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2024年12月12日 23:11 ITmedia PC USER
限定公開( 1 )
既報の通り、IntelのデスクトップPC向け新型GPU「Intel Arc B580 Graphics」を搭載するグラフィックスカードが12月24日(米国太平洋夏時間)から順次発売される。米国における想定販売価格は249ドル(約3万7300円)からとなる。
発売に先駆けて、同GPUを搭載するIntel純正グラフィックスカード「Intel Arc B580 Limited Edition」を借用できた。ちょうど手元に先代の「Intel Arc Graphics A580」を搭載するグラフィックスカード「ASRock Arc A580 Challenger 8GB OC」があったので、その進化ぶりを確かめてみたい。
●Intel Arc B580 Graphicsの概要
Intel Arc B580 Graphicsは、「Battlemage(バトルメイジ)」というコード名で開発が進められてきたGPUで、新世代の「Xe2アーキテクチャ」を採用している。本アーキテクチャの主な特徴は以下の通りだ。
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・「Xeコア」(GPUコア)が第2世代に
・SIMD16演算をネイティブサポート
・先代比で処理効率を改善
レイトレーシング(RT)ユニットが第2世代に
・先代比でスループット(実効処理速度)を最大2倍に
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「Xe Matrix Engine(XMX)」を搭載
・行列演算のパフォーマンスが飛躍的に向上
「XeSS(Xe Super Sampling) 2」をサポート
・フレーム補間「XeSS Frame Generation(XeSS-FG)」を実装
・低遅延技術「Xe Low Latancy(XeLL)」を実装
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グラフィックスメモリを増量
・12GBを搭載(先代比でプラス4GB)
Arc B580は、WQHD(1440p/2560×1440ピクセル)描画に最適化されたGPUだ。主な仕様は以下の通りとなる。
・SoC名:BMG-G21(「BMG」はBattlemageの略とのこと)
・製造プロセス:TSMC N5(5nm)
・ダイのサイズ:272mm2
レンダースライス:5基
・Xeコア:20基
・Xe Vector Engine(XVE):160基
・XMX:160基
・RTユニット:20基
・ゲームクロック:2670MHz
・最大クロック:2850MHz
グラフィックスメモリ:12GB(GDDR6/192bitバス)
・メモリ帯域:毎秒456GB
接続バス:PCI Express 4.0 x8(インタフェースはx16仕様)
消費電力:190W
・推奨電源能力:600W
対応API:DirectX 12 Ultimate/Vulkan 1.4(※1)/OpenGL 4.6/OpenCL 3.0
映像出力ポート:DisplayPort 2.1(UHBR13.5対応)×3+HDMI 2.1a×1
・DisplayPortの最大解像度:8K(7680×4320ピクセル)/60Hz
・HDMIの最大解像度:8K/120Hz
・HDR:対応(HDR10/HDR10+ Gaming/Dolby Vision)
・Adaptive Sync:対応
メディアエンジン:2基
・エンコード/デコード対応コーデック:H.264(AVC)/H.265(HEVC)/AV1/VP9
・デコードのみ対応:XAVC-H
(※1)Vulkan 1.4対応グラフィックスドライバは後日提供(2025年第1四半期予定)
Resizable BAR対応のPCI Express 4.0 x8バスが必須
本グラフィックスカードは「Resizable BAR(Smart Access Memory)」に対応するCPUとチップセットが必須となる。2024年12月時点でサポートするとCPUとチップセットは以下の通りだ。
・Intel製
・第10/第11世代Coreプロセッサ+Intel 400/500シリーズチップセット(※2)
・第12〜14世代Coreプロセッサ+Intel 600/700シリーズチップセット
・Core Ultra 200Sプロセッサ+Intel 800シリーズチップセット
AMD製
・Ryzen 3000/5000プロセッサ(※3)+AMD 500シリーズチップセット
・Ryzen 7000〜9000プロセッサ(※4)+AMD 600/800シリーズチップセット
(※2)マザーボードによってはResizable BARを有効化できない場合あり(有効にできるかどうかはメーカーに問い合わせてほしい)(※3)Ryzen 3000Gシリーズは非対応(PCI Express 4.0非対応のため)(※3)Ryzen 8500Gシリーズで使うとパフォーマンスが低下する(PCI Express 4.0バスが4レーンに制限されるため)
●「Intel Arc B580 Limited Edition」の概要
先述の通り、今回レビューするIntel Arc B580 Limited EditionはIntel純正のグラフィックスカードだ。同社によると「高いパフォーマンス」「エアフローの増量」「静かな動作」の3点にこだわって設計したという。
グラフィックスカードの基板は「全長の半分程度」しかなく、残りはヒートシンクを始めとする冷却機構に費やされている。ファンは2連構成だ。厚みはちょうど2スロット分となる。
先代のArc A580では「8ピン×2」だったGPU補助電源は、Arc B580シリーズでは「8ピン×1」構成に変更された。ただし、定格の消費電力は5W増えている。
仕様にもある通り、映像出力端子はDisplayPort 2.1(UHBR13.5対応)×3+HDMI 2.1a×1という構成となっている。DisplayPort 2.1出力のプライマリーは中央のポートとなっており、対応ディスプレイでデイジーチェーン(数珠つなぎ)接続を行う場合はこの端子を使う必要がある。
ゲーミングというと「派手」というイメージを持つかもしれないが、本製品はその対極をゆくシックないでたちをしている。「落ち着いたグラフィックスカードが欲しい」という人にもお勧めだ。
●Arc B580の実力をチェック!
ここからは、Arc B580の実力を先代のArc A580と比べていこう。冒頭にもある通り、Arc B580はIntel Arc B580 Limited Editionで、Arc A580はASRock Arc A580 Challenger 8GB OCを使って比較していく。
使うPCは、以前レビューした「Intel NUC 13 Extreme Kit」のCore i9-13900K(Pコア8基16スレッド+Eコア16基16スレッド)モデルで、UEFI(BIOS)とOS(Windows 11 Pro)は最新バージョンにアップデートしている。メモリは64GB(32GB×2/DDR5)、ストレージは1TBのSSDだ。
グラフィックスドライバは、Arc B580がテスト版の「バージョン6252」、Arc A580が最新の「6319」となる。Arc A580については、カードのファームウェアも最新版としている。
3DMark
まず、3Dグラフィックスの能力を試すべく、ULの「3DMark」における主要なテストを実施した。総合スコアは以下の通りだ。
・Fire Strike(フルHD/Direct 11)
・Arc B580:3万1441ポイント
・Arc A580:2万2613ポイント
Fire Strike Extreme(WQHD/Direct 11)
・Arc B580:1万5536ポイント
・Arc A580:9434ポイント
Fire Strike Ultra(4K/Direct 11)
・Arc B580:7937ポイント
・Arc A580:4852ポイント
Time Spy(WQHD/DirectX 12)
・Arc B580:1万1564ポイント
・Arc A580:1万1564ポイント
Time Spy Extreme(4K/DirectX 12)
・Arc B580:7579ポイント
・Arc A580:5843ポイント
Port Royal(RTテスト/DirectX 12)
・Arc B580:7905ポイント
・Arc A580:5693ポイント
テストにもよるが、Arc A580比で約1.3〜1.6倍のスコアを記録している。環境が異なるため単純比較は難しいが、過去にITmedia PC USERで行ったもの、あるいはULのWebサイトで確認できる「GeForce RTX 4060」のテスト結果と同等か、それを上回るスコアは確保できている。
Intelが自称する「GeForce RTX 4060を上回る」といううたい文句は、大げさではない。
FF15ベンチマーク
続けて、実際のゲームをベースとするベンチマークテストを代表して「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク(FF15ベンチマーク)」を試してみた。各解像度におけるスコアは以下の通りだ。
・フルHD(1920×1080ピクセル)
・Arc B580
・標準画質:1万6310ポイント
・高画質:1万1085ポイント
Arc A580
・標準画質:1万1480ポイント
・高画質:ポイント
WQHD(2560×1440ピクセル)
・Arc B580
・標準画質:1万1478ポイント
・高画質:8302ポイント
Arc A580
・標準画質:8183ポイント
・高画質:5929ポイント
4K(3840×2160ピクセル)
・Arc B580
・標準画質:6353ポイント
・高画質:5102ポイント
Arc A580
・標準画質:4425ポイント
・高画質:3551ポイント
以前のテストと比べるとArc A580のスコアが向上していることに、ドライバの“熟成”を感じるところなのだが、それ以上にArc B580のスコアは向上している。やはり物理的な改善は重要ということを物語っている。
Procyon Computer Vision
続けて、ULの総合ベンチマークテストソリューション「UL Procyon」を使って、GPUベースのAI(人工知能)処理に関するテストを行う。
まず、画像認識のパフォーマンスを試す「AI Computer Vision」テストを実施した。本テストでは演算精度を3種類(Intenger/Float16/Float32)から、利用するAPIをWindows版では4種類(Direct ML/TensorRT/OpenVINO/SNPE)から選択できるが、今回は全ての演算精度をWindows MLとOpenVINOを使ってテストを行った。スコアは以下の通りだ。
・Direct ML
・Arc B580
・Intenger(整数演算):196ポイント
・Float16(16bit浮動小数点演算):1316ポイント
・Float32(32bit浮動小数点演算):735ポイント
Arc A580
・Intenger(整数演算):212ポイント
・Float16(16bit浮動小数点演算):443ポイント
・Float32(32bit浮動小数点演算):447ポイント
OpenVINO
・Arc B580
・Intenger(整数演算):2613ポイント
・Float16(16bit浮動小数点演算):1908ポイント
・Float32(32bit浮動小数点演算):855ポイント
Arc A580
・Intenger(整数演算):1306ポイント
・Float16(16bit浮動小数点演算):947ポイント
・Float32(32bit浮動小数点演算):460ポイント
当たり前かもしれないが、APIベースで比べると事実上ネイティブ動作となるOpenVINOの方がスコアが良い。GPUベースで比べると、Direct MLにおける整数演算を除いてB580の方が良好だ。行列演算に対するパフォーマンス向上策が奏功していることがうかがえる。
Procyon AI Photo Generation
続けて、Procyonに内包されている画像生成AIのパフォーマンステスト「AI Photo Generation」を試してみた。このテストでは生成AIモデルとして「Stable Diffusion」を使っており、今回はOpenVINO APIによる軽負荷の「INT8」テストと、中負荷の「FP16」テストを実施した。スコアは以下の通りだ。
・INT8(8bit整数)テスト
・Arc B580:9657ポイント
・Arc A580:5162ポイント
・FP16(半精度浮動小数点数)テスト
・Arc B580:1487ポイント
・Arc A580:833ポイント
スコアだけを見ると、約1.8〜1.9倍のパフォーマンス差がある。Intelは「グラフィックスメモリの多さは、より大きなAIモデルの実行時に効果がある」としていたが、そのことがうかがえるスコアだ。
Procyon Video Editing
最後に、メディアエンジンの性能を試すべくProcyonに内包された動画編集テスト「Video Editing」を実行してみた。本テストは「Adobe Premiere Pro」を使って動画の作成に掛かった時間からスコアを算出するのだが、今回はGPUアクセラレーションを“オン”にした上で、スコアではなく処理にかかった時間を比べてみよう。結果は以下の通りだ(★印が付いているものはGPUアクセラレーション有効)。
・フルHD/重量★
・Arc B580:39.9秒
・Arc A580:33.4秒
フルHD/軽量
・Arc B580:34.3秒
・Arc A580:29.6秒
4K/重量★
・Arc B580:82.8秒
・Arc A580:76.7秒
4K/軽量
・Arc B580:77.4秒
・Arc A580:69.8秒
重量パターンにおけるGPUアクセラレーションの効果は大きく、CPUに処理を代替させた場合の時間と比べるとフルHD時は2割程度、4K時で3%程度の時間で終わる。これはArc B580でもA580でも同様の傾向なので、解像度が高い動画を書き出す機会の多い人にはどちらもお勧めだ。
しかし、今回のテストではいずれも先代のArc A580の方が書き出しが短い時間で終わった。Premiere Proか、グラフィックスドライバのいずれかがまだこなれていないのだろうか。今までのテストはArc B580が優位だったので、ちょっと驚いた。この点は、リリースされてからしばらく経過した後に改めてテストしてみたい。
●消費電力は?
IntelはArc B580の「ワッパの良さ」を強くアピールしている。実際のところどうなのか、システム全体の消費電力を比較してみようと思う。
今回は先のベンチマークテストで使ったシステムで「アイドル状態」の時の最小消費電力と、3DMarkのTime Spy Extremeを実行している際の最大電力をワットチェッカーで計測した。結果は以下の通りだ。
・Arc B580
・アイドル時:75W
・最大時:316W
Arc A580
・アイドル時:85W
・最大時:377W
着実に消費電力は削減されていた。パフォーマンスが約3割増しである一方、ピーク時の消費電力を17%削減できるのであれば、結構割に合うような気もする。
●確かに「ワッパ」に優れている 人気が出るかは価格の推移次第?
Intel Arc B580 Limited Editionを通してIntel Arc B580 Graphicsの実力をチェックしてきたが、率直にいうと思ったよりできが良い。先代のIntel Arc A580 Graphicsで課題だった点を着実に改善し、WQHD解像度程度のゲームであれば十分に楽しめる性能を備えている。日本では5万円前後の値付けが想定されているが、もう少しこなれた価格になれば人気が出そうだ。
今回は都合からXeSS 2を試す時間を十分に確保できなかったが、動画のエンコード回りの検証も含めて、機会を改めて確かめていきたい。
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