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「むぎはハンデを気にすることなく、楽しそうに過ごしています。頑張っているわけでも可哀想なわけでもなく、むぎにとっても私にとっても今の生活が日常なんです」
【写真】右手が肉球のあたりから曲がっています…獣医師さんには「一生治ることはありません」と言われました
飼い主さん(@GrinkatyBlue)は愛猫むぎくんとの暮らしを、そう表現する。むぎくんは神経の異常によって筋肉が萎縮する「神経原性筋萎縮症」で右手が曲がっている。飼い主さんはそんな右手も含め、むぎくんを愛しく思う。
庭に遊びに来ていた子猫の右手に異変が…
2023年6月中旬、飼い主さん宅の庭に野良の母猫が子猫4匹を連れてきた。むぎくんは、その中の1匹。子猫たちは当時、生後2カ月ほどだった。
2週間ほど経つと子猫たちは姿を見せなくなり、母猫とむぎくんだけが庭に現れるように。当時、猫の保護に関する知識を持っていなかった飼い主さんはご飯をあげながら様子を見守った。
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そんなある日、むぎくんの右手が曲がっていることに気づく。母猫から引き離すことへの葛藤はあったが、何とかしなければ…と思い、保護を決意。当初は動物保護団体に頼ろうと考えたが、返信がなかったため、自力での捕獲を試みた。
「引きずっている前足がアスファルトで擦れて出血していたので、急がなければと思いました」
この子は、外では生きていけない。もし捕獲に失敗したら、二度と姿を見せてくれないだろう。そんな不安を抱えた“一発勝負の捕獲”は見事、成功。近くの動物病院へ駆け込んだが、足が曲がっている原因が分からなかったそう。
しかし、獣医師の紹介で整形外科に詳しい獣医師にセカンドオピニオンをしてもらえることに。その結果、右手は神経が切れて筋肉が発達していないことが分かった。
「どこかに挟まって抜けなくなり、無理やり引っ張ったことで神経が切れ、筋肉が発達しなくなり、曲がったままになったのではないかとのことでした。一生治ることはありません、と言われました」
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獣医師から背中を押されてお迎えを決意
どうやって育てればいいのだろう…。不安になった飼い主さんに獣医師は、前足が不自由でも猫らしい生活を楽しんでいる実家猫の話をしてくれた。
それにより心は少し楽になったが、自身の年齢的に子猫を迎えることは難しく思え、里親探しをスタート。前足が曲がっていることも受け入れてくれる里親希望者を見つけたが、写真を送ると、断りの連絡が…。
その後は3カ月の間だけ預かり、里親探しをしてくれるボランティアさんと出会い、むぎくんを託そうかと悩んだ。だが、ワクチン接種に行った際、獣医師から言われたことが胸に刺さり、心境が変化する。
「獣医師さんは私の気持ちを聞き、『あなたの年齢なら大丈夫』と言ってくれた。そして、『3カ月で里親さんが見つからなくて戻ってきたら、元のように懐いてくれない可能性もありますよ』と。その言葉を聞いて、ハっとしました」
私の家族にします。気づけば、そんな言葉が自然に口からこぼれた。
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こうして家族となったむぎくんは無邪気な姿をたくさん見せるように。元気に走り回り、右手で物をちょいちょい触って遊ぶこともある。飼い主さんは感情豊かな鳴き声や甘えん坊な仕草に、つい目尻が下がる。
「むぎの要求を理解できない時は、拗ねて顔に猫パンチ。ただ、動物病院では獣医師さんに褒められるほど落ち着いています」
ハンデを持つ前に外猫を助けたくて動物保護活動をお手伝い
日常の中で、むぎくんは右手の曲がった部分を肉球の代わりにして、3本足で歩いたり走ったりする。1m以上の高さに登ることは難しいが、テーブルへのジャンプは可能。自分で顔を洗うこともできる。
「保護直後は、ケージの2段目に登っていたことがあって驚きました。最近は私でも重いと感じる引き戸や襖を一瞬で開けるので、ストッパーを購入しました(笑)」
飼い主さんはむぎくんに猫らしい生活を楽しんでほしくて、キャットタワーの横に低めのテーブルを置いて段差を作り、高所も楽しめるように配慮。お気に入りの“ニャルソック場所”には低反発のマットを敷き、着地時、左手にかかる負担を和らげている。
また、関節への負担も考慮してダイエットフードで肥満予防。
「最初の頃は肉球を触っても全く反応しませんでしたが、最近は嫌がるので、もしかしたら、少し回復してきているのでは…と淡い期待を抱いています」
もし、むぎと出会った頃に自分が猫の保護に関する知識を持ち合わせていたら、ハンデを持つ前に助けられたかもしれない。そんな気持ちも心にあるからこそ、飼い主さんは最近、ボランティアとして保護猫の譲渡会やTNR活動(※野良猫に不妊手術を施し、繁殖を抑えるための活動)の手伝いを始めた。
「譲渡会のお手伝いをした時には、ご来場者様が片目の見えない猫に『この子は目が見えないのね。でもそんなこと問題ないですよ。かわいい子ね』と笑顔で言ってくださった。泣きそうになりました。何かと世知辛い世の中ですが、ハンデに対して優しいお気持ちを持つ方も多く、嬉しくなります」
猫の中には交通事故や怪我、虐待などで後天性の障害持つ子もいる。そうした子も幸せなニャン生を歩んでいけるよう、様々な病気の知識やサポートの仕方が広く知られてほしい。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)