎ、それに合わせてプロダクトを拡張してきました。そして、2022年からは「インテリジェンスと自動化」に取り組んでおり、これを第3章と呼んでいます。


 ここでは、インテリジェントコンテンツマネジメント(ICM)の方針を打ち出しAIを活用することで、これまでの「コンテンツクラウドマネジメント(CCM)」から、より一歩進んだサービスになったと位置付けています。


 米国ではECM(エンタープライズコンテンツマネジメント)が注目を集めていますが、Boxが打ち出したICMは、それを進化したものであるという訴求も行っています。ただ、日本ではECMがあまり浸透していませんから、ECMをICMによって置き換えていくという提案は、なかなか理解されにくいので、異なるアプローチを取る必要があると考えています。


―― Boxは、AIをどう捉えていますか。


古市 非構造化データとAIは、とても相性がいいと思っています。Boxによってコンテンツが一元管理されるようになると、AIを活用してコンテンツの検索や要約、生成が行いやすくなります。


 これまでは、コンテンツを検索する場合には「そのファイルは、このときに使っていたはず」とか、「このあたりに格納してある」といったように、認知能力を元に検索をすることが多かったのですが、AIを活用することで、認知能力の制約がなくなり、全社で一元管理されたコンテンツの中から、目的にあったものを横断的に検索することができるようになります。Boxと生成AIを組み合わせることで、より効果的なコンテンツ活用が可能になるというわけです。


 Boxは自らAIエンジンを開発しているわけではなく、世の中にある優れたAIを活用し、それぞれのAIの特性を生かした活用ができるようにしています。MicrosoftのAzure OpenAI Serviceや、Google CloudのGemini、AnthropicのClaude、AWSのAmazon Titan、IBMのwatsonxの他、お客さまの独自のAIも活用できるようにし、目的に応じてAIを選択できるようにしています。もちろん、日本のユーザーのためには、日本語に最適化したLLMの利用が求められていますから、そうした声にも対応できるように検討を進めているところです。


 今は「この資料を要約して」といったように、単一ドキュメントに対して、AIで問いかけるといった用途が中心になっていますが、徐々に複数のドキュメントを元に、AIを活用することが増えているところです。


 例えば「育児休暇中の給与はどうなるのか」といった問い合わせには、ポータルである「Box Hubs」に労務規定などの複数の情報を入れておき、それによって的確な回答を得ることができます。Box社内でも、Box Hubsの中にBoxの活用事例のデータを全て入れて「この業界の優れた活用事例を教えて」と言うだけで、代表的な事例が抽出できるといった使い方をしています。Box AIは、動画や静止画、図表にも利用できますから、ファッション業界など、画像を多用しているシーンでも活用が可能です。


 将来的には、社内に蓄積した全てのデータを読み込ませて、「我が社が着手すべき新規事業は何か」といった質問をすれば、AIがそれを答えてくれるという世界が想定されますが、社内に蓄積されたコンテンツは全てが正しいわけではありませんし、ハルシネーションが起こる可能性がありますから、そこに到達するまでには、まだ時間がかかりますね。


 一方、BoxではAIの活用によって、文書のライフサイクルマネジメントを自動化するといったことにも取り組んでいます。データ入力フォームビルダーである「Box Forms」でデータを取り込み、テンプレートとデータを活用しながら、Box Doc Genで文書を作成して保管。ワークフローである「Box Relay」によってレビューや承認を行い、Box Signで電子署名をし、「Box AI metadata extraction」により、AIを活用したメタデータの自動生成を行うことで、コンテンツの検索が可能になるといった活用ができます。さらに、ここにノーコード開発ツールである「Box Apps」(旧Crooze)を活用して、さらに自動化を推進することになります。


―― Boxでは「Box AI元年」という言い方をしていますね。


古市 Boxは2024年をスタートに、インテリジェンスと自動化に向けた取り組みを加速することになり、Box AIに関するサービスや機能は今後も増えていきます。今お話した文書のライフサイクルマネジメントの自動化を構成するサービスの中にも、リリースはこれからというものが含まれています。


 こういったインテリジェンスと自化の世界を、AIによって作り上げていくことを宣言し、それに向けたサービスを投入していくという点で、2024年を「Box AI元年」としています。それを裏づけるように、2024年11月に、米サンフランシスコで開催した「BoxWorks 2024」でも、インテリジェンスと自動化に関するサービスと機能を数多く発表しました。


・インタビュー後編はこちら→「日本社会の幸福がなくてはBoxの幸福はない」 古市社長がこだわる組織作り



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